4話
「二手に分かれよう」
突然の提案を持ち出す千紘。
彼の突然の提案、そこには何か理由があると見抜いた伏見は話を聞こうと彼に注目し、伏見が隊長を務める隊の副隊長を担っている和月は伏見の判断をすぐに理解したのか大きな反応を見せることもなく隊長と同じように千紘の話を聞こうと待っていた。
この流れ、2人が千紘の話に耳を傾けようとする中で彼にとっては油でしかない飛色は……
「んだよ、ビビってんのか?」
千紘が臆病風に吹かれたとでも思ったらしい飛色は単純に他の選択肢を持っていなかったのか、千紘を煽る言葉を口にし始める。が、飛色相手に煽られても臆する事を知らない千紘は話を聞く気のない飛色の言葉に言い返す気しかなかった。
「偉そうに隊長として参加したくせに得体の知れない村を前にビビったのか?オレに偉そうに言ってくる割にオマエはひよってんのか?」
「効率的な話をしてるんだよ飛色。得体の知れない村だからこそ最悪に備えて別で動くんだ。それにボクとキミの相性は最悪だ。キミが足を引っ張るせいでボクは調子が狂う」
「オマエが弱いだけだろ低能。伏見と和月の集めた情報とコイツらの推理に頼りゃいいだけだ」
「そういう安易な考えしか出来ないから見えなくなるんだ。キミがチームワークなんて理性の求められる行動取れるわけないだろ?ボクがキミの足を引っ張るとでも言いたいのならキミが離れればいい。キミと和月は気が合うようだから正面から好きに暴れなよ」
「その言い方、正面から行けないのを隠すためにオレに譲ったつもりか?相変わらずだなオマエは。そんなに正面から行くのが嫌なら遠回りでもしとけ」
「そうだね、そうさせてもらおう。それより飛色、何かあれば伏見に連絡しなよ」
「黙れ。連絡するにしてもそれは終わった後だ。いくぞ和月、こんな弱腰野郎は置いてけ」
「えぇ……隊長、いいんすか?」
「仕方ないだろ和月。神喰隊長を頼むぞ」
「了解です。何かあったらすぐ連絡しますんで。では千紘さん、後ほど会いましょ!!」
飛色との口論を白熱させるかと思いきや千紘は上手い具合に巧みな言葉選びで飛色を躱しつつ彼と和月の2人で行動させる流れを作り、千紘の誘導に気づいてるのかどうか分からない飛色は悪態をつくように千紘を悪く言うと先へ進んでいく。
飛色と千紘の口論の結果に和月が困り果てた顔で伏見に判断を仰ぐと伏見はどうにも出来ない事だとして和月に飛色の事を任せる事を伝えた。
伏見に飛色の事を任された和月は千紘に後で合流する事を伝えて飛色を追っていき、飛色の姿が完全に見えなくなり和月の姿も見えなくなるほどに2人が村の方へと進んでいくと伏見は千紘に説明を求めるべく彼を見つめた。
伏見に見つめられた千紘は微笑むなり言葉ではなく両手を用いたジェスチャーで伏見に何かを伝え、千紘のジェスチャーが何を伝えようとしているのかすぐに理解した伏見は何も言わずに静かに頷いた。
そして……
伏見が頷いた直後、千紘は彼と共に音もなく姿を消してしまい、2人の姿が消えて暫くしても彼らの姿は現れようとしなかった。
何が起きたのか、怪異現象なのだろうか?
そんな風に不思議が過ぎっている中、山林の奥の茂みが揺れ、茂みの中から人が出てきて先程まで千紘と伏見がいた場所まで慌てて走ってきた。
「嘘っ、何で!?」
茂みの中から出てきたのは少女だった。
少し傷んだ長い黒髪、肌荒れが少し目立つ少女。汚れの目立つセーラー服の少女は背丈から推測して15歳くらいではないかと思われた。
千紘と伏見がいたはずの場所まで出てきて消えた2人を探そうと辺りを見渡し見つけようと慌てる少女。
1周……いや、それでは物足りなく感じた少女がもう1周だけ探そうとしたその時だ。
「キミ、ここの村の子?」
少女が2周目に入ろうとしたタイミングで千紘が彼女の目の前に姿を現し、突然現れた千紘に驚きを隠せない少女は驚きの中で一種の恐怖を感じたらしく背を向け慌てて逃げようとした。
だが、彼女の思惑通りにはならなかった。
「落ち着いて、オレたちはキミと話がしたいんだ」
千紘に驚き逃げようとする少女の行く手を阻むように彼と同じように音もなく伏見が現れ、千紘に続いて伏見の突然の出現に驚く以外の反応が出来ない少女は何とか彼らから逃げようとする考えしかないらしく動転のあまりか左右異なる靴を履いた足を滑らせ転けてしまう。
別に驚かせるつもりのなかった千紘と伏見。だが結果として彼女を転けさせたとして申し訳なさがある千紘は腰を少し落として少女に手を差し伸べた。
「すまない、驚かせてしまったね。ボクたちは悪意がある訳じゃないんだよ。怪我はなかったか?」
「……大丈夫、気にしないで」
形はどうあれ非は自分たちにあるとして謝罪としての言葉を口にした千紘だが、彼の言葉が嫌だったのか驚かされた事実が許せないのかは分からないが少女は少し不機嫌そうに返すと彼の差し出す手を借りずに1人で立ち上がった。
大丈夫と言いながらも少女は脛のところを軽く怪我していた。強がり、少女なりに譲れないものがあるのだろうとその気持ちを理解しながらも心配を隠せない伏見は服のポケットからハンカチを取り出し彼女に渡そうとした。
「キミ、怪我をしてしまったのか。申し訳ない、コレを使ってくれないか?」
「あ、あの……」
伏見が気を遣ってハンカチを渡そうとした時、千紘は少女を見るとある違和感を抱き、彼は伏見の優しさを彼女が受け取るか否かを待つことなく違和感を解決させようとした。
「……キミ、ずいぶんと変わった靴の履き方してるね」
「は、はい?」
「双姫乃隊長、どうかしたのか?」
「少し気になってね。彼女の履いている靴……異なるメーカーの靴なんだよ。見た所キミは伏見を追いかけてきた感じかな?身だしなみが荒れてでもボクたちと合流しようとする伏見を追いかけてここまで来たんだよね?」
「そ、そうよ!!アンタたち、国からこの村の事調べるよう言われてきたんでしょ?村の人たちが変な事しないか見張りに……
「ただ慌ててたにしても怪異現象が起きてるような場所にそんな歩きにくいアンバランスな履き方で追いかけてくるかな?」
「え……あっ……?」
「言われてみれば……」
千紘の一言、彼女の履いている左右異なる靴が村の置かれている状況から察して危険性を伴う事を指摘する彼の一言を受けた少女は反応に困ったような声を出し、千紘の一言を聞いていた伏見も彼女のあまりに不自然な点を認識すると疑いの目を向けるしかなくなってしまう。
2人に疑いを向けられる少女、靴の事を触れられるなどと思っていなかったのか少女の目は左右にひどく泳ぎ始め、彼女の動揺とも取れるその反応を前にした伏見も優しさで渡そうとしていたハンカチを下げてしまう。
そして、全ての謎が彼らの前で明らかに……
「お願い……助けて……!!」
明らかになると思われたその瞬間、少女は涙を流し助けを求め2人に訴えかけた。
彼女の言葉、助けを求めるその言葉を受けた千紘は違和感が晴れると共に1つの可能性に辿り着き、彼は可能性を真実へ辿り着かせるために伏見に提案した。
「伏見、少しキミの知恵を借りたい」
「構わない。オレも助けたいからな……『骸獣』から逃げて来た勇気ある彼女を」
「決まりだ。向こうは飛色がいる分何も気にしない、だからこっちは情報整理と行こうか」
「神喰隊長はともかく彼に同行してるのオレの副隊長、少しは気にしてもらえると助かる」
「……細かいよ伏見」
「すまない、こういう所が他の隊長か嫌われる原因かもしれないな」
『骸獣』、伏見が口にした言葉を理解出来ない少女の前でふざけてるような空気感で話す千紘と伏見。
助けを求めた少女は2人の会話に不安を隠せなくなってしまうが、千紘は彼女の手を優しく握ると真っ直ぐと目を見ながら伝えた。
「大丈夫、キミは必ず助ける。ボクたち骸獣討伐専門組織【VALIANT】がここに来たんだ。キミを苦しめる全てを何とかする!!」
『骸獣』、彼らが口にしたその言葉は何を意味するのか……
そして、少女は何から逃げているのか……