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~女将校達ノ日本帝國ヨ、永遠ナレ~  作者: 秋津神州
第一章:帝國の改革
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一七話:満州油田(前篇)


 時は1935年8月24日、日曜日。前回訪れた料亭へ、今度は秋月、永田、岡村の3人で足を運んでいた。ここへ来た理由は一つ、再度密会を行うためだ。協力することに決まったは良いものの肝心の今後の方針が全く決まっていない。


 今回話し合う題目は以下の通り。


 1、今の帝國に足りない物は何か


 2、上記の為にすべき行動


 3、協力者の選定


 4、対支那方針


 5、対露方針


 主にこの5つである。


 特に重視すべき項目は第三項の協力者の選定だ。情報漏洩の危険を鑑み、現在において秋月の正体を知っているのは永田、岡村、東條の3名のみであるが、帝國の改革を進める上でこの人数は少ない。一夕会のように大規模な組織とは言わずとも、新たなる志を共にする同志が一定数必要だった。


 「さて、秋月。時間は有限だ、早速本題に入ろう」


 目の前には一応料理が並んでいるが、誰も手に付けようとしない。お酒も入らず、それだけこの会合に集中していた。


 「はい、それじゃあ始めましょうか。この帝國に不足しているものは何だと思う?」


 「足りない物を挙げればきりがありませんが・・・早急に解決しなければならない物としてすぐに思いつくのは石油と基礎工業力と基礎技術力でしょう」


 「ふむ・・・それは先週の話を聞いていて痛感するところではあるが、そんなにすぐ解決できるものなのか?」


 「そうよねー。技術力と工業力は財源と人員さえいれば何とかなるかもしれないけど石油の問題なんてどうすればいいのかしら」


 日本における石油問題はどんなに情弱と言えど知れ渡っている事実であり、現代においてもそれは変わらない。しかし、この時代の日本は解決できる手段がある。それは


 「満州に油田があります。それも1世紀程度は採掘し続けられる大規模な油田が」


 「なに!? そんな大油田が満州にはあるのか?」


 「あらあら・・・」


 おそらく架空戦記を齧ったことがある、もしくは社会科の勉強で覚えているなら知っているであろう大慶油田だ。1960年代の中国を石油輸出国にまで押し上げたこの油田は採掘できれば日本の生命線をつなぎ留める重大な要素になることは確実である。


 「それはどこにあるんだ! もしそれが手に入るなら帝國の歴史を根本から覆すことも困難ではあるまい!」


 「まあ、落ち着いてください。手に入れば良いですがそう簡単にはいかない油田ですよ」


 「す、すまない。取り乱してしまった」


 興奮した永田を治めて本題に入ってく。


 「場所はチチハル、ハルピン、長春を結んだ三角形のほぼ中心。後々世界有数の油田となる大慶油田があります。また阜新炭鉱の一つ山を越えた遼河にも油田があり、北京の南側にもいくつか油田が存在します」


 挿絵(By みてみん)


 タブレットで地図を開き、大まかな位置を表示する。


 「すごい、2~3年前から満州の油田調査は進めてるけどこんな大油田が存在するなんて知らなかったわ」


 「うむ・・・しかし、これだけの油田があるならなぜ我が帝國は終戦に至るまで見つけることができなかったんだ? 聞く限りではこの採掘は行われていないと思うが」


 「それはごもっともな疑問ですが一応理由は存在します」


 日本がこの油田を見つけられなかった要因の一つは日本地質学会における石油埋蔵層の理解が薄かったことがあげられる。戦前戦中では海成層にのみ存在するという説が支配的であり、肝心の大慶油田が存在した地層は湖成層で調査対象外の地層だった。


 なお、油田が存在する地層は隙間の多い所であれば貯蓄できることが分かっている。なので火山岩などのガスが抜けた隙間に溜まっていることもあるそうだ。


 他にも日本が所有していた地震波測定機材が旧式で精密な調査が出来ないなどの技術的問題も抱えているため、時間と予算を十分確保しても米国やソ連などの技術支援が無ければ、採掘どころか油層の発見すら不可能だった可能性が高い。


 「そうか、まずは技術面を解決する必要があるわけだな」


 「はい。その通りです」


 「とりあえず場所は分かったのだから本格的な調査と採掘を行えれば解決できるのかしら? それともまだ問題があったり」


 「残念ながら問題は山積みです・・・。まず、この油田は湿地帯の上に存在していますから工場等の建設には不向きです。採掘にも既存の油圧が足りず、自噴しないため水攻法等の油圧に頼らない採取方法を取らなければなりませんが、今の日本にその技術は存在しません。ほかにも硫黄が多く含まれているので脱硫技術が必要になりますが、これも今の日本にはありません・・・」


 「うわぁ、思ったよりひどいですねぇ~」


 「それを解決する方法はあるのか? 聞いたところ簡単に解決する方法はなさそうに思えるが・・・」


 「1935年現在ならまだ可能かもしれません。すべてを解決できるわけではないかもしれませんが」


 「ほう、その方法とは?」


 「米国の技術を購入します、技術者ごと・・・です」


 1935年当時の日米関係は良くも無ければ最悪な状況でもない。完全に修復が不可能となる転換点は1940年9月のインドシナ進駐と日独伊三国同盟からである。もっと言えば1937年7月の盧溝橋事件から怪しくなってくるのだが、今はまだ間に合う。


 「それは良いんだが・・・予算的な問題は大丈夫だろうか。米国が応じるとも限らんしな・・・」


 「まあ、金額と交渉次第でしょう。少なくとも政府は1936年に7億7千万円(現在の価値にして15兆円強)もの巨額を人造石油の計画につぎ込んでいます。これを満州油田開発費に上乗せすれば何とか近年中に採掘・精練が出来るのではないかと思います」


 「7億7千万・・・年間国家予算の約25%程度をつぎ込んだ壮大な計画だな。だが価値はあると思う」


 「うーん、失敗するのが分かっている計画に予算を使うよりは良いと思いますけど・・・」


 「大体岡村が心配しているのは分かる。そんな予算案が通るかどうかだ。なんとか工作を回すことは出来るだろうが成功するかまでは分からない」


 「とりあえず満州の油田を発見したことにしなければ始まらないでしょう。調査をお願いするちょうどよい人材がいればいいのですが・・・」


 「それならいるじゃないか満州に」


 「そうなんですか?」


 タブレットから永田の方に目を移すと不敵な笑みを浮かべる軍務局長がそこにあった。

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