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~女将校達ノ日本帝國ヨ、永遠ナレ~  作者: 秋津神州
序章:日本帝國へ来ル
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一二話:未来(前篇)


 「ふぅ」


 「はぁー」


 「これの為に生きてるって感じがしますねぇ」


 「ぐぅ、げほっ!げほっ!」


 「あら? 大丈夫かしら」


 「すみません、久しぶりで思ったより度が強かったものですから・・・」


 「はっはっは、そうかそうか。まあ、若いとそういうこともあるだろう」


 今回は酒が主目的ではないということで各自もう一杯だけ飲んでメインの食事に移った。


 『はぁ~久しぶりに食べる濃い味のご飯は沁みる~』


 久しぶりのちゃんとした料理・・・いや、病院食こそ健康に気を使ったちゃんとした料理なのだろうが味の濃い料理に慣れている現代人にとって病院食の味の薄い料理は物足りなく感じてしまう。特にこの時代の食糧事情は現代ほど飽和しているわけではないので、さらに質素な物だ。


 「それにしてもおいしそうに食べるな」


 「あっ、すみません。久しぶりにおいしい料理を食べたので・・・」


 「仕方ないんじゃないか? 病院の食事とはそういう物だ」


 「東條さんの言う通りですが、やはり味の濃いもので舌が慣れているので物足りなく感じます」


 「未来の食事はどうなっているんだ? 一世紀経っても変わらないのだろうか」


 「うーん、かなり言葉にしにくいですが・・・和洋折衷とも少し違いますね。 ファストフードと呼ばれる気軽にすぐ食べれる物がかなり台頭しています。 他には冷凍食品とかインスタント食品とか・・・」


 「冷凍食品って冷たい食べ物を未来の人は好んで食べてるの?」


 「いえ、本当に冷たい訳ではなくてですね。 食べる前までは凍らせて保存して、温めてから食べる感じです。 まあ、大体の理由は生ものを長持ちさせるためとか」


 「ということは冷蔵庫が一般家庭に普及しているのか?」


 「そうですね、大体の家庭にはあると思いますよ。 私が住んでいた家にもありましたし」


 「ふ~む、未来の()()()()はかなり豊かなようですな。 ではインスタント食品というのはなんだ?」


 「即席で作れる食品のことですね。 大体お湯を注げば完成します」


 「それは驚いた・・・やはり、未来の食料事情は今とは比べ物にならないぐらい進んでいるらしい」


 「でも和食文化が失われた訳ではありませんよ。 家庭料理としてまだまだ和食は食べられていますし、お店もあります」


 「しかし、インスタント食品とやらは実用化できれば我が軍の糧食として役立ちそうだが・・・。 岡村殿はどう思われますか?」


 「まあ、前線の兵士にとって気軽においしい本土の料理が食べれるなら士気向上になるでしょうけど今の技術水準で作れるようなものなの?」


 「多分出来るんじゃないかと・・・仕組みは簡単ですし」


 「ふふっ、なら研究する価値はありそうね」


 こちらの話す未来の情報からこの時代の軍隊に生かせないかの話題になる。確かにこの時代の軍・・・特に日本軍は輸送能力に不安が残る。ヘリによる空輸はもちろん時代的に出来ず、車両による輸送も十分な数が揃っていないので不可能。こちらの世界の日本軍も機械化に努力はしたものの工業能力の不足から頓挫。結局陸上輸送は鉄道と馬を多用することになり、輸送能力の欠如は手痛い敗北へと繋がった。制海権と制空権の失陥はそれに拍車を掛ける結果となる。


 乏しい輸送能力は前線兵士の食糧事情を圧迫して規律と士気の維持に困難をきたす。それを手軽に調理出来て保存も効き、戦場での喫食も火と水さえ確保できれば容易なので輸送の圧迫も減って解決できるなら、研究する価値はあるということだ。


 「・・・秋月」


 「はい?」


 岡村、東條と話していると対面に座る永田が少し重い雰囲気を醸し出して呼んでくる。それにつられて3人とも背筋が伸びる感覚がした。


 「そろそろ病院で話していたことの本題に入ろうと思う。 やはり話していて思ったが君はどこまで知っているんだ」


 「どこまで・・・とは?」


 「この世界の未来・・・いやそちらの世界の()()と言ってもいいだろう。 大体、ここに居る4人とも秋月の居た世界とこの世界は似た歴史を持つことを今日までに理解したはずだ。 それを秋月はどこまで知っているんだ。この日本(やまと)の未来の事を」


 「例えばどのようなことでしょうか・・・」


 「そうだな・・・近況で問題になると言えば、帝國の軍事機密だ。 未来なら公開されている情報や歴史的な結果として露呈している情報もあるだろう。 それをどこまで知っている?」


 この時直感で理解した。もし答え方を間違えれば消されるかもしれないと・・・。


 今まで迎えてきた危機的状況の一つだが今回のは訳が違う。病院での尋問はお互いに理解するところから始めたが、今は双方ともに事情も素性も明かされている状態。そうなれば確固たる意志・・・存在を揉み消す勢いで、こう問われているのだ。


 『貴様は国家機密を知る塊なのではないか』


 そう問われて素直に答えるならYESになる。なんならこの先の行く末まで頭に入っている。特にスマホやタブレットはその情報の塊だ。だがそれを正直に答えて助かる見込みは無い。しかし、今更否定してもあれだけ情報を出した後だと認められないだろう。なら――


 「おおよそ知っています。兵器の開発計画や未来に起こる軍の作戦、政治戦略やあなた方の一夕会の情報も・・・この国が辿る結末もです」


 「なっ!?」


 「あら~」


 「・・・そうか」


 認めるしかない。最適解はなるべく素直に答えて刺激せず、心情を落ち着かせて無害であることを強調することである。


 この返答に三者三様の反応が入ってくる。おそらく永田以外はそこまで知っているとは思わなかったのだろう。逆に言えば永田の推察は当たっており、そこまで見越した質問と言える。彼女はエリートの名に恥じず末恐ろしい頭脳を持っているのだ。


 「なら話してほしい。この帝國が日本がどうなるのか」


 「しかし・・・」


 「君の話を聞いてからずっと気になっていた。 この世界がそちらの世界と歴史が似通っているのなら日本の未来も知っているのではないかとね」


 岡村と東條は固唾を飲んで返答を見守っている。


 「そんなに良い話ではなかったとしてもですか?」


 「ああ、それでもだ。当然だろう? 未来を先んじて知ることが出来るという本来ならあり得ない機会が目の前にある。それに未来が分かれば出来ることもある。最悪の結果を防ぐことも可能かもしれない。一人の人間として、軍を率いる者の一人として知りたいと願うのは至極当然だ」


 今までにない圧を感じる。それは見た目の問題ではない。彼女からは一人の指揮官、軍人としての威厳がそこにはあった。あるいは責任感と言っても良いかもしれない。本気で彼女は日本の事を考えているのだろう。バーデンバーデンの密約があったあの日・・・いや、それ以前から彼女は日本の未来を憂い、最善の結果を得ようと努力したはずだ。そのためには手段を選ばない覚悟もある。それが彼女の使命なのかのように。


 「・・・わかりました。お話しします」


 「ありがとう。協力感謝する」


 「でも、かなり残酷な未来になります。覚悟してください」


 「ならなおさら聞かなければなるまい。望むところだ」


 残念ながら彼女達にとってこれから話すことはあまり気分の良い物ではない。敗北するという軍人にとっては最大の屈辱的な未来を聞かなければならないのだから。それでも聞きたいという覚悟を尊重して話すことにする。それが最適解だと信じて。

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