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~女将校達ノ日本帝國ヨ、永遠ナレ~  作者: 秋津神州
序章:日本帝國へ来ル
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五話:違い(前篇)


 1935年8月16日金曜日、私がこの世界に身を置いて5日が経った。正直、無事生きていることが信じられない。もしかしたらここは死後の世界なのではないかと思ってしまう。

 実際に死んでもおかしくない瞬間はいくつもあった。最初の転落した時、この世界に来て相沢に切り付けられた時、憲兵隊に引き渡されそうになった時―――は気絶していて記憶にはないが・・・、永田鉄美中将に信じてもらえなかった時、振り返れば幸運にも助かった場面がいくつもある。後半の二つは永田鉄美中将のお陰だ。偶然にも拾われたのが彼女で本当に良かった。もし、別の誰かであればこうはならなかっただろう。これは不幸中の幸い・・・いや、人生最大の幸運に感謝するしかない。


 今は午後8時頃、一昨日と昨日と同じならそろそろ彼女が来る頃だ。この退屈な病院生活では少しでも話し相手が出来るのは嬉しい。それが例え尋問であったとしても楽しみにしている自分がいる。

 また、彼女との接触はこの世界の事について知る最大のチャンスだ。まだ分からないことは沢山ある。ここは彼女を利用させてもらって情報収集をしよう。例の中年男性は相変わらず不愛想で話しかけても最低限のこと以外は一切喋らないから当てにならなかった。軍の命令だからか元々の性格か・・・。


 一応、自分なりにこの病室で出来る情報収集を行ってみた。スマホやタブレットを開き確認するが、やはりネットは通じない。これはここが過去の世界だと裏付ける証拠の一つだ。窓から見る限り、そこそこ街中にあるはずなのに電波が通じないのはさすがにおかしいだろう。何もできないとわかるとすぐに電源を完全に落とす。現状モバイルバッテリーしか機器の充電方法がない為、なるべく電力は節約しなければならない。念のため下宿先でも充電できるようにコンセント式充電器も持ってきているがこの世界で使えるかどうかは未知数だ。慎重になるに越したことはないだろう。


 「失礼する」


 これまでと同じように彼女が入ってくる。昨日と同じく仕事終わりに来たのか軍服のままだ。しかし、雨に降られたのかマントのような雨衣を着ている。


 「本当はもう少し早く来たかったが業務に追われていてな、遅くなって申し訳ない」


 「いえ、大丈夫です」


 「何か困ったことは無いか? 入用の物があるなら取り寄せてみよう」


 「ではお言葉に甘えて、歴史書が欲しいです。この世界の事について知りたいことが沢山ありますので」


 「そうか、それは殊勝な心掛けだな。私が持っているものになるが明日持ってこよう」


 「ありがとうございます」


 雨衣を脱ぎ畳んでベットの横にある机に置くと昨日と同じように刀を杖にして椅子に座る。


 「歴史書といえばそちらの世界の歴史はどうなっているのだろうか? 私のような存在の人物がいたのなら、大方こちらの世界とほぼ同じ歴史を辿っているのではないかと考えているのだが」


 「おそらくそうだと私も思います。もっとも、この世界と比べて未来から来ているので私はこちらの歴史をある程度知っていても、そちらは分からないのでしょうけど」


 「うむ、その点だが―――昨日と今日情報を整理してみて、双方の世界で男女の違いがあると言ったように、ほとんど同じ歴史を辿っているとしても何かしら相違点があるように思う。互いを深く理解し合う一歩としてまずこの相違点を洗い出すことにあると考えるのだが、そちらはどう思うだろうか」


 「私も賛成です。この世界で生きていく上で、もっと情報が欲しいと思っていたところなので」


 「よろしい、では今日はそのことについて議論しよう」


 要するに彼女の言っていることは双方の世界について情報交換をしようということだ。私にとって都合がいい事この上ない。とりあえず、双方の世界がどのように違うかだけでも知れればこの世界での身の処し方が分かるはずだ。


 「まずは男女の違いからすり合わせよう。まずはそちらの事を教えてほしい」


 「そうですね・・・。まず、2023年時点での世界人口は約80億5000万人で男女比はほぼ1対1です」


 「80億5000万人!? この世界はまだ20億人弱だぞ・・・90年足らずでそこまで人口が増えるとは」


 「この要因は医療技術の発達で出生率が上がり、死亡率が下がったことや農業の技術革新による生産効率の増加などが上げられます。約12年程度で10億人増えていく計算になります。現在では減少傾向に見られますが、100億人は到達する見込みです」


 「凄まじい成長率だな・・・。ところで男女比率は1対1と言ったか?」


 「そうですね。若干男性の方が多いですが、ほぼ1対1です」


 「なるほど、まずそこがこの世界との相違点だな。まずこの世界の男女比率は1対4だ」


 「えっ」


 「つまり、女性が15億人で男性が5億人程度であるという訳だ」


 衝撃的なことが彼女の口から発せられる。ここまで男女の人口比率に差があるということは何か過去にその根本たる歴史があるのだろうか?

 しかし、男性がここまで少ないのなら女性が軍人をやっている辻褄は合う。まあ、男性が戦争をやるというのはこちらの常識でしかなかったということだが・・・。1/4まで差があるとさすがに男性を戦争に出すのは躊躇われる。これがこの世界の歴史において恒久に変わらなかった男女比率ならばそれ相応の歴史を辿ったはずだ。


 「どうしてそんなことに? 理由はあるんですか?」


 「男児の出生率の低さが原因だ。元々の男女の生まれる比率は1対3であるし、それに加えてもっと厄介なことがある」


 「厄介なこと?」


 「男死病と呼ばれるものだ。男性のみが掛かる病気になる。現在では医療技術の発達により、対処療法で致死率は下がったものの、ほんの100年前までは掛かればほとんど死んでいた。症状は発熱、悪寒、嘔吐、下痢、腹痛、吐血等が上げられる。万が一に助かっても失明や四肢欠損など障害が残る」


 「そ、その原因は分かっているんですか?」


 「残念ながら分からない。この病気が細菌によるものなのか、遺伝によるものなのか、もしくは我々の思いもよらないところに原因があるのかすら解明できていない。なぜ女性には掛からないのかも分からない状況にある。もちろん医薬品も未開発だ」


 「では、男児の出生率の低さは?」


 「それも分からない。もしかしたら君のいた世界の技術力なら解明できるのかもしれないが・・・」


 「そんな、それじゃ何も分かっていないも同然じゃないですか」


 「医学会は躍起になって原因を探ってはいる。成果はないけどな・・・だから男女比率が1対1というのを聞いて少しそちらの世界が羨ましい」


 これだけ似通った世界で人体がこれほど違うのは驚きを隠せない。出生率の問題が遺伝子にあるのだとすれば、彼女の言った通りこちらの世界の科学力なら解明できるかもしれない。解決できるかは別問題

だが。

 男性のみに掛る病気はこちらの世界にもあるにはある。しかし難病に指定されている物も多く、こちらも解決できるかは分からない。

 何より、私は医者ではない。この問題に関して助力することは難しそうだった。

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 「つまり、女性が15億人で男性が5億人程度であるという訳だ」 男女比1対3なのでは?
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