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5話


 茂みの中から現れた少女。

 

 不審な点を指摘した千紘によって彼女は助けを求めている事が判明し、千紘と伏見は彼女のその言葉を聞き受け力になろうと約束した。

 

 彼女の力になる、そのためにまず伏見は持ち合わせていた救急箱から絆創膏を取り出して彼女の怪我した場所へ貼り、伏見が絆創膏を貼り終えると千紘は少女から重要な事を聞き出すべく尋ねた。

 

「キミの名前は?」

「……美来。その……」

 

「下の名前だけで構わない。おそらく……名乗りたくないだろ」

「村に関係してるんなら何か思う所があっても仕方ないね。それで美来、キミはどうしてここへ?」

 

「その……逃げて来たんです」

「うん、そうだね。それで、キミは『骸獣』……いや、誰から逃げて来たのかな?」

 

「キミがここへ逃げて来たという事は『骸獣』はキミを明確な標的として認識している事になる。そして、オレたちがここに派遣されたのはその『骸獣』を討伐するためで間違いない」

 

「あの……すみません、さっきから『骸獣』って何なんですか……?」

 

 千紘と伏見が当たり前のように出す『骸獣』という単語。どうやら少女……美来はそれが何を指すものなのか知らないらしく、教えて欲しい美来が2人に尋ねると千紘は視線を伏見へ向ける。

 

 説明してくれ、タイミング的に間違いないなくそのニュアンスで向けられた千紘の視線に伏見は呆れた感じでため息をつくと美来に向けて『骸獣』が何かを話し始めた。

 

「オレたち人間……大きく見るならば生物は幸福を感じたり不幸を感じたりする。その過程で必ず形の有無を問わずに何かを得たり失ったりする。特別な贈り物や大事に扱っている道具はもちろん、誰かとの思い出や感謝の言葉、さらに言うと夢も対象になる。幸福と不幸は等しく訪れるものだと言われている。が、その中でも不幸……つまりは喪失感や絶望感を強く感じるようなものはただ不幸を感じて終わるわけじゃないんだ」

 

「それってさっきから話に出てる……」

「そう、オレたちは『骸獣』と呼んでいる。悲鞍村が外界を拒絶してるせいで情報がなかったようだな。失った時に現れる喪失感や絶望感が他の幸福に結びつくものを壊し心の中を不幸で満たした時に生まれるのが骸獣だ」

 

「生まれるっていうのは……その人はどうなるんですか?」

 

「……残酷な話だが、骸獣をうみ出せば……

「死ぬ、?というよりは元となる人間を殺して成り代わるのが骸獣だからね」


 骸獣について説明する伏見。伏見の説明から骸獣誕生の経緯を聞かされた美来が骸獣が生まれた後の人間がどうなるのかを恐る恐る尋ねてきた。

 

 伏見は言いにくいのか少し言葉を詰まらせてしまうが、千紘は違った。迷いもなく当たり前のように答えた。

 

 千紘がどのように判断したのかは分からないが、彼の判断を伏見は良しとしなかった。

 

「双姫乃隊長、全てを伝えるのは酷な事だ。順を追って……

「骸獣の元が何かによるが彼女にとって大切な人なら知る権利はある。何より、骸獣相手に抵抗する術のない人間がここまで逃げて来た事実がある以上、彼女は知る権利がある」

 

「しかし……」

「私は大丈夫です、続けてください」

 

「……美来、キミの意志を尊重しよう。そうだな……いや、双姫乃隊長、ひとまず骸獣の系統を判別しないか?」

「無難だね。誕生の経緯を聞いて骸獣の事を詳しく知るにしてもどんな骸獣から逃げて来たかをボクたちが知った方が話が進めやすいだろうね」

 

「あぁ、という訳だ美来。キミはどんな骸獣から逃げて来たのか分かるか?」

 

 必死に逃げて来た彼女には聞く権利と知る権利があると語る千紘。彼の言葉に加えて美来も目を逸らさず知りたい意志を見せた事で伏見も話の継続を決める。が、さらなる説明よりもどんな骸獣だったかを知る方が得策ではないかと伏見は千紘に提案した。

 

 彼の提案は理に適っているとして千紘も賛同し、伏見は恐怖の中逃げて来た彼女にどのような骸獣から逃げてきたのかを尋ねてみた。

 

 骸獣の外的特徴について尋ねられる美来。これまでの事を思い出して恐怖心が生じてしまっているのか時折体を震わせていたが、恐怖を乗り越えようとする勇気が勝ったのか彼女は2人に話し始めた。

 

「……右腕が狼みたいな形になっていて、脚はなかったです。脚っていうよりは蛇みたいな感じでした」

 

「異骸型……混ざった容姿からしてかなり強い絶望感が糧になっているようだな」

「下半身を食いちぎられたような遺体ってのはその狼みたいな腕で本当に食いちぎってんだろうね。そして蛇……村に通じるこの足場の悪い道と山林の感じからして地形に囚われず動けるようになってるってところか」


「美来、他の特徴は分かるか?」

 

「は、はい。特徴……かは分からないんですが、体の左半分が歪でした」

 

「半分が歪……となると、異骸型として変化を起こしてる最中みたいだな」

「フェーズ3案件って事?マジか……」

 

「ふぇ、フェーズ……?」

「骸獣には姿や形による種類の判別の他に段階があるんだ。骸獣が生まれた直後は種類の判別が可能な程度のフェーズ1、そこから骸獣が元となった人間の絶望感を理解して進化する状態をフェーズ2、そしてそこからさらに進化・発展するのがフェーズ3ということになる」

 

「待て伏見。右腕と下半身、左半身は分かった。けど、顔は?」

「顔は……グチャグチャで分かりませんでした。私たちの鼻のある位置に大きな目玉があるくらいだった記憶しかないんですが……」

 

「恐怖心を煽らせる象徴としては十分な形ということか」

「となるとフェーズ1の段階で狼と蛇のどちらかはあったって事になるね」

 

「だが妙なのは誰が骸獣なのか、だ。骸獣は先程も話したように元となった人間を殺して生まれる。これはつまり誰かしら死んだのは確定だ」

「となると……誰が骸獣に成り代わられているのか、という話になるのか」

 

 彼女が必死に逃げてきた骸獣の姿とその特徴から大体の形を認識出来るようになってきた千紘と伏見。ここで2人は骸獣が誰を殺して成り代わったのかという点に注目しようとした。

 

 が、この成り代わりの謎を紐解くには情報が少な過ぎた。

 

 先に現場入りしていた伏見も滞在の許可を得る交渉をしてある程度の調査をしただけ。千紘の方も先程到着したばかりで悲鞍村については何の情報も持ち合わせていない。

 

 新たな手掛かりを得て紐解くには美来が情報を提供してくれる他ないのだが……

 

 この状況の中、美来は何かを思い出したらしく2人にそれを伝えようとした。

 

「そ、そういえば……村長、前までは杖をついてゆっくりしか歩けなかったはずなのに、た少し前に杖無しで歩いてるのを見たんです」

 

「杖無し……」

「明らかにおかしいね。杖無しで歩けなかったご老体が杖無しで当たり前に歩いてたなんて……」

 

「だとしたら今回の骸獣は村長という事になるのか」

「昔気質で風習を大切にする村長が成ったのは納得できる。けど、問題は村長が骸獣だった場合、どうして双子の孫娘の姉を殺したのか謎だよ?」

 

「たしかに……いや、孫かどうかの判別がつかなかったとしたら……」

 

「……」

 

 杖無しで歩けなかったはずの村長が一転して杖無しで歩いていた。

 

 この情報の開示により千紘と伏見は村長が今回の骸獣で間違いないと確信しようとした。が、そうなると何故村長の双子の孫娘の姉が殺されたのかが謎として浮上した。

 

 考えられる可能性を挙げる伏見。その伏見の話を聞く美来が俯くとそれを見逃さなかった千紘はそれに触れるために話しかけようとするが、話しかけようとした瞬間に彼の中で何か閃いたらしく、千紘は大きく舌打ちをすると伏見に何か伝えようとした。

 

「伏見、最悪の可能性がある。今回の骸獣……」 

 

 その時だった。

 

 村の方から大きな爆発音が鳴り響き、鳴り響いた音に続くようにして山林を強い風が吹き抜けていく。

 

 村で何か起きている、それを容易に導き出せた千紘と伏見は美来を連れて村へ向かおうとした。

 

 一体、村で何が……

 

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