01話 少女リン
20XX年。日本は東西で対立していた!!京都を境界にして分かれており、東軍は東京都に軍の総司令部を置き、西軍は福岡県に第一司令部を、大阪府に第二司令部を置いていた。両者は京都府を境界に、睨み合う冷戦状態だった。
「今日はマサルと昼飯行くんだ!」
そう思うととっても作業が捗る気がする。なんなら昨日からずっとこれしか頭にない。
ここは東軍の極秘基地の1つ、「長野第一基地」だ。なぜ私がここにいるかって?話すとちょっと長くなる。
私はこの地、長野生まれ長野育ちの超田舎っ子。両親に「リン」と名付けられた私は、地元の小学校、中学校での成績はいつもトップ。勉強に関して何も苦はなかった。ところがそんな私にも弱点はある。そう!それは運動神経が極端に悪いということだ。で、でも、跳び箱はちょっと得意なんだ・・・3段は跳べた気がする。笑わないでくれ!
その頃はこのままのんびりと人生過ごして行くんだと思っていた。うん、思ってた。しかし、そうもいかないのが人生である。
高校を卒業した頃(もちろん大学も決まっていた)、両親からこう告げられる。
「ごめんね、リン。あなたには大学じゃなくて軍隊に入ってもらおうと思うの。進学も決まってたし本当に申し訳ないと思ってる。でも、ほら、ね!軍だって人の役に立つんだから!」
絶句した。ふざけてる。大学どうこうの話じゃない。お母さんは「入る」というような言い方してるけど、それ「売る」ってことだよね?
というのもその頃、東軍では「徴兵」ではなく「雇用」あるいは「軍が買う」というような仕組みだったからだ。
やはり売り飛ばされた。
で、今に至る。入って約2年で昇級なしの結構稀な高卒隊員だ。軍とはいえど冷戦状態の今できるのは整備か軍事訓練の2択しかない。私には戦闘なんて絶対無理だからもちろん前者で働いている。元々理系の方に進む予定だったから今はこの仕事に少し満足していて、両親に感謝して・・・はいない。
パンッパンッと外の方から激しい銃声が聞こえる。これはもう私たちにとってはカフェで流れてる音楽と同じようなものだ。日常になって耳がおかしくなってる。窓の方に目をやると、上官に指示をされながら若い戦闘員たちが遠くの的へと銃口を向けている。構えから一糸乱れぬ動き。やっぱりすごいなぁ。
(やっぱりこっちにきてよかったー)
と整備士になったことを改めて良い選択をしたと思い、笑みを浮かべる。あんな中に自分が入ってたらどうなるか。足手纏いで多分1人だけ上官に引っ叩かれてんだろうな。想像してまた、ふっと笑ってしまう。そんなことをしていると、怒り気味の声が近づいてきた。
「神守!何サボってんだ!さっさと働け!」
私の上官の西田さんだ。リーゼントヘアに、ちょっとお高そうな海外ブランドのサングラスのおじさん。若いころはここら辺の半グレ達のカシラだったらしく、今でも陰では「特攻隊長」っていう変なあだ名がついている。もちろん本人は知らない。
(げっ!嫌なのがきちゃったよ。)
と思わず小声で言ってしまう。これが聞こえてしまったみたいで
「何が嫌なのだ!!」
と、ますます怒らせてしまった。これはまずい。すぐさま作業へと戻る。今私がしていたのは、午後からの実戦訓練で使うらしい戦闘機の最終点検だ。あと2時間で終わらせなければならない。徐々にペースを上げていく。さっきは私がサボっててキレ気味だったけど、その手際の良さには西田さんも惚れ惚れしているようで、
「今日の昼、飯連れてってやる。駅前にいい店見つけたんだ。好きなだけ食え。」
と男前な発言。なんだよ急に。しかし、私が返す言葉は一択。
「遠慮します。」
(・・・・・・・・・・・・・・)
背筋の凍るような冷たい沈黙。これにはさすがの特攻隊長も1発KO。少し不満げに立ち去っていった。みんな今、お前には人の心がないのか!って思っただろ!だがこれにはちゃんとした理由があるんだ!そう!
先約!しかもとても大事な約束だ。
さっき見ていた外にいるほとんどの人は射撃訓練を行っている。だが、数人だけ別行動している者がいる。別行動というよりは別メニューだ。剣術を身につけている者や、空を飛んでいる者、「南無阿弥陀」?みたいにひたすら何かを唱えている者もいる。
数ヶ月ほど前に西田さんに
「あれって何やってるんですか?」
って聞いたことがある。が、西田さんは
「俺もよく分からん。」
としか言わなかった。西田さんは何かを隠しているような感じではなく、本当に知らない様子だった。不思議に思いながらも気になるので毎日見ていたら、ある日突然青年がその別行動隊へ合流してきた。腰には左右それぞれ立派な日本刀を携えていた。常時不自然な方向を向いたり、空をずっと見上げていたりした。
その時は遠目だからよく分からなかったけど、1つだけ確信したことがあった。
(あの子、イケメンだ。)
その目に間違いはなかった。とりあえずその日の昼休憩に青年に会いに行くことを決意した。でもただでさえなかなか交流する場面のない整備隊と兵隊なのに・・・・昼時で全隊員利用可能な場所といったら食堂しかない。ん?食堂?あるじゃないか!私は食堂へものすごい勢いで向かった。
やっぱりこういう時自分は天才だと思う。なぜならその青年は本当に食堂にいたからだ。ただ、一番懸念していたのは、その彼の周りに彼の友人がいるということ。その状況で話しかけるほどの度胸は流石の私にもない。
だが彼は2人席に1人きりで座っていた。これは絶好のチャンス!すぐさま私は彼に駆け寄り、
「初めまして。整備の神守という者です。よかったらここの席座ってもいいですか?」
と声をかける。すると青年は、「どうぞどうぞ。」というようにジェスチャーをしてみせる。よしっ!上手く行った、と心の中の私がはしゃいでいる。さて、何を頼もうかな。私はいつもはコンビニ弁当ばかり食べているから、いざ食堂へ来ても、何を頼むか迷ってしまう。結局悩んだ果てに、日替わり定食を頼み、食べながら青年にずっと気になっていたことを聞いてみた。
「あなた達はいつも訓練場で何をしているの?」
その質問に彼は困ったような表情を浮かべて
「それは言えない。」
即答だった。普段の私ならわがまま言って、納得の答えが出るまで質問し続けていただろう。でもその時私は、
「そっか。言えないことならしょうがないね。」
としか言えなかった。この人にとっては誰にも言えないほど大事なことなのだろう、と自ら終止符を打った。
それから何やかんやあって、今では彼と友達になりました!今まで私の人生で友達と呼べるほどの友達がいなかったんでこれほど嬉しいことはない。自慢したい。
彼の名前は伊宮マサル。中卒の18歳で二つ年下。マサルって呼んで、リンさんって呼ばれるのが日常だ。
「今日はマサルと昼飯行くんだ!」
そう思うと作業が捗る気がする。そう言えば出会った時の食堂での昼食以来だなー。あと5分で昼休憩だ!ラストスパートかけて終わらしちゃえ!あとはこの戦闘機の右翼部分のカバーをするだけだ。すると後ろから、
「先輩!行きましょ!」
と私を呼ぶ声がした。マサルだ!
「もうちょっと待っててねー!あと少しで作業終わるから!」
早く終わらせないと。えーっと、あとはここを閉めて、よーし終わったぞ!すぐに後ろを振り向いてマサルの方へと駆けていく。
何かマサルが叫んでいる。え?聞こえないよ。もっと大きい声で話してよー、まったk
その後の記憶は何もない。私はお亡くなりになったようだ。原因は思い当たる。パイプを一本取り付けるのを、多分忘れていたからだ。それによる機体の故障&爆発に飲み込まれてしまったみたいだ。やっぱり浮かれるの良くないな。反省しよっと。あーでももう戻れないのかー。
行きたかったなー。
それから目が覚めたのは何日経った頃だろうか。目を開けると、刺すような眩しい光が差し込んでくる。ここはベッドか?ふかふかだ。とりあえず立ってみるか、よいしょ・・・・。あれ?立てない。力が入らない。
「今日の別府市の最高気温は32℃と早くも真夏日よりに・・・・」
テレビのニュースが聞こえる。え?別府市?え?もしかして私・・・・
「長野から大分に転生してる!?」
「時の覇者」をお読みいただきありがとうございます。
今回が初の投稿&連載ということで少し不慣れなところがあります。
これからもどんどん連載していきますので、2話以降もお楽しみに!
感想を受け付けておりますのでぜひ読者さんの声を聞かせてください。