05話 京都朧雲学園
プロローグは終わり・・・
それから約1年・・・ついに小学校入学式の日がやってきた。私が入る学校は中立地の京都にあり、地図に示された通りに歩みを進める。
「え、本当にここだよね?」
というのも、地図通りにきたはずなのに目の前に広がるのは、木が遥か高くまで伸び、草が腰の高さくらいまで生い茂った森だったからだ。
「やっぱり道を間違えたのかもね・・・。」
と母が言う。うーん、この地図を見る限りここで間違いないはずなのに。でも仕方がない真っ直ぐこの草木をかき分けながら進むしかなさそうだ。私たちが森へと入ろうとした瞬間・・・
ボン!
私たちは森から弾き出される。何もないはずなのに透明な壁のようなものがあるのだ! しかも硬くなくて柔らかく、私たちを吸収するように取り込んだ後に、勢いよく跳ね返してきた。いてて・・・。
尻餅をついて痛がってるところに、森の方から1人の少年が走ってこちらにやってくる。そのスピードは人間離れしている。イノシシ、いやチーターより速いか!?
ズザザザーッとものすごい土煙を上げながらその少年は私たちの前で止まった。土煙のせいで姿が見えない。やがて土煙が止んだ時、頭を深々と下げて少年が立っていた。
「朧雲学園高等部2年階級ランタ渡邊政喜、遅れてしまい誠に申し訳ございません。」
えーっと、朧雲学園とは私の入る学校だ。相伝について専門的に学べる政府非公認の学校で、全寮制。成績によっては飛び級制度がある。階級に関してはよく分からないが何かしらのランク付けというのが存在するのだろう。まあ、とりあえずここが学園で間違いないっぽいから安心だ。この透明の壁はどういうことなのか疑問なのだが。
「あの、ここに透明な壁があって弾き返されたんですけど・・・。」
「それ僕が張った侵入者を防ぐ結界でこれを僕が新入生が来たら解除するっていう役目だったんですけど、寝坊しちゃって今に至ります。本当にすみませんでした。」
そう言うと渡邊先輩は結界がある方まで行き、結界に指を当てる。一瞬で先ほどまであった結界とやらはなくなっていた。
「はい、結界解除したんでどうぞお進みください。」
先輩が指を指す方は10メートル先も見えないような森だ。
(え、お進みくださいって言われてもものすごい森なんですけど!?)
私たちが呆然と立っていると・・・
「あ、ああ、ごめんなさい空間転移も使ってご案内しますね! お二人とも僕の腕にしっかりと掴まってください。」
なんだかびっくりしているようだった。「へ?」って感じの目だった。それは置いといて、言われたとおりに両腕に私たちはそれぞれ掴まる。
「ちょっとだけ飛ばしますよ!! 絶対に離れないように!! 目瞑ってていいですよ。」
目を瞑ってみる。空間転移なんか流石にできるわけ・・・
「目を開けていいですよ。」
目を瞑って1秒後、彼にそう言われた。目を開けると・・・私は「京都朧雲学園」と書かれた校門の前にいた。
「ようこそ! 相伝の聖地、京都朧雲学園へ!!」
えええええええええ!本当に空間転移してるし!!
「せ、先輩。え・・・。やば。」
本当に瞬間移動というものが存在するのだという事実に驚きを隠せず言葉がこれだけしか出ない。
空間転移か瞬間移動か知らないが、とにかくこの人はすごい人だということが分かった。初めての空間転移で感じたふわふわするこの感覚。ちょっと面白い。
「あれ?君のお母さんいないじゃん。もしかしてだけど手離してた?」
そういえば転移した時から母の姿が見当たらない。
「多分取り残されてるっぽいから探してくるのね。ここで待ってて〜。」
そう言うと先輩はまたまた空間転移を使いこの場を去っていった。校門前にポツンと私だけが取り残された。
ちょうどその頃、最初の結界があった場所では・・・
「しゅ、しゅ、瞬間移動とか、ば、ば、バカじゃないの!?」
肩をガクガクさせながら鈴の母は「瞬間移動」に怯えていた。手を離してしまったのもそのためだ。渡邊の予想通りだ。すると、
「あ〜、鈴たちに置いて行かれた〜。置いてかないでよ〜。」
今度は1人残されたことを実感して怯える。
「ついていけばよかった・・・。」
仕方がない、と森の方へと歩き始めた時、迎えに来た渡邊が現れた。急に何もない場所から人が現れたので母は腰を抜かした。
「全くもう。余計にエネルギー消費させないでくださいよー。これ一回、転移するのにこの距離でもトラック5周走った気分なんですよ。」
と、渡邊は呆れたように言った。
「ご、ごめんなさい。次こそは掴まります・・・。」
「まあ、怖いの分かりますよ。僕だって1人でこれをできるようになるまで半年かかりましたからね。転移系の術を学ぶ授業の時、ずっと隅で逃げていたのを思い出しました。」
渡邊は自分の経験を交えながら同情する。少し安心したのか、鈴の母は、
「鈴もあなたみたいに学園で強くなれますかね?」
とても難しい質問をした。でもさすがは高等部。
「任せてください。必ずこの学園は鈴さんを強くします。」
それは彼女にとって心強い返事だった。
「よし、そろそろ入学式の始まる時間ですから行きましょう。今度は安心してください。ちょっと応用技使うんで。」
渡邊はそう言うと彼女を自分のそばに立たせた。そして彼は目を閉じ、額に右人差し指を当て、こう唱えた。
「転円・改!!」
(この術は効果範囲を半径2メートルまで拡張させ、転移の際に衝じる身体への負荷を最低限にするものだ。これなら大丈夫だろう。)
「あ!お母さんやっと来た。」
私は渡邊先輩と一緒に現れたお母さんに大きく手を振った。
「早く早く!もうすぐで入学式始まっちゃうよ。」
「ごめんごめん。」
入学式が行われる講堂へ、2人は走って向かう。その時にはもう先輩の影はなかった。
来週は忙しいので休載させていただきます。なので6話は再来週の投稿となります。ご理解のほどよろしくお願いします。