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~女将校達ノ日本帝國ヨ、永遠ナレ~  作者: 秋津神州
序章:日本帝國へ来ル
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八話:出会い(後篇)


 扉の奥に現れたのは小柄な体格に袴を着た女性、ぱっと見では大正ロマンを思わせるような装いだ。その奥には慌てて青くなった看護師がいる。いつも無表情だった彼を見続けていた為、そんな顔も出来るのかと驚きだ。その青くなった看護師を余所に、女性の方は一通り部屋を見渡し、体を半分だけ起こして硬直している自分を見つけると


 「貴様が永田殿を救ったという男か」


 小柄な体格と見た目に反して自信に溢れ、覇気のある声に圧倒された。正直に言うとかなり怖い。恐怖のあまり、頭が真っ白になるとはこのことだろう。


 「どうなんだ?」


 「はいっ!」


 声を再度掛けられ、気付けば真横にその女性はいた。見た目だけでは分からない圧迫感が自分を襲う。女性に対してここまで恐怖を覚えたのは始めてだ。相沢を相手にしていた時だってここまで気圧されたことはない。まあ、あれは急なことでアドレナリンが過剰に分泌されて興奮状態だったからかもしれないが・・・。


 「永田殿を救ったのは貴様かと聞いている。それで、どうなんだ?」


 「そ、そうですっ! 私が助けました!」


 「そうか・・・」


 返事を聞くと彼女は目をつむって沈黙が流れる。それは1秒だったのかもしれないし、10秒だったのかもしれない。もし彼女が一夕会における皇道派なら統制派の永田中将を助けた自分は敵ということになる。あの暗殺事件に計画性が無かったとはいえ、皇道派の行動を阻害したのは事実だ。怒りを覚えるのは至極当然・・・殺されるかもしれない―――


 「よくやった!」


 「はえ?」


 死を覚悟した瞬間に掛けられたのは感謝の言葉だった。それどころか、構えた両手を固く握りしめてくる。てっきり殺されてしまう物だと思っていた自分は間抜けな声を出してしまった。

 

 「男であるにも関わず、よく永田殿を守ってくれた! 本当に感謝する!」


 「い、痛い。痛いですっ!」


 あまりに強く手を振るので怪我に響いた。この時の彼女は先ほどまでの覇気を纏っておらず、まるで大切な物を拾ってくれた少女のように目を輝かせていた。どうやら彼女は敵ではないらしい。


 「あ、すっすまない。つい興奮してしまった」


 「いえ、お気になさらず・・・」


 「永田中将は私の尊敬するお方でな、我らを代表する優秀な軍人なのだ。 今回はその礼を言いに来ただけなんだが・・・これほどの怪我とは知らなかった」


 多分この人は現場にはおらず、事件の一部始終を知らないのだろう。私が助けたということだけが断片的に伝わっている様子だ。別世界の人間だというのも知らないはず、ならばそれなりに返答してその場を凌いだ方が賢明かもしれない。なるべく私の存在は知られない方が良いし、先ほどの手紙が添えられていた時点で自分の存在を隠したい思惑が丸見えだ。


 「刀で切られたわけではないので大丈夫です。乱闘になった際に打撲や切り傷は負いましたが・・・」


 「なんと、帝國の宝であるか弱き日本男児に手を上げるとは許せん。永田殿の件を除いても然るべき罰を与えねばなるまい。しかし、そのような状態にあっても軍人を相手に永田殿を守り通したことは帝國臣民すべてが称賛し、見習うべき雄姿だ。重ね重ね感謝する」


 「あはは・・・どうも」


 か弱い日本男児って、この世界の男性観もこっちとは真逆なのか?しかも、精神論的な言動がかなり目立つ。この感じどこかで既視感があるのだが・・・この世界の、いやこの時代の人は皆こんな感じだったのだろうか。


 「ところで気になったのだが、なぜ貴様は陸軍省にいたんだ? 当時の予定を見ても民間人・・・それも男の来客予定などなかった。それに、新聞にも貴様の事は書かれていない。軍の当事者もだんまりだ。できれば説明してほしい」


 「うぐ、それは・・・」


 単刀直入に話しづらいことを並べてくる。永田中将に口止めはされていないが、あまり話さない方が良い話題だ。これを話せば存在を隠して事情を知られないようにしている意味がない。敵ではないとはいえ、おいそれと知られてよい物ではなかった。さてどうしたものかと思案していると。


 「すみません、少将殿。これ以上は患者の体に障りますし、永田中将の言い付けを破っている状態になります。できれば早めに退出を・・・」


 「(ナイス中年おやじ看護師)」


 ピンチな時の思わぬ助け舟に心の中でガッツポーズをする。やれば出来るじゃないか、そのまま彼女を部屋から連れ出してくれと応援と視線を送る。


 「しかしだな・・・」


 そう言って何かを思案した後、懐中時計を取り出して時間を確認する。途中、何かを諦めた表情になって肩を落とすと


 「はあ、もう時間も良いころか。思ったより時間がなかったな。申し訳ない、この続きは次の機会にしよう。療養中騒がせてすまなかった」


 「もう来なくていいんですけどね」


 「ん?何か言ったか?」


 「い、いえ!なにも」


 つい出た心の声を必死に誤魔化す。


 「そういえば名前を聞いてなかったな、これを最後にしよう。私の名は東條英紀(とうじょうひでき)だ。貴様は?」


 「東條・・・英紀・・・?」


 突如出された名前に面食らった。彼女がこちらの世界の東條英機ならばこれから日本を破滅に導く人物になる。いや、破滅に導かざるを得なかった人物という表現の方が正しいか。

 永田鉄山亡き後一夕会の統制派を引き継ぎ、総理大臣まで上り詰めた男・・・。賛否両論ある彼が女性となって、今目の前にいる。先ほど感じた既視感は何度も動画で見た彼に近しい物を感じたからだろう。これで納得が行く。この数日間、歴史に残る有名人ばかりが目の前に現れることに頭がパンクしそうだった・・・。


 「どうした?」


 「何でもありません。 秋月隆之です。よろしくお願いします」


 「不思議な奴だな・・・まあいい。よろしく頼む」


 一通り挨拶が終わると彼女は部屋を出て行った。何も考えず自分の名前を言ってしまったが、本当に東條英機なる人物であればいずれは知られることになるのは時間の問題だろう。少しそれが早くなっても問題はないはずだ・・・多分。

 これから先の自分に思いやられる。いずれはこの病院からは出て行かねばならないし、そうなると行く当てもない。かといって軍や彼女達に頼るのも危険な予感がする。大体こういうときの予感は的中するものだ。都市部に住むにもいずれ焼け野原になるのなら危険なので、程よい田舎が好ましい・・・本当に行けるならの話だが。ここはもう未来の自分に託すしかない・・・。

 

 

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