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1話


 人は生きていくために多くのものを得る。

 

 有形無形問わず、時と場所を選ばず、人はそれが当たり前のように手に触れ目で見て耳で聞き……とあらゆる手段で得て心を豊かにさせ、生きる事を華やかにさせる。

 

 だが、その逆も当然ある。

 

 何かを得るという事は何かを失う事もある。

 喪失、大小問わずに当たり前のように訪れる。避けたくても避けられない、だからこそこれを人は『理不尽』だと嘆く。

 

 そして、それは……喪失は平等という言葉を知らぬかのように綻びを見つけては破壊に繋げてしまう。

 

 ただ喪失して済むなら補うように何かを得ればいい。だが、現実は非情だ……喪失は時に絶望に繋がり、その絶望は世界の破滅に繋がる可能性を抱きながら大きく成っていく。

 

 喪失は始まれば誰にも止められない。

 

 絶望に成れば尚の事だ。

 

 

 だが、世界の破滅に繋がる可能性を抱き大きく成る事は防げる。

 

 その術を持つ者は失う事を知るからこそ止められる。

 

 止められぬ喪失の仲で芽生えようとする破滅の種を狩り取り止める者たちがいる。

 

 これはそんな希望を担う者たちの物語、そして……

 

 これより語られるはそんな希望を担う者たちを導く存在の遭遇した喪失と絶望の記録である……

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 2021年、秋。

 夜。

 

 

 どこかへ向かって高速道路を駆る車。

 黒いスーツに身を包みサングラスをかける壮年の男が運転する車、運転席及び助手席と後部座席の境を分かつように黒いカーテンが設けられ、黒いカーテンの先にある後部座席には2人の青年が座っていた。

 

 ロングコートに近い上着と少し余裕を感じさせるデザインのボトムス、双方を合わせると軍服にも見える意匠となっている黒服に身を包むという共通点のある2人の青年だが、2人の青年にはそれぞれの個性を表すような差異があった。

 

 運転席側の後部座席に座るのは上着の袖をちぎったように両腕の肌を晒し、首に銀色の十字架のネックレスを付けた白髪に赤い眼が特徴として挙げられる静かに座る姿勢から粗暴さを感じさせられる青年。

 

 対して助手席側に座るのは上着とボトムスに手を加えていない代わりと言わんばかりに両手首にそれぞれ宝石が施されたブレスレット、左右の親指以外の全ての指に全て異なる色の石が飾り添えられた指輪、左右の耳に派手に宝石が施された耳飾りを付けている茶髪に赤い眼の棒キャンディーを口にくわえる青年。

 

 元となっているであろう黒服に加えて瞳の色も共通している2人の青年、静かに乗車する2人。更に言うならば2人共、それぞれ自分の座る側の窓から外の様子を見ていた。

 

 とはいえ高速道路を走行中の車、しかも夜の高速道路となれば何か特別に思うような景色を眺められるわけでもなく乗車している車が他の車を追い越す瞬間や早々に流れていく景色を視界に入れるしかない。

 

 そんな車内後部座席に座る青年2人。走行中の車のエンジン音が聞こえるくらいで他の音はないような静寂の中、茶髪の青年が言葉を発した。

 

「ねぇ……今回の標的、どうしてわざわざボクたちが指名されたのさ?」

「……あん?」

 

「何か聞いてる?ていうか……聞かされてる?」

「知るか。オレが知ってっと思うか?」

 

「だよね。内外問わず厄介者扱いされてるキミが知らされてるわけないか」

「あ?オレに喧嘩売ってんのか?」

「売られる方が悪いよ」

 

「上等だ。おい、車止めろ」

「そうだね、止めてもらおう」

 

「お2人とも、落ち着いてください。高速道路の中心で止まれるわけありませんよ」

 

 青年2人の会話は開始早々不穏な空気を広げ、気がつけば口論に発展した挙句喧嘩にまで繋がろうとしていた。車を運転する男に車を止めるように2人の青年は指示するが走行しているのは高速道路、止まれるわけがないと運転中の男は冷静に返した。

 

 車内ではなく車外でやり合うつもりだったのかと多少の呆れを含むため息をつきながらも安全に運転する男。だが、男の返した言葉が気に入らないのか白髪の青年は眉間に皺を寄せ不機嫌さを表情に表しながら男に反論を始めた。

 

「あ?口答えすんなよ鵜飼。さっさと止めろ、てか何で別隊のオマエがここにいんだよ?」

「勘弁してください神喰(かみくら)隊長。それについては出発前に任務の詳細踏まえて説明しましたよ」

 

「あ?止めろ。オマエからやってやるよ」

「はぁ……では神喰隊長、本部に残って新人選別の監査担当請け負ってくれますか?」

 

「それは他のやつらの仕事だろう。つうか鵜飼、オマエがオレを隊長って呼ぶな。次呼んだら座席蹴り飛ばす」

「勘弁してくださいよ、本当に……。双姫乃隊長とアナタが選ばれたのは他でもなくその監査を請け負ってくれないと思ったので副隊長に代わりに依頼したためです」

 

「飛色はともかくボクまで拒否すると思われてるの?」

「双姫乃隊長については他隊長からの苦情もありますよ。アナタが監査担当するとややこしい事になりかねない、と」

 

「んだよ、問題起こす前提でお払い箱かよ千紘。それでよく隊長を任されてるな」

「うるさいよ飛色。問題云々で言うとキミが1番問題児だと自覚したまえ」

 

 鵜飼と呼ばれた男が簡潔に経緯と状況を説明すると白髪の青年・神喰飛色は彼の言葉の一部に拒絶を示しながらも隣に座る赤髪の青年・双姫乃千紘がいる理由を聞くなり不敵な笑みを見せる。

 

 不敵な笑みを見せると嬉しそうに千紘を煽る飛色だが、煽られる千紘は簡潔に返した上で煽り返した。

 

 お互いに簡単な言葉で煽る飛色と千紘。互いに相手の言葉に嫌悪感を抱き、そして今にも殺り合いそうな勢いで睨みあい、カーテン越しでもこれに気づいた鵜飼はため息をつくと2人に対して目的地と目的について語り始めた。

 

「今回の任務は特殊隊形という形での執行になります。先遣隊として伏見隊長と和月副隊長が現地調査を開始されていますのでお2人は合流後作戦への参加をお願いします」

 

「あん?伏見と和月?んだよ、6號隊の2人が出てんならアイツらにやらせとけよ」

「にしても変だね。ボクたちはともかく伏見が出てるなら6號隊の隊員に運転させればいいのに3隊どこにも属さない8號隊の鵜飼が出てくるなんて……何かあったの?」

 

「いえ、単純に今出せるのが8號隊の車両しかなかったんですよ。車両を使うにあたって伏見隊長は運転手を用意する旨を隊長に話してくれたんですが慣れた人間が運転した方が、という話になったんです」

「その流れでキミが選ばれたのか。災難だったね」

 

「いえ、これも職務になりますから。一応確認ですが私は任務中待機する身となりますので緊急時以外は頭数に入れないでくださいよ?」

 

「そこは大丈夫。今回の任務は一応危険度そこまで高くないし、いつもの事ながらボクと飛色がいれば事足りるからね」

「テメェで何とかしろよ千紘」

 

「鵜飼を見習って働け怠慢野郎」

「あ?殺すぞ?」

 

「とにかく、あと1時間ほどで現場に着くと思いますからお願いしますよ!!」

 

 壮年の男・鵜飼が何とか場を収めようとするも一触即発の空気感を漂わせ続ける飛色と千紘。2人の青年の仲の悪さには運転中の鵜飼も手を焼き呆れる他なかった。

 

 そんな彼らは果たしてどこへ向かうのか……

 

 そして、彼らは何者なのか……

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