3話
和月の合流に伴ってか、タイミング的なものかはさておいて飛色と千紘をここまで連れて来た鵜飼は来た道を引き返して待機状態に入るべく彼らと別れ、鵜飼と入れ替わる形で合流した和月の報告と伏見の報告と説明の続きを聞きながら飛色と千紘は外界との接触を避ける風習の中にある村への移動を開始した。
『村人が怪異現象に襲われている』、『被害者が20代の村人が多い』という2つの要素が明かされ、2つの要素が明かされる中で生じた飛色たちをこの地に招くきっかけとなった連絡を誰が入れたのかという所へ着眼された。
連絡手段が固定電話1つ、その固定電話も村長の家にしかない事、村長の家から外界に連絡をするにも村長と村長の妻、村長の息子、そして村長の双子の孫娘がそれを視界に入れられる位置に設置されている事、村の風習を良しとせず外に助けを求めるにしても家の間取りと電話の位置などから不可能に近い事が明らかとなった。
村に通じる山林に囲われる道を進む一行。村へと向かう中、村の風習への反対派として孫娘が成ったら話は変わるだろうと飛色がその可能性を挙げるが、その可能性を否定するように和月の報告が入り、飛色と千紘は和月の報告を詳しく聞こうとしていた。
「村長の孫娘は病気だったのかい?」
「原因不明の容態悪化、らしいっす。双子の姉が怪異現象の被害に遭った直後に両足が動かんくなったらしいんです。姉が亡くなったショックやって事で父親……村長の息子がとりあえずで入院させたらしいんやけど、そこから急激に体調崩すわ心肺機能乱れ始めるわ呪言みたいなの話し始めるわで気味悪かったらしいっすわ」
「呪言?」
「内容は分からんすけど、村の人間が言うには祟りを呼び寄せてるようにしか聞こえんって事で呪言って事にしてるみたいですわ」
「ちなみにだけど和月、その妹さんが入院してた病院って……村長関与してる?」
「村長やなくて村長の奥さんの方の家の人間の経営してる病院ですね。まぁ、病院言われても今の時代で運営なんて無理な衛生環境でしたけど」
「外界の干渉を拒むのなら医療技術も何も無いだろうからね。この任務中は便宜上そういう事にしておこう」
入院中だった村長の双子の孫娘の妹が亡くなった事、病院として扱われていた場所が病院と呼べるほどの機能がない事を和月が話し、任務の遂行上今は病院として扱うという都合のいいまとめ方をした千紘。
現場に着いたばかりだからこその情報共有と現状の整理を千紘が行っているのに対して飛色は……
人の心なんて持ち合わせていないのか躊躇いもなく不謹慎な言葉を発して話題を変えようとする。
「死んだ妹の状態とか施設状態とかどうでもいい。病死の人間よりも遺体の方だ。下半身が持ってかれてんだろ?それに関しては村の言い伝えみたいなのはないのか?クソみたいな風習の中にある村ならゴミみたいに残ってたんだろ?」
「……史料はあったのかい和月?」
「それなんやけど……この村、おかしいんですよ」
「だろうね。こんな感じに死人が出ても昔気質で風習を優先する村長……
「違うんや千紘さん。昔気質で風習をって今言うてくれてはったけど、この村……何の史料も無いんや」
「……何だって?」
「どういう事だ和月」
飛色の発言に反応して注意しても無駄と判断したのか彼の暴言をスルーする形で千紘は史料などはあったかを和月に尋ねた。
だが和月の口からは昔気質な村民と風習に反して史料は無かったと明かされ、思いもよらぬ報告をされた千紘が聞き返すと伏見も詳細を聞こうと和月に説明を求めた。
「オレも千紘さんや隊長みたいに史料か何かしらの文献あってもおかしない思て書庫みたいなんあるか聞いたんやけど……村の人全員が口揃えて『そんなもんはない』の一辺倒やった。若い子に勉強どうしてんのか聞いてみたんやけど……そもそもこの村、学校て呼べる施設もなければ教材も何もなかったんや」
「遺体を燃やすのに薪代わりにくべたんだろ?」
「飛色さんと同じ事思て遺体燃やしたとこに案内してもろたんやけど、燃やした跡のある場所を軽く掘り起こしてもそれらしいんは出てこんかった」
「何だよ、試した後かよ」
「和月、キミは物わかりのいい優秀な副隊長だ。そこの野蛮な猿みたいな事は今後控えたまえ」
「あ?おい、千紘……!!」
和月の報告から史料と呼べるようなものが見つからなかった事、遺体とともに燃やした可能性があるとしてそれも調べた旨を聞いた飛色が感心すると即座に千紘は彼の行動を改めさせようと優しく伝える。
遠回しに馬鹿にされた事に気づいた飛色は千紘に噛み付こうとするが和月が間に入って止めようとし、和月が飛色を止めている間に千紘は先に現場入りした伏見から話を聞こうとした。
「……伏見、キミの意見を聞かせてほしい」
「そうだな……まずこの村の人間は和月が話したような学校かそれに近しい施設がないからという事で知識面が乏しいという事は無い。オレが村長や村の人間数人と話していた感じでは禅院ある程度の学力を備えているように感じ取れた」
「なら、キミたち2人の到着に対して地下に隠した可能性があるんだね?」
「オレたちが村の中を見て回った時、家の中を順番に見せてもらった時には地下に繋がっているような扉や隠し通路は見受けられなかった。それこそ昔気質の村長たちが地面に文字などを書いたりして教える形を取れば教育という観点は無理矢理成立させられる」
「無理矢理というのは理解しての発現でよかったよ。でも……その言い方だとそれを成立させるための他の要素が問題なんだね?」
「先程和月が話していた病院だ。和月が言うように病院として扱うには問題がある施設は見受けられた。いつから外界との繋がりを断ち切ったのかにもよるが、10年20年の規模ではなく100年希望となるならこの村は健康体の人間以外は不調を起こした瞬間に命を落とす危険性と隣合わせの生活を強いられている事になる」
「風邪だろうがお構い無しに自力で治せって感じなのかな、ここは?まぁ、それはそれとして気になるのは外界との隔離期間か……」
「オレたちの派遣を任務として事務処理されてるとなると村の存在が認識されているのは間違いない。ただ、村の存在に関しては情報が更新されてなければ消えていても存在している形で通ってしまう」
「そこだね、問題は。国はともかく近隣の市町村がどうして嫌遠してるのか、そもそも何故村長たちの望んだ通りに外界との交流がない状態が保たれているのか……やっぱり、遺体を勝手に焼却した事が関係してるのかな?」
「おそらく、は。今1番問題視しやすいのは遺体の焼却を行わせた村長たちと彼らの圧力に負けて黙認したとされる警察官の行動だ」
「本当に、面倒な事をしてくれたね村長たちは。怪異現象に襲われて死人が出たなら証拠に繋がるとか思わなかったのかな」
伏見の考え、今得ている情報から推測可能な要素について彼と共に思考を働かせ真実に向かおうとする千紘。
施設的な面はもちろんの事、村の状況から不自然な点が多く、怪異現象として扱われている謎を紐解くには村の人間が勝手に焼却してしまった被害者の遺体の存在が大きい事を千紘は口にした。
その時だった。遺体の焼失を残念に思う旨を口にした千紘はふと山林の方へと視線を向ける。
何か考えがあっての行動ではなく、これは単純に無意識に視線がそちらに向いただけのものだ。
だが、そのおかけで千紘は見つけた。
視線の先……
山林の奥の方……千紘たちの歩く道からは意識してそちらに視線を向けなければ気が付かないほどの山林と草木に覆われている場所から覗き込むように視線を向けている存在がある事を。
真実を気づくカギになるのか、謎を解く要素になる存在を見つけた千紘は、どう動くのか……