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3.不思議さんのお気に入り

推定アラフォーなので「ちゃん」では失礼かと思いまして

「おはようございます」

背後から不意討ちをくらい、ありったけの忍耐力で振り向くのをこらえた。姿を捉える前に声で登場とは、卑怯なり。

出勤直後の大塚さんだ。9時を少し過ぎているのだが。相変わらず謎の生態。

たまたま課長にサインをもらいに来ていたのだが、明日からこの時間はこのフロアにいるようにしようかな。なお、自席は1つ下のフロアで、普段この階に用はない。

おはよう、おはようございます、と周りが挨拶を交わすのに乗じて自分も控えめに挨拶してその場から離れた。


「そうだ、聞いてー。朝からちょっと良いことがあったの」

食堂で片耳にイヤフォンを突っ込み昼食の卵とじ蕎麦をすすっていたら、あの声が聞こえてきた。

――良いことが!?ぜひお聞かせいただきい。

BGMをミュートにして思わず聞き耳を立てる。どうやら斜め後ろ辺りにお互い背を向けあって座っているらしい。


「朝から東くんの顔面拝めたー」

「中途の子ですか?まだどれだか見分けがついてないです」

「同じく。若い子がみんな同じ顔に見えてる」

「ま、私も東くん以外は顔も名前も覚えられていません!彼はよく書類持ってきてくれるから覚えられたけど」

「今年は異動も新卒も多かったですもんね」


え、なにそれ?俺と顔を合わせたことが良いこと?


「大塚さんのお気に入りなんですか?東くん?」

「仕事を真面目に頑張っている姿勢も応援してるんだけど、ただただ見目が好みなので遠目から眺めてニヨニヨしてる」

「かっこいい人、居た?」

「エリさんとは趣味が合わないからなんとも。4月の新メンの中では一二を争う彫りの深さです。濃い顔至上主義なので」

「旦那さんもどちらかと言えば濃いですもんね」

「ダンナは鑑賞するほどのものではないけどね。息子にはあの様に鑑賞に耐えうるグッドルッキングに育ってもらいたいものですよ」


へぇ〜、既婚で子持ちなんだ。突然の情報過多に内容を整理しつつ、ちょっと顔面が緩む。見目が良いと評価されて悪い気はしない。

顔を上げるとほど近いところに座っていた同じ部署の男性と目が合った。名前をまだ覚えられてないけど、同じフロアにいるのは認識している。自分より少し年上に見える優しそうな塩顔の彼は苦笑気味に目礼をしてくれた。

あ〜大塚さんの声通るからなぁ、聞こえてたのかなぁ。

少なくとも自分がニヤついている顔を見られたわけで、会話が聞こえてなかったとしても変な奴だよな。その後の休憩時間はちょっと居心地が悪かった。

好みとは言ったが一般的なイケメンとは言ってない

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