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~女将校達ノ日本帝國ヨ、永遠ナレ~  作者: 秋津神州
序章:日本帝國へ来ル
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七話:出会い(前篇)


 翌日、中年男性の看護師が昨日約束した物を持ってきた。最初は歴史書だけかと思ったが、医学書や1週間分の新聞、辞書などこちらが気にしているであろう情報を片っ端から持ってきてくれた様である。歴史書に至っても日本史から世界史、欧州史を網羅した分厚い本がいくつも積み上げられていた。その量故に2つの台車で運ばれてきていた。


 「凄い量だなぁ・・・」


 しかし、病院生活の退屈を紛らわせるにはちょうど良い。量が多いのもこちらを気遣ってのことかもしれない。


 「永田中将殿から文を預かっております。自分が退出した後、お読みください」


 看護師から一つの封筒を渡される。何も書かれていない茶封筒だが、開けられていないかを確認するため、繋ぎ目に判子が押されてあった。かなり重要な手紙なのだろうか?


 「では、何かありましたらお呼びください」


 「了解です」


 相変わらず愛想のない看護師が持ってきた荷物とは別に渡してくる。受け取ったのを確認するとそそくさと部屋を後にした。退出する看護師を見送り、肝心の茶封筒を開く。中身は紙が一枚入っており、文章が短く端的に書かれてあった。


 『秋月 隆之 殿


 今日、明日は私的な用事があるので会うことはできない。もし都合が付けば紹介したい人物が二人いる。双方とも私と同じ軍人だが誠実な性格なので怖がることは無い。次合った時に2人へ君の世界の事を話してやってほしい。また、その時に君の身の処し方を決めたいと思う。それまでに怪我が少しでも癒えることを切に願うものである。なお、この手紙は私が来た時に回収するので無暗に渡したり、捨てたりしないように。

  永田 鉄美  』


 「そんなに見られてたらまずい手紙なのかな? 偽装の為かなんも書かれてない封筒に入ってたし、回収するって・・・」


 読んだ当初は疑問に思ったが、よくよく考えてみれば自分が未来の別世界から来たと知られればどうなるか分からない。もしかしたら命を狙われる可能性もある。

 それに彼女が鉄山なのなら、陸軍の最大派閥である一夕会を代表する人物だったはずだ。もしかしたら私的な用事とは一夕会に関わることなのかもしれない。本人の暗殺未遂から一週間も経っていないのだから、何かしら会議をしていることもあり得るだろう。それなら、なるべく隠しておくに越したことはないはずだ。自分の身の回りの世話も、あの看護師しかしないのは自分の存在を知る人物が少ない方が良いという判断に違いない。


 そうと分かれば従っておいた方がいいだろう。手紙を封筒の中にしまって、枕の下に隠す。


 「んじゃ、まずは新聞から見て行こうかな」


 この世界の歴史に関しては昨日で大体想像がつくので、最近の日本の動向から探ることにした。あの暗殺事件がどう書かれているかも気になる。まずは事件があった8月12日の新聞だ。


 「ん~~~、分かってはいたけど少し読みづらいな」


 この時期の新聞は横書きであれば右から左に読むことが多い。字に関しても旧字体が多く見られ、読めないことは無いが読みづらい。戦闘詳報を漁りまくったおかげで読むことが出来るのは幸いだが、もしそうしていなかったら読めない箇所もあったかもしれない。


 結論から言うと、8月12日の新聞は至って普通だった。いくつかの時事的な内容に加えてスポーツの内容や天気予報、軍の活動が少し乗っているだけ。しかし、13日の新聞は予想通り暗殺未遂事件の事がトップに大きく記載されていた。


 『現役中佐 相沢三姫 

         永田軍務局長を切り付ける!


  幸いにも本人に怪我は無く、衛兵により取り押さえ

  2人負傷した可能性がある』


 などと記載されていた。おそらくこの2人の中に自分が含まれているのだろうと思う。軍が詳細を発表していないことを見るに上手く自分の事は隠蔽できているらしい。病室で最初会った時、庇うのに苦労したと彼女は言っていたが、ここまで大々的に報道されているとなると本当に苦労したに違いない。ここは頭の上がらない部分だ。


 「めぼしい内容はこれくらいか」


 持ってきて貰っている今日の新聞まで読んでみたものの、これ以外に自分や永田中将の事を書いている記事は無かった。


 「ちょっと困ります!」


 次に何を読もうかと思案していると廊下から例の看護師と思しき声が響いてくる。時間は午前9時過ぎを刺している。同じ病棟にいる患者が暴れているのか、面会者が問題を起こしているのか分からない。まあ、自分に会いに来る人物なんて永田中将以外に無いと高を括って適当に本を手に取ろうとした時だった。


 「永田中将殿から私的な人物なので誰にも会わせないように申し付かっております。なのでいくら軍の関係者でも・・・」


 その永田中将の名前が聞こえてきて伸ばしていた手が止まる。一気に緊張が走った。自分でも分かるくらい冷や汗が出る。この世界でまともに話したのは看護師の男と彼女だけだというのに、予期せぬ誰とも分からない人がここに来る。自分の身の上を考えれば警戒するのは当然だ。


 「だからその永田殿の友人であると言っているだろう。長いはせん」


 「しかし・・・」


 自分の心配をよそに、廊下を歩く足音は近づいてくる。それもかなり速足で。


 「っ・・・」


 自分の目は病室と廊下を区切る扉に釘付けとなり、息を飲む。足音が病室の前で止まり、一呼吸置いた頃、扉が壊れるかと思うほど勢いよく開かれた―――


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