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~女将校達ノ日本帝國ヨ、永遠ナレ~  作者: 秋津神州
序章:日本帝國へ来ル
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三話:理解(前篇)


 永田鉄美・・・彼女が病室を発ってから1日が経過した。朝に例の男性が顔を出し、最低限の診察をしてもらう。まあ、相変わらず不愛想で薬の塗り替えと包帯を変えただけだ。朝食は無く、昼と夕方の2食。病院の為か時代背景かは分からないがかなり味が薄かったのでおいしいとは思わなかった。用意してくれるだけありがたいのだろうけど・・・。


 さて、問題はこの後来る彼女に身の上をどう説明し、納得してもらうかである。昨日もここで躓いた。さすがにこれ以上時間は引き伸ばせないだろう。そうなれば自分がどうなるか分からない。私の命は彼女の手のひらの上にある。ここは何としてでも納得してもらい、その場を凌ぐしかない。


 彼女の言っていることが本当ならば今日は1935年の8月15日となる。永田鉄美という名前と陸軍省、相沢、暗殺未遂というキーワードからあの日は8月12日にあった相沢事件(別名:永田斬殺事件)に間違いないと思う。だとすれば彼女は我々の世界でいう永田鉄山(ながたてつざん)になるのだろうか。とすると自分の知っている史実とは男女の性別が逆転した世界ということになるのだが腑に落ちないことがある。それは彼女の年齢だ。たしか、永田鉄山が暗殺されたときの年齢は51歳だったはず。彼女はどう頑張って見ても30代前後だった。明らかに年齢が合わない・・・。一日で早急に立てた仮説で辻褄が合わないのはこの部分だけだった。粗削りの仮説なので憶測の域を出ないだろうが現状を理解するに務めるには十分である。


 「もし、私の仮説が当たっているなら男女が入れ替わっただけで史実のほとんどはこちらの世界と同じ・・・ちょうど10年後のこの日、この国は・・・」


 悲惨な運命を迎える。現人神が治める神の国という神話が崩壊し、降伏する。あの日ほど日本人が世界に屈服した日はないであろう。都市という都市は焼け野原となり、2発の原子爆弾により広島と長崎は地獄と化す。300万人以上の日本人が死んだ。負傷者、戦後餓死者、二次被害者を含めれば莫大な数の日本人が犠牲になる。そんな未来がこの国に待ち受けているのだ・・・。

 かといってあのまま軍政が続くことを良い事とは思わない。すでに戦前には軍が暴走気味だったことを考えると、あの時負けたのはまだマシだったのかもしれないとさえ考えている。だが、より良い負け方はあったはずだ。大量の餓死者、病死者、30万人を超える水没死、4000人余りの特攻戦死者、80万人の民間人犠牲者は無残すぎる。これより凄惨な国はいくつもあるが、やはり悔やまれる歴史だ。

 このまま知っている史実通りに進めばこの歴史を辿ると思うと胸が締め付けられる・・・。


 「失礼する」


 物思いに浸っていると例の彼女が入ってきた。今回は軍服を着ている、階級を確かめるいい機会だ。


 「軍服で申し訳ない、仕事の帰りに寄ってきた」


 「お勤めご苦労様です。中将なんですね」


 「ほう、軍の階級章に詳しいのか。結構結構」


 金に下地の赤線が2本、星が二つ・・・中将の階級章だ。この若さで中将の階級ということはかなりのエリート将校らしい。確かにこちらの世界の永田鉄山もエリート将校だったと聞くが・・・。


 「最近中将に昇進したばかりでな、早い昇進は軍人冥利に尽きる」


 中将の階級章に気付いたのが嬉しいのかかなり上機嫌だ。確かに、中将という階級はかなり狭き門をくぐってこなければならない。実力と運が味方しなければ優秀な人材であっても上を目指せるとは限らないからだ。それをこの彼女は備えているということになる。


 「それでは、本題に移ろう。頭の整理は出来ただろうか?」


 ベット近くの椅子を寄せて軍刀を杖にし、腰を掛けると昨日の続きを話すように聞いてきた。自分の中で完全に説明できるほど状況を把握できていないが説明するよりほかにない。


 「完全に整理できているわけではありませんが・・・話さない訳にもいかないでしょう。 信じられないと思いますが、とりあえず聞いてもらえると嬉しいです」


 「よし」


 こちらが尋問に積極的な様子で彼女は満足しているようだった。昨日とは違い、かなり穏やかに見える。まあ、この先も穏やかかどうかわからないけど・・・。


 「多分、私はこの世界の住人じゃない・・・と思います」


 「何・・・?」


 やっぱり、この話をすると怪訝な表情になるか・・・仕方ない事だけどさ・・・。


 「まだ気が動転しているのか? さすがにもうその言い訳は効かないぞ」


 「至ってまじめです。少なくとも未来の人間ではあると思います。私は西暦2023年から来ました、1935年には通常存在しない人間の筈です」


 「本気で言っているのか? 精神病院にも連れて行った方が良いのか・・・」


 さすがに信じては貰えてないか・・・何か証拠があると信じてくれるかもしれない。もし、荷物が残っているなら・・・。


 「私の荷物はありますか? それなら証拠を提示できます」


 「まあ、あるにはあるが・・・」


 彼女は席を立ち、部屋の奥にあるロッカーから登山の日に背負っていたリュックを持ってくる。怪我で不自由な身ながら荷物の中のあるものを探す。スマホとタブレットだ。あの大雨から守る為に奥の頑丈なところにしまったはず・・・。


 「しかし、何度見ても不思議な背嚢(はいのう)だな。緑の斑模様の物は見たことがない」


 「未来の軍とかに採用されてます。量も入るし耐久性もあります。その代わりお値段は張りますが・・・」


 「・・・」


 「あった!」


 見たところ損傷は見られない。さすがは自衛隊員御用達のリュックだ。しっかりとケースに入れていたこともあってか画面にひび一つ入っていない。これで証明ができる」


 「なんだ?その板状の物は」


 「スマホと言われる奴です。正式名称はスマートフォンといいます」


 「はぁ・・・おぉ、何か光始めたぞ」


 中将殿は初めて見るスマホに興味津々だ。当然である、この時代にはあり得ない超ハイテク技術が詰まった結晶だ。この時代では値段さえ付けられないほど貴重な物になる。そして、今は私の命綱となりえるかもしれない。


 「顔認証をして・・・とりあえず写真が手っ取り早いか・・・」


 スマホのロックを解除して写真アプリを開く。適当な写真を選び、彼女に向かって見せて行った。


 「どうです? こんなきれいな写真はこの時代ではありえないでしょう?」


 「確かに・・・色も付いているが・・・」 


 写真をスクロールさせながら次々に見せていく。家族の写真、飼っている犬の写真、大学の写真、登頂した時の写真、最後は登山口に立って撮影したサークルメンバー6人の写真・・・。

 

 「その板状の機械がすごいのは分かった。それでどうやってその写真を撮っているんだ?」


 「アプリを開いてボタンを押すだけです」


 「あ、あぷり・・・?」


 パシャ


 アプリを開いて彼女を写真に撮る。画面には若干間抜けな顔をした中将が写し出された。

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