第5話「報告と審問」
翌日早朝、千歳は学園庁舎の地下に呼び出されていた。
そこは術士の査問が行われる“審問室”。内部は呪結界で封じられ、真偽を暴く術具が並ぶ。
対面に座るのは、巫女弓月。そして、神樂。
「夜間外出、未許可の呪力行使、さらに式神との再契約。何か言うことは?」
弓月の声は、どこまでも淡々としていた。
「……鬼胎を浄化しました」
千歳の返答は、まっすぐだった。
「記録には残っている。ただ、なぜそれを君が“単独で”行ったのか。報告義務は理解しているはず」
「式が足りないと、犠牲者が出ると思った。それだけ」
神樂が溜息を吐いた。
「千歳。君は、もう“学園の一部”じゃない。勝手な行動は——」
「そもそも破棄したのは、あなたのほうでしょう?」
神樂の表情が一瞬だけ揺れた。
沈黙。
やがて弓月が口を開いた。
「今回の行動は、異例だが“功績あり”と見做す。だが、《ククロ》との契約形式が不明瞭だ。以後の動向を“観察対象”として記録します」
つまり、監視下に置くという意味だった。
千歳は立ち上がった。
「どうぞ。私は、ただ浄化を続けるだけです」
その背を見送りながら、神樂はぼそりと呟く。
「……やはり、あれは“再現”されてしまったか」
弓月の瞳が細まる。
「ええ。十年前の“黒式事件”と、同じ構造です」
その名を、千歳はまだ知らない。
だが、彼女の歩む先には、確かに過去の亡霊が蠢いていた。