表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

老人と犬

作者: えんがわ

 ざぁぁぁぁ。ざぁぁぁぁ。波は穏やかに砂浜を滑る。ざぁぁぁぁぁぁ。レースのカーテンは、一面の砂を濡らし土色に染め、白い泡をところどころに残し、ゆっくりと海へと還る。

 海は藍にライトグリーンをこぼしたような色合いで、波の稜線が盛り上がり、それが生きていることを知らせる。

 はるか遠くの山がうっすらと、しかしやけに近く映り、空には薄い雲がかかり、太陽は白く透けて輝く。水面の一部にその光は照って、網膜にも白い斑点が残る。ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。

 老人が犬を連れて、砂浜を横ぎる。犬はぐいぐい紐を引っ張り、やがて老人は駆け足になり、とうとう砂浜を駆けだす。犬は尻尾を振り、首を上げ下げし、砂を散らし、老人の手の平に紐がくいこむ。足が持たず、背中がきしみ、笑いがこぼれ、とうとう歩が止まる。肩でぜいぜいと息をした。晩秋の暖かな日。風が休むこの時。濃紺のジャンパーの中でうっすらと汗が滲んだ。老人は口を丸める。

「そう急いちゃいかん」


 ざぁぁぁぁぁん。浜からせり立った小山に、木のベンチがある。葉を半分散らして、残った半分も落葉色に染めた松林の間から、老人と犬は一面の海を望む。ざぁぁぁぁぁぁん。風を取り戻した波は跳ねるように勢いを増し、音にも水が散るそれを加える。陽はゆっくりと遠山の上に降り、色に朱を加えていく。緩やかに穏やかに時は過ぎ、犬もただじっとそれを見つめる。老人も缶ビールを片手に、その空気の一つとなる。ざぁぁぁぁぁぁん。遠くから終日を知らせる市内放送が響く。電子ピアノの不器用なメロディは、サザンオールスターズのつもりか。太陽が山に隠れ、その余韻が淡い紫の灯を残す空を見送り、老人は細い枯れ草と砂のかかったコンクリートの道を歩いていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ