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8話


 千紘の予想外の指示に一度は反抗するも進展させるために村長の息子を狙って動き出した飛色。

 

 村長の息子を狙うように告げた千紘の発言に和月は訳が分からずあたふたしてしまうが、一方で伏見は事の進展を見届けるように異様に落ち着いていた。

 

 それぞれが異なる反応を見せる中、周りの事など気にも留めていない飛色は着実に村長の息子に近づいていた。

 

「大人しくしとけや……付け合わせ!!」

 

 彼にとっては骸獣が本命だったらしく、千紘の指示に対しての消えていない不満を村長の息子にぶつけようと迫った。

 

 だが、この時、飛色はある事に気づいた。

 

 普通、状況がどうであれ自分が狙われていると分かり自分を狙う相手が迫ってくれば怯えるか逃げようとするのが自然だ。だが、自分が今から攻撃しようとする男は異様なまでに落ち着いて立っていたのだ。

 

 何かある、直感で感じ取った飛色がそこで足を止めると起き上がった骸獣が飛色に襲いかかろうとし、骸獣の接近に気づいた飛色は素早く後ろに跳んで骸獣の襲撃を避けてみせた。

 

 骸獣の襲撃を避けた飛色。見事に回避した飛色だったが、彼に襲いかかった骸獣はこの後、驚きの行動に出た。

 

 そしてその行動が飛色に千紘の指示の真意を理解させた。

 

「……そうかよ、そういう事か。これがオマエの言いたかった事か千紘」

 

 飛色が……いや、飛色たちが目にした光景、それは真相に辿り着いた人間以外には驚きでしか無かった。

 

 村長だった骸獣は息子を守るように構え、さらに村長の息子の周囲に人と思われる形の化け物が次から次に現れる。

 

 それはまるで集落が団結して大切なものを守ろうとしている光景そのものだった。

 

「ど、どうゆう事なんやアレ……」

 

「メインディッシュが付け合わせを守るってか?しかも別の小料理まで湧いてきやがって……」

「守ってるのは村長だけだよ」

 

「あ?どういう意味だ?」

「せや、あの骸人の方は村長があの姿になる時に……」


 

「まさか……そういうタイプか」

「う、嘘やろ……ほな、まさか……」

 

「察しがいいね飛色も和月も。村長の方にも骸人を生み出す能力はあった。そして生み出した骸人に擬態する力を備えていた。だから村長が骸獣になるまで村の人間のフリをしていたんだ」

 

「全ては……村長が息子を守るために生み出した偽りの村人だったということか」

 

「そう、そして……この村が孤立していなかった証明でもある」

「……既に滅びていた村、という事か」

 

「あぁ、伏見。この村が『孤立した村』として蘇生されたのはその男の帰郷がきっかけだろうね」

 

 紐解かれていく謎と悲鞍村の真相。その果てにあったのは……

 

 村が既に無くなっていたという事実だった。

 

 そして、それは同時に村長の息子以外が既に亡くなっていたという事実を明らかにさせた。

 

 だが、それでも謎は残っていた。

 

「待ってや千紘さん!!ほな連絡受けた時に聞かされとった下半身を食いちぎられた遺体はどう説明するんや!!」

 

「そこも解決出来るよ。というより……ボクと伏見が彼女(美来)と出会った段階でそこの答えは出てた。彼女はオレと伏見を見るなり国から村の事を調べるように派遣されたと思っていた。何より彼女は村の人間が変な事をしないように、とも言っていたからね」

 

「あの段階でオレたちは彼女が生存者であると同時に村の人間では無いと考えた」

「村の人間ならわざわざ『村の人間が変な事しないように』なんて言わないからね。それにボクたちを見るなり国から言われたと言えるところも注目したよ。彼女はボクたちのことを噂程度でも聞いた事があるってね」

 

「問題は彼女が何者か、というところだった。それについては双姫乃隊長、答えてもらってもいいか?」

 

「もちろん。彼女……いいや、彼女を含めた今回の犠牲者は過疎化に伴いこの地を離れていたかつての村人たちだ」

 

「余所者が……この短時間でそこまで……!!」

 

 この村で起きた事の真相とそれに伴う謎。それを紐解き語っていく千紘と伏見。

 

 2人の語る言葉は事実らしく村長のむは険しい顔を見せ、2人の話に村長の息子が反応を見せていると美来は体を震わせながら自身が巻き込まれた悲劇の真実を語り始めた。

 

「前にパパが……おばあちゃんが亡くなってお葬式に地元に帰った事があった。1人になったおじいちゃんが可哀想だし孫の顔を見せたいってママと私とお姉ちゃんはパパに連れられてここに来たの。おじいちゃんと会って他の人にも会って挨拶したんだけど……怖かった。冷たくて……息苦しくなった。村に来た次の日に……ママが村の人とぶつかって相手の人が転けたの。その拍子に怪我をしたんだけど……その時に、その人の体が一瞬人じゃなくなったの」

 

「ほな……キミがここに来た時には村の人は……」

「多分、皆あんな風になってたんだと……思う。私とお姉ちゃんは見なかった事にしようとした。でもママは……声を出しちゃった。そしたらあの怪物が……ママを……」

 

「なるほど……胸くそ悪い話だったってか」

「ふざけなや……!!」 

 

「ママが殺されて……私とお姉ちゃんは逃げようとしたけど、その怪物に捕まって……変な所に閉じ込められてた。何日か閉じ込められてる間も……何回か悲鳴と……怪物の声が聞こえてきてた……少し前に、パパが様子を見にきたの。でも、その時のパパはあの黒いのみたいになってて……怖くて、私とお姉ちゃんは逃げ出した。途中で、お姉ちゃんが襲われて……お姉ちゃん、苦しそうだったのに……に、逃げてって……だから私……」

 

 真実を語る美来は悲劇が脳裏に蘇り苦しみが押し寄せてきたのか涙を流し始め、それだけでなく彼女は苦しそうに胸を抑えると意識を失い倒れてしまう。

 

 彼女の異変に気づいた和月は彼女の体をやさしく支え助けるが、彼女を助けた和月の顔はいかりが抑えられなくなっていた。

  

「ふざけなや、自分ら……こんな未来ある子供に、苦しみ与えんのが大人のやる事なんか?大人ってのは子供らの見本なる立場やないんか?それが何や……潰れた村を生きてるみたいに偽装するために犠牲にした言うんか!!」

 

「ここは親父の全てだった!!それが潰えたから親父はこんな風になった!!こんな風になっても親父はオレを息子と分かってくれていた!!だから他の出てったやつらにも連絡して手を借りようとした。そしたら……戻ってきて親父を見るなりアイツらは……オレだけでなく親父の事まで 化け物扱いしやがった!!」

 

「だから殺したのか?」

「あぁ、殺した!!親父のためにオレはこの力でこの村を復活させると誓った!!警察官って立場なら怪しまれてもオレが捜査するって言えばどうにでもなるからな!!なのに、外の文化に染まった裏切り者が電話しやがった……そのせいで、オマエらを招く事になった!!」

 

「なるほどね……キミは他人に父親を受け入れられず『拒絶』された事による骸獣化、その父親……村長の方は過疎化に伴う『孤独感』による骸獣化か。異骸型に成ったのは孤独を埋めるために求めたからか」

「残念だがアナタには骸獣出現に対しての期限報告を怠った罪が生じる。大人しく……

 

「親父と村は……オマエらなんかに手出しさせねぇ!!オレが……オレがぁぁァァ!!」

 

 全てが明らかになった怪異現象とそれに伴う犠牲者発生の真相。その全ての元凶といえる骸獣化した村長とそれを庇い隠そうと画策していた村長の息子。

 

 村長の息子に罪を問うべく大人しくするよう伏見が告げようとするも村長の息子は抵抗しようと叫び、叫び声が唸り声のように変わると彼の皮膚が剥がれるように落ちていく。

 

 皮膚が剥がれるように落ちると村長の息子『だった』人間は周りの人と思える黒い化け物……人型の骸獣『骸人』へと変わり果ててしまう。

 

「この付け合わせ……人間と骸獣の狭間の状態で骸人を生み出してたのか!!」

 

「おそらく焼却したとされる遺体の一部を喰らうことで人物情報を獲得して複製していたのだろうな」

「どっちにしても胸くそ悪い……!!自分らの欲のためにどんだけの命を……!!」

 

「和月、落ち着きな。キミはそこを動かず美来を守っててくれ。ボクたちはアレを駆除する」

 

 本性を表した村長の息子だった骸獣。人型の骸獣『骸人』と複数のものを掛け合わせたような歪な『異骸型』の骸獣。

 

 今回の任務の標的が揃った。後は討伐するだけ……

 

「これより骸獣討伐を開始する!!」

 

「暴れるか……千紘!!」

 

「全て潰せ飛色。目の前の骸獣はキミの糧にして構わないよ」

 

 悲鞍村の悲劇、その幕を下ろすために彼らは戦いに入ろうとした……

 

 

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