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~女将校達ノ日本帝國ヨ、永遠ナレ~  作者: 秋津神州
第一章:帝國の改革
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一九話:人選


「それで、秋月は新しく加える同志は誰が良いと思うか」

 先ほどの頬杖している状態から変わらず永田が問いかけてくる。

「人数も重要よね。あまり多くても問題だし…とりあえず3人くらいでどうかしら」

 岡村が顎に人差し指を当てて考える仕草をしつつ人数を提案した。

 情報漏洩の危険がある以上、一度に多人数を引き入れるのはかなりハイリスクだ。

 様子見も含めて3人というのは妥当な線かもしれない。

「私もそれで良いと思います」

 自分も岡村の案に賛成した。

 そして、永田が問う人選についてだが…。

「永田さんが選ばなくて良いんですか? 一応一夕会のトップですし、この中で階級も一番高いですし」

 すると永田は腕を組んで

「まあ、意見ぐらいはするかもしれんがこの集まりの主役は秋月お前だぞ。それに自分の命が掛かっとるかもしれないんだ。一回は自分で決めてみろ」

「うぐ…」

 最後の決めてみろという言葉に少し詰まった。

 この頃の日本人は知らないが、最近の日本人は優柔不断だ。

 あまり自分で物事を決めたり考えたり決断することをしたがらない人は多い。

 かく言う自分もそうだ。

「それに」

 続く永田の言葉に耳を傾ける。

「我々の未来を良く知っているのはお前だ。何をしてどういうことをする人物なのかはお前が一番理解できているはず。ならお前が……いや、後世の日本人(にほんじん)に評価され信頼されている人間を選べばいい」

「後世の日本人(にほんじん)…か」

 日本人(にほんじん)日本人(やまとじん)読みは違うが同じ字、同じ国。

 その未来の人間が信頼、信用に値する評価を持つ人物…思い当たる人物は幾つか頭に浮かぶものの3人に限定するとなるとかなり慎重に選ばざるを得ない。

「この一回で決めなければならない訳じゃないんだし、とりあえず名前だけでも上げてみればいいんじゃないかしら? 名前も少し違うみたいだし、そこから予測してみましょう」

 自分が思考に耽る様子を見て岡村が助け舟を出した。

 確かに岡村にしても永田にしても少し名前が違っている。

 東條は読みは同じだが漢字は異なっているため、このパターンもありそうだ。

「分かりました、自分の考えを掻い摘んでとりあえず名前だけ列挙してみます」

 なるべく早く決めねばならないものの岡村が言うように今ここで決めなくても問題はない。

 一先ず自分の考えを聞いてもらって永田さんと岡村さんに意見を聞いてみようと思った次第である。

「同志に迎えるべき人物…お二人とも思うところはあるかもしれませんが海軍から選抜してはどうかと思っています」

「…ほう」

 永田がまず反応する。岡村は自分の次の言葉を待っているようだった。

「東條さんも含めて、今は陸軍将校3人しか居られません。海軍…将来的には政界からも少しは協力者が必要でしょう」

 反応があるか少し間を取ってみたが特に言葉が投げられはしなかった。

 二人とも難しそうな顔で聞き入っている。

 顔色を伺いながら、続けて説明を続けていく。

「今は陸海軍及び政界で仲違いしている場合ではありません。帝國の将来がかかっているんです。私の存在を打ち明けるまでは行かないまでも協力者は必要かと」

 コチッコチッと壁に掛けられている時計の音だけが部屋に響く。

「———まあ、確かに秋月の言う通りだ。今は陸海軍でいがみ合っている場合ではない」

「そうね、秋月君の意見に賛成だわ」

 頬杖をついていた永田が目線を合わせてきて同意する言葉を発する。

 岡村もそれに続いた。

 もしここで拒否されていたらと思うと冷や冷やしたがとりあえず第一関門は突破。

 あとはその後に続く人選をどう思うかだが…。

「それで? 人選については?」

「とりあえず、無難だと思う人物をいくつか——」

 比較的、後世に悪評がない人物を上げていく。

 この時列挙した人物は

 山本 五十六

 山口 多聞

 井上 成美

 米内 光政

 小沢 治三郎

 木村 昌福

 堀 悌吉

 古賀 峯一

 長谷川 清

 他にも名将、人相的に優れている人はいるが後世に高く評価されている人物の筆頭はおそらくこの9名であると思う。

 山本五十六は言わずもがな、是非とも同志に迎え入れたい人物だ。

 米内光政は後に米内内閣を形成する重要人物であるため、40年以降の舵取りで重要な人物になる。

 井上成美は実戦向きの将校ではないが大局観に優れ、行動力もある。

 扱いには困るかもしれないが逸材の一人であることには間違いない。

 古賀峯一は戦術家としては微妙な評価を受けているが、軍政家としてはまずまずの人物だろう。

 山本五十六司令長官の後任で在任期間も短く、最後も地味な為印象は薄いイメージを持つ者も少なくないが愚将ではないのは確かだ。

 長谷川清は長らく在米大使館で働いていた経歴を持ち、海軍次官、台湾総督などを歴任した。

 女性関係は放漫であったが人望は深く、黄禍論が高まる中で誹謗中傷がほぼ聞かれなかったこともそれを裏付けている。

 同志に招き入れることが出来たなら、対米関係に関して活躍してくれるだろう。

 他の将も活躍した人物ではあるが1935年時点では階級も低いので政局に大きく影響を与える立場にはない。

 堀悌吉はこの時点で一線を退いている。

 ただ、産業界では日本飛行機株式会社の社長になる人物であるので今後の製造業及び政界に対して影響力を持てる人物になるだろう。

「それで、秋月の意見ではこの9人の中から選べと言うのだな?」

 永田が両手サイズの手帳に目を落とし、メモを取りながら問いかける。

「そうです。特に可能ならば山本五十六、米内光政の二人はぜひとも勧誘したいところですね」

 山本五十六と米内光政の所に印をつけてペンを置いた。

 少し考えるような仕草をした後、岡村の方を向き——

「大体の推察はできるが、まずは名前と人物を一致させるところから始めた方が良いだろうな」

「そうね、一度経歴をまとめて秋月君の世界と照らし合わせたら多分大丈夫なんじゃないかしら。顔で判別しろって言われても性別も違うんじゃ顔も違うだろうしね」

 まあ、確かに全然違うなと秋月はこちらの世界の顔を思い浮かべながら永田と岡村を交互に見る。

 この世界では30代手前の若い顔をしているけど、こちらの世界では50前後のおっさんだし。

 おそらく先ほど挙げた人物のほとんどはこの二人より少し若いか、2~5歳上程度だろう。

「とりあえず、今日はここまででお開きにしよう。もう夜もかなり深い」

 永田に言われて、ここに来て初めて壁に掛けられた時計を見た。

 時計の針は9時を大きく過ぎており、長い間ここで話し込んでいたことが分かる。

「秋月も疲れただろう。怪我人に苦労させて申し訳ないな」

「いえ、病室で一人過ごすよりは…」

 心底申し訳なさそうな表情を秋月に向けていた。

 少なくとも病室で退屈な時間を過ごすよりか、ここで話していた方が気が紛れて良い。

「そうか、ならいい。勘定を済ませて帰るとしよう」

「早くしないと病院に怒られるかもねー」

 岡村は冗談で笑って見せる。

 この日はこれを最後に病院まで送ってもらった。

 幸いなことに病院からは何のお咎めも無く病室に帰ることが出来た。

 まだまだ、決めれていないことも多く一人になって考え事が増えると不安になる。

 それも二人に合っていた方が楽な理由の一つだ。

 しかし、それも時間が解決してくれるだろう。

 この異世界に来てから12日、秋月の苦労は始まったばかりなのだ。








 公開可能軍事情報:人物・歴史解説編②


 岡村寧子(おかむらやすこ) 29歳 日本帝國(やまとていこく)陸軍 少将


 陸軍・陸士16期三羽烏の一人で永田と共にバーデンバーデンの密約を交わした人物である。

 永田に次いで彼女もエリート将校の一人。

 性格はおっとりしているように見えるが軍規には厳しい側面を持つ。

 秋月と出会って以降は永田と共に窮地に陥る帝國を救うべく同志として活動している。

 今いる3人の中では唯一子持ちである。

 なお、彼女はこちらの世界における岡村寧次(おかむらやすじ)の経歴に酷似している。


 永田鉄美(ながたかねみ) 29歳 日本帝國(やまとていこく)陸軍 中将


 陸軍を代表する超エリート将校、29歳という若さで中将まで上り詰めた実力の持ち主。8月12日、相沢に斬殺されそうになったところを秋月隆之に救われた。以降、彼を保護している。

 当初、秋月が未来の別世界からやってきたことを信じなかったが、スマホという1935年当時からしたら超ハイテクノロジーの異物を見せられ渋々納得した。

 その後は積極的に秋月との情報交換を行い、彼から得られる知識を吸収した。

 なお、彼女はこちらの世界における永田鉄山(ながたてつざん)の経歴に酷似している。


 挿絵(By みてみん)

 永田鉄美

 イラストレーター:ニラ提供

 <https://skima.jp/profile?id=280271>

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