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~女将校達ノ日本帝國ヨ、永遠ナレ~  作者: 秋津神州
第一章:帝國の改革
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二二話:手紙(後篇)


 時計の針は18時頃を指している。

 夏の季節は今の時間でも明るい。

 しかし、昼の青空とは違って朱色に染められた空がどこまでも広がっている。

 今日一日掛けて例の手紙を完成させた。

 拙い文章であること間違いないが今はこれが精いっぱいである。

 これから何度も手紙を出すことになるのなら勉強しなくてはならない。

 

「今日は遅いのかなぁ。いつもならもう来てるのに」

 これまでの経験から病院の食事が来る前には顔を見せるのだが、今日は中々顔を見せない。

 もう永田達が来てもおかしくない時間帯を大幅に過ぎている。

 まあ、彼女らは将校の身なので忙しいのも無理はないのかもしれないが…

 コンコンコン

 突如部屋に響き渡るノック音

 噂をすればなんとやら、恐らく彼女達だ。

 私は疑うことなく返事をした。

「どうぞー!」

 ガチャリと音を立てて2人が入ってくる。

 永田と岡村だ。

「すまない、少し遅くなった」

「お久しぶり~」

 永田の後ろからひょこっと顔を出す岡村。

「元気そうで何よりだわ」

「ええ、おかげさまで何とか」

 そういった世間話をしながら病床の側に椅子を並べて座っていく。

 自分から見て右側が永田で左側が岡村だ。

「どうだ秋月、人選は決まったか?悩んでいるならもう少し待っても良いが…」

「いえ、昨日言っていた通り今日で構いません。考えはまとまっております」

「ほう、では聞かせてもらおうか」

「人選は概ね、そちらで意見された3人で問題ないと思います。2人は私が推していた人物ですし、堀さんは航空産業界に手を入れるなら十分必要な人物であると思います」

「そうか、わかった。秋月の後押しがあるならその3名で行こう。9月には最初の会合を準備したい」

「これで一歩前進ってところかしらね~」

 岡村の一歩前進と言う言葉に少し満足感を覚えると共にまだ始まってすらいないと思い知らされる。

 本格的に我々が動き出すのは陸海軍とその他必要な人員が集まってからなのだ。

 下手に動いてしまうとより良い結果に導いているはずが最悪の結果をもたらすかもしれない。

 私はあくまで未来を知っているだけであって、この時代における日本人の事情をすべて把握しているわけではないし、誤解されて伝わっていることもあるだろう。

 人間と言う生物は後世に物を伝える能力はあっても、昨日の出来事ですら正確に伝えられないのだから。


「ところで、昨日話した手紙が一応出来ているのですが…」

「おお、早いな」

「初めてなのでしっかりできているか分かりませんけど」

 そう言って、書き上げた手紙を渡す。

「どれどれ、少し読ませてもらうとしようか」

 永田は熱心に読み始め、岡村は横から手紙を覗き込んでいる。

 集中して読んでいるのかしばらくの静寂が流れた後—————

「フフッ、ハハ!」

「ちょっと笑うのは失礼よ」

 そういう岡村も笑うのをこらえるのに必死なようだ。

 恥ずかしさの余り、顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。

「いや、すまんすまん! なんだか報告書というか業務連絡を読んでいるみたいでな。その中にところどころ普通の文章があるから耐えられなくなって」

 そう弁明しつつもまだ笑っている。

 岡村ももう耐えられなくなった様子だ。

「うぅ…もう書き直しますから返してください!」

 自分も恥ずかしいのが耐えられなくなり手紙を取り返そうとする。

「いや、これはこれで良い。このまま出そう」

「えっ、ちょっと!」

「お前の勉強にもなるだろう。何より、この手紙に東條がどんな手紙を寄こすか楽しみだ」

「そうね、その時はまた読ませて頂戴ね」

2人はまだまだ笑いが堪え切れない様で笑い続けている。

こんなことになるならもう少し考えてから渡すんだったと後悔する秋月であった…


「ふう、久しぶりにこんなに笑わせてもらった。どうもありがとう」

「いえ…はぁ…」

 片手で顔を抑えて溜め息を付く。

 この頃には恥ずかしさを通り越して諦めに達していた。

「すまなかった。だからそう拗ねるな」

「秋月君、ごめんね~?」

 謝っているがそこまで悪そびれていない様子。この人達は…。

「代わりと言ってはなんだが、良い知らせを用意したぞ。秋月の退院が決定した。9月1日の日曜日だそうだ」

「やっとですか…この世界に来て外へ出る以外はずっと病院だったので退屈でした」

「よかったわね、これで晴れて自由の身よ」

「とは言っても完治した訳じゃないからな。まだ少し安静は必要だぞ」

 確かに痛みはまだある。しかし、歩くことは何とか出来るので退院しても問題は無いのだろう。

 だが問題は別にある。

「秋月君の待遇ってどうするの? まさかずっと隠し通す気?」

「いや、必要な手続きはする。初めから日本で生まれ育ったような偽装工作をしてな」

 隔離して存在しない人物として扱っても良いが、活動していれば何れ露呈する可能性が高い。

 工作員、スパイに目を付けられても面倒だ。

 それに敵は外国だけではない。憲兵隊や警察に目を付けられても厄介なのだ。

 ならば、最初から姿を表に出して置いて、怪しくないように振る舞い。裏で活動する方が良いだろう。

 との判断であるらしかった。

「それと、秋月の身の置き場所で相談なんだが…私と一緒に住まないか?」

「あら」「はえ?」

「っ! 勘違いするなよ! 生活基盤の無い中、いきなり身一つで放り出されても困るだけだろ? だから住み込みで働く使用人という体で一緒に住もうと提案しているだけだ。態々会いに行かなくても連絡取れるようになるしな」

「ふふふっ♪」

 手で口元を隠してわざとらしく岡村が笑っている。

 まるで、すべて知っていますよと言わんばかりに。

「な、何がおかしい!」

「いいえ、なんでも~」

 睨みつける永田に対し、慣れた様にあしらっている。

 それを遮って落ち着かせるように「そういうことなら、ぜひお願いします」と申し出た。

 実の所、自分も退院した後の事を悩んでいたので永田がそう言ってくれるのはありがたい限りだった。

 理由含めてとても納得の行く提案だろう。岡村は別の理由を察しているようだが…。

「ごほん…秋月がそれでいいなら構わない。こちらも準備しておくから、お前もそれなりに準備しておくように」

「りょ、了解です」

 少し語気を強めて早口に言われたので、たじたじになりながら返答をしてしまった。

「では今日はこれにて失礼する。退院当日の昼頃迎えに行くからな」

「は、はぁ…」

「お邪魔したわね~それじゃあ」

「はい、お気をつけて」

 そそくさと部屋を出ていく永田に対して、岡村は軽く挨拶をして出ていく。

 最後の方は怒涛の様な出来事で困惑しつつも、やっと退院できるということに安堵していた。

 急に静かになった部屋を見渡して、これからの事が楽しみで仕方がない。

 この監獄の様な病室から外に出る機会と言えば、例の旅館に行くことしかなかった。

 怪我が完治すればと言うことになるだろうが、この時代の東京を自由に散策してみたい。

 10年後、空襲によって焼け野原になる前の街並みがそこには広がっているはずだからだ。

 今のうちに、この風景を目に焼き付けておきたい。

「それにしても、後5日か…この味気の無い食事ともおさらばだな!」

 私は1週間後の自分を思い描いて興奮が収まらないでいた。



___________________________________________



 とある廊下にて———

「ふふ、分かりやすいのよね~あなたって」

「…くどいぞ」

「はーい」

 こんにちは、秋津神州と申します。

 人生で初めて筆をとって小説を投稿させていただいておりますが、このような拙い小説を眼に止めて読んでくださった読者様に感謝致します。

 また、誤字脱字を修正・指摘してくださった方々にも感謝しております。この場を借りてお礼申し上げます。


 前回期間が空きましたのも、今回期間が空きましたのも、自分が過労により2回ほど入院していたためであります。誠に不甲斐ないばかりです。

 今後も体を休め、体調の様子を見ながら不定期的にゆっくり更新していきたいと思います。

 本作を楽しみにしてくださっている皆様には申し訳なく思うのですが首を長くしてお待ちいただければ幸いでございます。

 どうか今後ともよろしくお願い致します。

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お身体を大切にしてください。 いつまでも待っているんでね!
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