06話 友達は陰陽師
入学式が開式する5分前に、私と母は会場である講堂に着いた。
「夜鶴さん、もう始まりますよ。ほらこれ持って。」
ガッチリとした体格の中年くらいであろう先生にプログラムを渡される。あ、そうそう言い忘れてたことがある。「夜鶴」は私の名字だ。結構レアな名字らしく、由来は不明だ。
「えーっと夜鶴さんは、ここの列の11番と12番の席ですね。」
その列にはすでに何人も新入生と保護者が座っていた。席と席の間にある僅かな隙間を縫いながら自分たちの席へと向かう。私たちが着席した瞬間、講堂を明るく照らしていた照明が突如消え、ステージにスポットライトが向けられた。スポットライトが向けられた先には小さなおじさんが立っていた。小さいのになぜか貫禄を感じるような人だ。
「これより第30回京都朧雲学園入学式を開式いたします。」
それだけ言うと、一礼してステージの端へと歩き始めた。ちょうど端に着く頃、そのおじさんは左指をパチンと一回鳴らした。
すると、ステージに下ろされていた幕が開き、その奥には都会のものと比べても大きさで勝てるほど大きな競技場が出てきた。ちょうどステージの奥に競技場が広がるという設計になっているようだ。新入生席からザワザワとどよめきが起こる。
「さあさあ新入生の皆さん、ようこそ京都朧雲学園へ。」
さっきのおじさんと入れ替わりで、至って普通の若いお兄さんがスティー◯・ジョブズのようにマイクを当てて私たちの前に現れた。
「どうも、私がこの学園の7代目学園長の朝霧獅恩と申します。初代学園長朝霧慶三の孫でもあり、今年からの就任となります。」
なんだと!?この若さで学園長だと・・・。こりゃ、たまげた。だって見た目は転生前の私(20歳)と変わらないではないか!!20歳で何も残さずにお亡くなりになった私とは正反対だ。そんなことを思って心の中で自虐していた時に、隣に座っていた同じく新入生であろう男の子がこんなことを話してきた。
「あの校長先生って凄い人らしいよ。まだ一昨年この学園を現役卒業したばかりなのにもう校長まで上りつめてるんだって。」
「え、ってことは20歳なの!?」
思った通りの回答ではあったが、やはり本能が驚きを隠せず、さらには否定さえしている。だって若すぎるもん・・・。その男の子は話を続ける。
「噂ではあるけど、あの人が現役学生だった時に東軍の名古屋第三基地をたった1人で壊滅させたらしいよ。この学園に飛び級制度が出来上がったのも、あんな逸材が入ってきた時に効率よく対応できるようにするためらしいんだ。」
とりあえず学園長がバケモノの学校だということは理解できた。何よりも私がまだ長野で基地にいた頃に襲撃されなくてよかった。まあ結局は最悪な死に方するんだけどね。なんて心で笑いながら私は男の子にありがとう、とお礼をいう。学園長の話が続く。
「さて、先ほどから気になっている方もいるかもしれませんが、奥に見えます巨大な競技場!ここで今から現役の生徒に2チームに別れてもらい、戦っていただきます。私は喋るのが下手なので、見た方がよい学校説明になるでしょう。」
(おお!!これは楽しみだ。一体誰がどんなチームなんだ?)
みんなが同じ希望を抱いていたに違いない。少なくともこの時までは。
「それではチームを発表します!まず青チーム、高等部1年 陣田智則、同じく高等部1年 新田星音、そして高等部2年 市田相馬の3人です!!」
学園長は右拳を突き上げ、いぇーい!なんて言いながら3人の名前を読み上げた。名前を呼ばれた3人は競技場のの左サイドにスタンバイする。
「やっぱりオーラが違うね!!」
そうさっきの子がワクワクしながら言う。なんかオタクみたいだ。ちょっと面白そうだから名前だけでも聞いておこう。そう思い、
「君面白いね!私は新入生の夜鶴 鈴。リンって呼んでね。君の名前は?」
「僕は風晴 千明。こっちは千明って呼んで。あ、そろそろ赤チームの発表だ。」
みんなステージの方へと目をやる。学園長はノリノリだ。
「さあ、対する赤チームは・・・・・・・・・・。学園最強の高等部2年。ワタナベマサキィィィィィィィ!!だけ!!」
その声と共に1人の少年が競技場の右サイドへと歩いていく。道案内をしてくれた渡邊政喜先輩だ!学園最強って凄い・・・。
再び場内はどよめきに包まれる。なんで1人なんだ? いくらなんでも3人相手にはできないだろう、と。
その空気をスパッと切るように学園長は
「皆様、皆様。瞬き厳禁ですよ!なんたって政喜は強い。」
「強い」という言葉には鳥肌が立つほどの力強さがあった。そのせいか場内は静まり返る。
「じゃ、ルール説明しますねー。今、青チームと赤チームの別れてもらいました。参加者にはマジックテープで腰に一本の帯をつけてもらいます。まあ、いわゆる尻尾取りゲームです。先に相手チームの尻尾を全て奪ったチームが勝利(赤チーム1本だけど)。とにかく殺さなければ何をしてもOK!よしじゃあカウントダウンでスタートします。」
尻尾取りゲームか、さすがに学園最強とはいえど3人には敵わないだろう。まあこの状況で渡邊先輩に勝ってほしいな。そんな風に特に強い縁もないのに、ファンかのように応援してしまう。
「カウントダウン始めます!ご一緒に!」
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「スタートォォォォオオオオオ!!」
ピストルと共に競技場のフィールド内は砂埃に包まれる。
「なんも見えないじゃん。」
と、千明はちょっと不満そうだ。確かに砂埃が凄すぎて何も見えない。でもこの整備されたフィールドであの勢いの砂埃が起きるというのは只者ではないということが分かった。
火蓋が切られてから15秒ほど経っただろうか。ついに砂埃が止んで、4人の姿が現れる。ん?
そこには3本の帯を右手に掴んで、空高く掲げている赤チームの渡邊先輩と・・・。ズタボロにされて伸びきっている青チームの3人がいた。
「赤チームの勝利!!」
場内からは拍手が止まない。動きが速すぎたからどんな戦いだったかはさっぱりわからなかったものの、新入生の心は何か動いた気がする。
「それでは私はここで失礼しまーす。今の見て学園の全てが分かったよね?っね?」
学園長からは早く終わりたいという気持ちがもろに出ていた。よほど話すことが苦手なのだろう。話すことというか、文章力?というか。
無事入学式を終え、運命のクラス発表!私は千明と共に一年生の教室がある北棟の2階へと向かう。
「さっきの渡邊先輩の剣技すごかったよね!相手の攻撃をかわしながら間合いに入って帯を抜き取る。あれは何度でも見てられるよ。」
渡邊先輩が凄かったのはいいが、
(え?剣技? あんな速いのに見えてたの?)
心の中は疑問でいっぱいだ。素人にはあれを終えるほどの目はないはずだ。もしやこいつ、めちゃくちゃに強いやつなのか!?すると突然、千明が、
「ちょっとこっちきて。」
と、校舎間にある茂みの中へ私を連れて行く。茂みに隠れたら周りをキョロキョロしながら千明はこんなことを言い出す。
「これを今は君だけに話す。もう時期他の人にも言うけど、初めて言うのは君だ。」
「?」
「さっき僕が剣技って言った時に、なんでこいつはあの速さのものを見れてるんだって思ったよね?」
うん、と答える。
「実は僕がその速さについていけたことに理由があるんだ。それを今から初めて君に話す。」
「うん。」
「僕の相伝は、陰陽師の安倍晴明からきているものなんだ!」
ここでは小学一年生を一年生と呼ぶようにします。
小学一年生→一年生
中学一年生→中等部一年生
高校一年生→高等部一年生
みたいな感じです。