天使の使命
「……というわけで、我々天使の使命は人間たちが罪を犯さないよう、無事にこの天国へとやってこられるようにと導くことなのです」
今日初めて地上へと降りる若い天使に教師役をしていた天使が最後にそう演説をしていた。若い天使はすでに何度となく聞いているその言葉を、半ばうんざりしたような様子で聞いている。
「もう分かってるよ」
若くやる気に満ちあふれた天使の口から思わずといった調子でそんな文句にも似た言葉がこぼれる。どうやら早く地上に降りてその使命を果たしたいらしい。
それを感じた教師役の天使は、まだ幾つか言いたいことがないでもなかったが彼を地上へと向かわせることにした。
きっとやる気に満ちた彼ならばけがれのない清らかな魂をいくつも導いてくれると信じて。
「先生は地上の人たちは罪にまみれているって言ってたけど、案外そうじゃない人たちも多いんだなあ」
地上に降りた天使は辺りを見回し、けがれのない魂が簡単には数え切れないほどいることに目を輝かせていた。
「これだけの魂を導くことができたら、きっと先生も褒めてくれるぞ」
腕まくりをして気合を入れた若い天使は、その魂一人一人を天国へと導き始めた。
それから数時間後。若い天使はたくさんの清らかな魂を連れて天国へと戻ってきた。軽く数えただけでも百は超えるだろうか。
教師役の天使は思わずその天使を問いただす。すると若い天使はこう答えた。
「はい、地上に降りたら全くけがれのない魂を持った者たちが何人もいたので、それを連れて帰りました。たしか病院とかいう場所だったと思います」
それを聞いた教師役の天使は、すぐにその魂たちを地上へと戻すようにと怒鳴りつけた。
それからしばらく経った頃の地上では、多くの赤ん坊が同時に呼吸をしなくなり、そしてまた同時に息を吹き返すという奇妙な現象についての原因の究明が必死になって行われていた。