六話:違い(後篇)
「ところで家督を継ぐのは女性なのですか? こちらは男性が継ぐ事が多いのですが」
「大体察してはいたがそうか、ここもそちらの世界とは逆なのだな」
「ではやはり?」
「ああ、そうだ。家督は女が継ぐものだ。まあ過去に男が継ぐ事がなかったと言えば噓になるが」
「ということは一夫多妻制が基本に・・・」
「うむ。一般的にはそうだ。一部の有力な豪族や大名、皇族は一妻一夫制だったくらいだな」
この後もお互いの世界について知識交換が行われた。結論的には男女比が歪である所以の違い以外はこちらの世界と貞操が逆転しているのみだ。辿った歴史も登場人物の名前、年齢の差異があるがほぼ同じである。この違いも男女の違いによるものだろう。
「しかし、ここまで大きな違いがあっても大まかな歴史が同じとは驚きだ。不思議なこともあるものだ・・・」
「そうですね。私もかなり驚いてます。そもそもこんな並行世界のようなものが存在すること自体信じられません。」
「それは私とて同じだ。君の存在が夢―――幻なのではないかと思う。少なくとも一週間前の私なら信じなかっただろう」
「ははは・・・ごもっともです」
腕と足を組んで難しい顔をする彼女を横目に苦笑する。そもそもこの会談が夢なのではないか、というのは十分理解できるからだ。昨日と今日でしっかり理解したはずだが、やはり信じれないという想いが頭の片隅にはある。特撮・・・時代劇の撮影であってくれと―――
「おっと、もうこんな時間か。私はそろそろ失礼する」
時間はすでに午後10時を指していた。夏とはいえ、もう夜も深い。
「はい、今日はありがとうございました。有意義は話が出来て良かったです」
「お互い様だな。頼まれた物は明日の朝に病院の事務員に渡して持ってこさせよう」
「お願いします」
「では、失礼した」
彼女は雨衣を羽織ると病室を後にした。自分はというと改めて別世界にいるという実感が湧き、不思議な感覚に襲われて中々眠れそうにない。少なくともこれまでの落ちるような深い睡眠にはならなそうだ。ずっと病院で寝たきりであるというのも原因だろう。
「はぁ・・・起きてても意味ないし、寝るか」
寝よう、と自分に言い聞かせるように呟き部屋の電気を落とす。怪我で中々寝返りを打てなかったもののしばらくすればいつの間にか意識を沈めていた。
公開可能軍事情報:人物・歴史解説編①
秋月隆之 21歳 大学3年生
今作の主人公的存在。登山サークルメンバーと石鎚山を登山中に不運にも悪天候に見舞われ、転落。原因不明の逆行転生を果たす。
幸運にも永田鉄美に拾われ、病院にて療養中である。短期間に何度も危機的状況に陥るが幸か不幸かそれを乗り越えた。今後、彼はどうするのであろうか――
趣味は登山、アウトドア。戦略ゲームや歴史考察・研究、及びそのための資料収集である。また、戦争の歴史を理解するにあたって兵器にも興味を持ち、プラモデルを製作するなどミリタリーオタク的な側面を持つが、奇怪な目で見られたくないので一部の本当に仲の良い友人や戦略ゲームのネット友達以外にこの趣味を明かしている者はいない。だが周囲は何となく気付いていた。
日本帝國 皇歴2595年(西暦1935年)
こちらの世界における大日本帝国。人口は約7000万人、およそ世界人口の3.5%を占める。歴史の推移は概ね同じであり、このまま行けば10年後に悲惨な結末を辿る。
技術水準は欧米列強に一歩出遅れていて、航空産業や戦車、軍需などの分野において完全な国産化は果たせていない。その他製造産業も一部技術を除いて同様である。
異世界解説編①
概ねこちらの世界と同じだが性別と貞操概念が逆転しており、男女比率も歪。男死病という奇病が存在し、これが一つの要因となっている。
世界人口は約20億人。男性平均寿命は35歳、女性平均寿命は49歳。先進国における定年退職年齢は40歳となっていることが多いが健康寿命に個人でかなり差異があるため、本人の意思によって退職が繰り上げになることも少なくない。軍における定年退職年齢は国・階級によって違うが、日本帝國では中将で38歳、大将で40歳と決められている。戦時体制下ではこの限りではない。