第3話「再会、血塗れの夜」
その夜、学園の北側斜面——通称“無番区域”にて、異常霊力の発振が確認された。
そこは結界指定外区域。退学処分者や事故死者の式札が埋められる、呪術の吹き溜まり。
千歳は、誰に命じられたわけでもなく、その場所に立っていた。
空に浮かぶ月が、まるで血で染まったかのような鈍い赤。
風が、死者の声を孕んで吹き抜ける。
と、不意に背後から、誰かの足音が近づいてきた。
「……まだ、こんな場所に来るなんて。変わらないな、お前は」
その声を聞いた瞬間、千歳は目を見開いた。
「……芹澤、くん」
そこに立っていたのは、一年前に“式崩壊事件”で死んだとされていた少年だった。
彼は、生者の気配をかすかに残しつつも、明らかに人ならぬ“何か”を背負っていた。
「神尾。あの時……おれを救ってくれなかったよな」
「……救えなかった。術式が破られて、時間が足りなかった」
芹澤は一歩、彼女に近づいた。
「でも、俺は死ななかった。いや——“死ねなかった”」
彼の背後で、赤黒い霊が唸る。鬼胎。
この地に巣くう呪の核——人の情念が生霊となって憑依した存在。
「それが今、俺の中にいる。千歳。お前の呪が、まだ俺を繋ぎ止めてるんだ」
その言葉に、千歳の目が揺れた。
彼女の呪は“救うための呪”。一度かけたら、対象が死なぬ限り解けない。
「——助けてくれ。俺を、“ちゃんと”殺してくれ」
その瞬間、千歳の中で、何かが決壊した。
血のように赤い式札を取り出し、唇で呪言を刻む。
「契約、再構築。《黒狐》、応答せよ」
その言葉に応じるように、空間が裂け、影が吹き出す。
そこに現れたのは、ユキノオの影を継ぐもうひとつの存在——漆黒の式神、《ククロ》だった。