6話
千紘と伏見が美来と邂逅する少し前……
村までまだ距離があると思われる山林の中の道を飛色は既に越えて村の手前まで到着していた。
とくに村に対して気にする事もないのか飛色は村の中へ踏み入ろうとするが、そんな彼に遅れる形で和月が息を切らし走りながらやって来るとかなり疲弊した顔で飛色に不満をぶつけようとした。
「……飛色さん、速過ぎや!!隊長クラスの中で飛色さんがアレやいうのは知っとるけど、これはアカン!!オレやなかったら追いついてへん!!」
「なんだ和月、やっぱオマエ6號隊の副隊長にしておくにはもったいない体力してるな。今からでもオレん所来い」
「はぁ、はぁ……お誘い嬉しいけど一応伏見隊長に恩があるさかい、お断りしますわ」
「そうか、残念だな。オマエは話が分かる優秀なタイプだから利用できると思ったんだけどな」
「ちょい待ちい!!今利用できる言うたんか!?いくら何でも……
「オマエら!!余所者がまだいたのか!!」
飛色が先行したらしく、その飛色がありえない速度で先行したせいで疲弊する羽目になった和月が不満をぶつけるも飛色は何食わぬ顔で追いついた彼の体力を評価し勧誘しようとしていた。
発言の内容から裏があると気づいた和月が言い返そうとしたその時、村の方から杖をついた老人が怒りながら2人の方へと歩いて来る。
「村長さん、すんまへん。実は……
「待て和月。動くな」
老人だけではなかった。和月が村長と呼んだ老人の登場に対して飛色が警戒するように和月に動かぬよう忠告すると村の奥から老若問わず村の人間であろう男女が複数人次々にやって来る。
だが、やって来た老若男女は2人を歓迎していないかのように鍬や鉈、包丁を手に持っていた。
それだけでは無い。2人の前に立つ人間……その全員の目が白目を向いていたのだ。
「……っ、飛色さん!!」
「なるほど、今回の任務でオレと臆病風が名指しされた理由が分かった。そうか、通りで……いや、むしろ伏見と和月を先に現着させたのも納得だな」
「飛色さん、指示くれます?この人らをどうにかして落ち着かせんと……
「和月、とりあえずの指示だけ出してやるから聞き逃すな」
「押忍っ……って、とりあえず!?なんでや、ちゃんと出してくれんと……」
「オマエが気づいてたかはどうでもいいが道中に生存者の女がいた。服と肌が汚れて靴だけ綺麗な子供がいた」
「あんな速う走っといてよう見つけられましたね……ビックリやわ」
「その女の生存者の存在から仮説を立ててオマエに指示を出す。このグズ共の相手をオレが引き受けるからオマエはとにかく生存者を見つけて外に連れてけ」
「押忍……って待てい!!生存者て何!?目の前のこの人らは!?それに村長は……
「いちいち全部言わせんなエセ関西弁!!コイツらは……『骸獣』だ!!振り向かずに行け!!」
『骸獣』、普通なら聞く事の無い言葉を口にした飛色。彼の言葉を耳で聞き取った和月はその意味を理解してるらしく飛色の言葉に何か返すでもなく真剣な顔となると来た道を引き返すように駆け出し、和月が背を向け駆け出すと村長の目と口、鼻から黒い液体が溢れ出し始める。
溢れ出した黒い液体が村長の周囲に広がりを見せ、広がっていく黒い液体に触れた村の人間は溺れるかのように突然液体の中へ消えてしまい、村の人間が消えると入れ替わるように人と思われる形をした霧に包まれたような黒い化け物が現れる。
村の人間が消えて黒い人と思われる形の化け物が現れる。飛色たちの前に現れた村長以外の人間が黒い化け物に変わると液体を不気味に溢れ出させた村長と呼ばれた男の体は風船のように膨らんでしまう。
「骸人型を生み出せる骸獣か。この村のカラクリとして説明するには怪異現象で納得いくな。けど……まさか、暇潰しくらいの気持ちで千紘についてきた任務で大型と出会えるのは運が良かったって事だわな!!」
乱暴な言葉で千紘や伏見に失礼な発言をしていた飛色。その彼は風船のように膨らんだ村長だったそれを前にして嬉しそうに言葉を発する。
何かが起きる、それは間違いない。
その何かを飛色は待ち望んでいる。
「ほらほら、さっさと姿見せろや骸獣!!」
さっさとその姿を拝みたい飛色。
彼の煽る言葉を受けた村長だったそれは蛹が羽化するかのように割れて化け物を中から出現させる。
右腕が狼の頭の形、下半身は胴体から伸びる様がまるで長い尾のように見える蛇、左半身は霧がかかったような気味の悪いものとなっており、頭はグチャグチャで歪になりながらも顔の中央部には奇妙な目玉が存在する異形の化け物。
その体躯は軽く見積っても4mはあるように思われる。
おぞましい姿を見せた化け物、飛色が骸獣と呼んだそれに該当するであろう化け物を前にした飛色は嬉しそうに笑みを見せると地を蹴って骸獣を飛び越えられる程の高さまで勢いよく跳び上がった。
飛色の異常な跳躍に骸獣は頭を動かし認識の中に捉え続けようとするが、骸獣が飛色を自らの認識の中へ捉えた瞬間、彼は骸獣の頭の前まで既に移動を完了しており、それに気づけなかった骸獣が動けずにいると飛色は容赦も何も無い渾身の拳を叩き込んで化け物を地へ倒れさせた。
勢いよく叩き込まれた拳の一撃、その一撃に耐えられず骸獣が倒れると巨体故か大きな音を鳴り響かせ、倒れた際に強い衝撃が生まれて人と思われる形の黒い化け物を吹き飛ばし、衝撃は飛色がここに来るために通ってきた山林を駆け抜けるようにそちらへ飛んで消えてしまう。
骸獣を殴り倒した飛色は着地を決めると首を鳴らしながら倒れた骸獣が起き上がるのを待とうとし、骸獣が立ち上がるのを待つ飛色が退屈そうな顔をするとお目当ての骸獣ではなく衝撃に耐えれず吹き飛んだ人と思われる形の黒い化け物が次から次に起き上がっていく。
「……おいおい、違ぇよ。そっちじゃねぇよ。オレが殺したいのはそっちのデカいのだけだ!!」
「相変わらず乱暴だな飛色は」
巨大で異形な骸獣が立ち上がるのを心待ちにする飛色。その彼の言葉に反応するように山林の道を抜けて来た千紘と伏見が彼に合流しようとし、2人に遅れる形で先程後退したはずの和月が美来と共に走ってくる。
「飛色さん、間に合いましたわ!!」
「その女……んだよ、オマエらが助けてたのか?」
「えぇ、オレの事スルー!?」
「彼女は生存者だ。そして……」
「おそらく彼女を含めてあと1人生存者がいる」
先程和月に救助に向かわせた人物は美来だったらしく飛色は和月を評価することなく千紘と伏見が見つけた事に落胆していた。
何故スルーされたのか分からない和月のリアクションをさらにスルーするように伏見は彼女が生存者である事を伝え、そして千紘は生存者がまだ他にいる可能性を飛色に伝えた。
が、水と油の関係性の千紘と飛色。飛色の言葉を聞く耳を持つ千紘と異なり彼の言葉を取り合う気のない飛色は……
「あ?デタラメ言ってねぇで囮になれや千紘」
「少し黙りなよ飛色」
「アカン、何でこの隊長2人は出会う度に喧嘩すんねん!!」
「和月、落ち着け。キミは彼女……民間人の保護を」
「押忍!!」
お決まりの流れをスルーするべく伏見は和月に落ち着くよう伝えた上で美来の保護を指示、彼の指示を受けた和月が美来を守るように配置につくと千紘は真相に辿り着くために語ろうとした。
「さて……全てをハッキリさせようか」