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9話


 全ての真相は明らかにされた。

 

 ならば後は終わらせるために排除すべき対象を討伐するだけ。

 

 意識を失った美来を和月が守る中で千紘、飛色、伏見は全ての元凶の骸獣2体を討伐しようと動いていた。

 

「オラァッ!!」

 

 圧倒的な体格差すらものともしない飛色は当然のように村長だった異骸型の骸獣を殴っており、何度も殴られる骸獣は唸り声を発すると飛色を殺すために狼の頭の形の右腕で食いちぎろうと襲いかかった。

 

 迫ってくる狼の頭の右腕に対して飛色は躱すと同時に右腕の下に滑り込むと飛色は狼の頭の右腕を蹴り上げてみせた。

 

 飛色が蹴りを食らわせた狼の頭の右腕、下からの蹴り上げであり下顎にあたる部分を彼が蹴った事で狼の頭は乱暴に口を塞がれ一応備わっていた舌を噛んでしまう。

 

「メインディッシュだろ?もっと楽しませろ!!」

 

 狼の頭の口を無理矢理閉じさせる蹴りを放った直後でありながらも素早い動きで骸獣の体を駆け上る飛色は右腕を介して一気に骸獣の頭へ迫ると右手の手刀で一撃を素早く突き出しぐちゃぐちゃに歪んだ頭にある瞳に突き刺してみせた。

 

「もう1発!!」

 

 手刀で瞳を刺された骸獣は激痛に襲われ苦しみ悶え、飛色は手刀を抜くともう一度手刀で突き刺し骸獣の瞳を抉ろうとした。が、飛色が手刀を抜くと攻撃を受けた瞳の傷口から黒い液体が溢れ出し、溢れ出した液体は複数の人型の骸獣・骸人となって彼に掴みかかろうとした。

 

 その時、無数の光が飛色の周囲に飛び交うと骸獣の瞳から溢れ出た液体から産まれたばかりの骸人を八つ裂きにして消滅させてしまう。

 

 何が起きたのか、それを理解している飛色は手刀による2撃目を食らわせながらある男へ乱暴な言葉を放った。

 

「テメェ、千紘!!邪魔するな!!」

「キミが力を使わないならボクが使う他ないだろ?息巻いて仕切った風な事言ってた伏見の力も気を失った彼女を守る和月がいる中じゃ使えない……元々使う気のないキミのせいだから責めるなよ」

 

「ざけんな!!これはオレのメインディッシュだ!!」

「ならせめてメインディッシュの肉汁をこぼすな、汚らしい」

 

「あ?うるせぇぞボケが!!」

 

 千紘の言葉に苛立ちを見せる飛色は敵に突き刺した手刀を捻り深く抉らせて骸獣をさらに苦しみ悶えさせ、さらに飛色は手刀を抜くと拳を握り傷口を幾度と殴ってより強い苦痛を与えさせ始めた。

 

 先程の複数の骸人を葬ったとされる千紘は飛色の野蛮すぎる戦いに呆れた反応しか出来ず、見てられないと言わんばかりにため息をついてしまう。

 

「まったく……」

「ウゥ……親、ジ……!!」

 

 千紘がため息をついていると人型の骸獣が言葉を発しながら飛色に痛めつけられる骸獣の方へ向かおうとする。

 

 骸人が動き出した中、千紘は動き出した事よりも人間の言葉を発する事が意外だったような反応を見せた。

 

「父親を失った事、何よりも父親への異様な執着がアレを動かしてるのは分かるが人外化しながらも言葉を失わないなんて……気持ち悪いね」


 意外には思いながらもその実、実際は気持ち悪いと感じていた千紘。そんな彼の感想など他所に銃声が鳴り響くと数発の弾丸が骸人の右脚を撃ち抜き転倒させてみせた。

 

 弾丸が骸人の進行を妨害した、誰が弾丸を放ったのかは千紘は把握しているらしく銃声が鳴った方を見るとそこには拳銃を構えた伏見がいた。

 

「いい銃じゃないか伏見」

「お世辞ありがとう。それよりどうする?」

 

「異骸型の骸獣は自己修復する可能性がある。そういう意味では飛色が足止めしてくれてるのは有難いね。飛色がやる気になれば楽だけど……ボクが本気出した方がいい感じ?」

「質問に質問で返すな。まぁ……どうにかしてくれるならオレが処理する」

 

「へぇ、勢いよく仕切ってくれてたのは虚勢じゃなかったんだ。それで、どうしたらいい?」

「このまま使うにしても2体を消し飛ばすだけの力となれば地上だと影響が大き過ぎる。やるなら……上にいた方がいい」

 

「空中って事だね。仕方ない……飛色、メインディッシュはそこまでにして花火の打ち上げだ!!」

「あん!?まだ満たせてねぇぞ!!」

 

 骸獣2体を討伐するための算段を語った伏見が地上で仕留めるのは良くないとし、代わりに上ならば可能だと話すと彼の指す上が空中だと理解した千紘は飛色にそれを伝える旨の言葉を発した。

 だが骸獣相手に楽しんでいる最中の飛色は納得出来ないらしく、彼の反応は予測出来ていた千紘はため息をつくと伏見に視線を向けた。

 

「……だってさ」

「仕方ないな。異骸型は神喰隊長に一任する。こちらは骸人を葬ろう」

 

「そうか、ならボクが……」

「すまないが双姫乃隊長、キミの装飾品を1つ譲ってくれないか?オレの持ち合わせでは抑えられないがキミの装飾品を1つ譲ってもらえるのなら何とか抑えて仕留められる」

 

「譲れって?なるほど……そっか、分かった。なら、ボクを千紘って呼んでくれる?」

「はぁ……タダではダメとは分かっていたが金銭ではなく先程断られた件を掘り返すとは」

 

「どうすんの?」

「仕方ない……解決するためだ。双姫乃……いや、千紘隊長。キミの持つ装飾品の中で1番安価なものを頼む」

 

「せっかくだ。親交を深めた記念にいいのを譲るよ」

 

 『双姫乃隊長』から『千紘隊長』へと伏見からの呼び方を変えさせた事が嬉しいのか千紘は左手首のブレスレットを彼へ投げ渡し、ブレスレットを受け取った伏見は軽く礼をするなり走り出した。

 

「起き上がったところへ撃ち込む」

「フォローはしてあげるよ詩陽」

 

「……すまないがオレの事は伏見で継続してもらえると有難い」

 

 ブレスレットを千紘から受け取った伏見が走る中で骸人が起き上がり、骸人が起き上がったところを狙う伏見は千紘からの呼び方変更を無かったことにしてほしい旨を伝えるとブレスレットを右手で強く握りながら骸人へ迫り、そして……

 

「その呼び方されると嫌なものが浮かんでくる」

 

 骸人へ迫った伏見がより強く右手でブレスレットを握るとあまりに力が強かったのかブレスレットが砕けるような音が鳴り、直後伏見が雷のようなものに包まれ稲光を纏う。

 

 継続的なものではなく数秒にも満たない時間の事だった。数秒にも満たない時間が経つと伏見は元の状態にもどっていた。

 

「……足りなかったか」

 

 謎の現象が起きていた伏見は息を切らしており、伏見に謎の現象が起きた間に何かが起きていたらしく彼が接近していた骸人の体は半身が消し飛んでいた。

 

「ガ……ナ、何……」

「人間には心の支えとなるものがある。幸福や不幸に通ずる有形無形問わずに得たものに対して同等以上のものを失う運命にある。失ったものに対する喪失感と絶望感、それに連なるものが心を飲み込んだ時にキミら親子みたいに骸獣に成る。だけど……」

 

 伏見が息を切らす前で半身消し飛んだ姿となった現実が理解出来ない骸人が狼狽えていると千紘は何かを説くように語り、千紘が語る中で彼の瞳が一瞬輝きを見せると半身残った骸人の体が跡形もなく消し飛んでしまう。

 

「失った際の絶望感と喪失感に飲まれる心の中でそれらに負けず立ち向かう意志があった時、人は乗り越える事に成功して骸獣2体を立ち向かう力を掴み取れる。ボクたちはこの力を『魂装』と呼んでいる。もっとも……堕ちるとこまで堕ちた外道が理解出来るわけない事だけどね」

 

 残った半身が跡形もなく消し飛んだ骸人に向けて何かについて語る千紘。骸人が消し飛んだ事で千紘と伏見の戦闘が終わりを迎えると千紘は息を切らす伏見に歩み寄ると彼に肉体の状態を尋ねた。

 

「無事かな伏見?」

「あぁ、すまない双姫乃隊長。体は……」

「記念にいいのあげたのにひどいよ?」

 

「……すまない千紘隊長。どうも慣れなくてな」

「キミの事も親しみを込めて呼びたかったがキミが現状維持を望むのなら仕方ないね。で、ブレスレットどうなった?」

 

「いつも通りだ」

 

 骸人を滅した後だからこそののんびりとした会話の中で千紘は先程譲渡したブレスレットの状態を尋ね、ブレスレットの現状を問われた伏見が右手を広げるとそこにはブレスレットだったであろう灰が残っているだけだった。

 

 千紘が身につける装飾品はどれも高価なものだと思われ、譲渡した後ではあれどブレスレットが見るも無惨な姿煮変わり果てた事に千紘も少しは傷つくかと思われた。が、何故か千紘は灰と化した元・ブレスレットを面白そうに眺めていた。

 

「キミの魂装、やっぱり面白いね」

「楽しまないでもらえるか?オレとしては使い勝手が悪くて困ってるんだ」

 

「あらら、そっか。それは失礼。さて、そろそろ……」

 

「くだらねぇな、ボケが!!」

 

 先程の伏見に起きた現象に関して消し飛んだ骸人へ説いていた『魂装』という単語を出す形で話す千紘に真剣に返す伏見。伏見の言葉に少し適当な謝罪をすると飛色の方を気にしようとした。

 

 が、千紘が関心を向けようとした時、飛色の不満がほとんどを占めるであろう言葉を吐き捨てる飛色が千紘と伏見に合流するように歩いてくる。

 

 千紘と伏見が彼の方へ視線を向けると飛色は2人に不満があると主張する視線を返し、その視線を無視するように2人が彼の後方に視線を向けるとグチャグチャに引き裂かれ潰された骸獣が倒れていた。

 

 再起不能なのか骸獣は動く気配はなく、飛色が2人と合流したタイミングで舌打ちをすると骸獣は塵と化して消えてしまう。

 

「メインディッシュにもならない残飯だった」

「今後の食事に影響出るからそれやめてよ」

 

「千紘隊長がその気にさせたんだろ……」

「おい伏見、この後は?」

 

「現地調査と事後処理の手配を済ませる。オレたちは上への報告の用意だな」

 

「ちっ、いつもアイツにやらせてるのを自分でやらなきゃならねぇのか」

「こればかりは仕方ないね。どうせなら3人でまとめる」

 

「その方が効率的かもしれないな。なら……」

 

 骸獣2体の討伐を終えた千紘たち。

 悲鞍村の悲劇は解決した。だが……

 

 まだこの悲劇は幕を下ろせなかった……

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