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~女将校達ノ日本帝國ヨ、永遠ナレ~  作者: 秋津神州
序章:日本帝國へ来ル
12/26

一一話:料亭


 「おお来たか・・・ふむ」


 扉を開けて、初めて病室を出る。そのすぐ先で永田中将が待っていた。腕を組んで自分の着こなしを見ている。他の二人は見えなかったので先に行っているらしい。


 「少し襟が曲がっているぞ・・・他は大体大丈夫だな」


 襟元に手を伸ばして身形を整えてくれる。


 「ありがとうございます」


 「着替えるのに時間が掛かっていたが・・・本当は辛いなら肩ぐらい貸してやるぞ」


 「いえ、大丈夫です。紳士服は着慣れなくて・・・」


 「そうか、まあ無理はするな。辛かったらそれなりに対応する」


 「ご配慮感謝します」


 「うむ、では行くぞ」


 廊下を渡って階段を下りていく。どうやら3階にいた様だ。まだ完治はしておらず、歩くたびに足が痛いので階段は手すりを使って降りた。

 月曜日の夜なので患者らしき人や見舞い人に幾人かすれ違ったが、やはり現代のファッションとはかなり違う。しかし、それより気になったのはすれ違う人の目線である。軍病院ではなく民間の病院の様で、軍人が立ち寄るのは珍しいらしい。軍服姿の永田中将と紳士服の自分が並んで歩くのは目立つようだ。病人服よりはマシなのだろうけど・・・。


 彼女は気にしていない様子だったが、自分は周りの視線に怯えながら病院のロビーまでたどり着く。出口の前には車が止めてあり、岡村と東條が待っていた。


 「車の準備、出来ております。さあ、どうぞ」


 「ありがとう東條。君は運転席の後ろに乗ると良い」


 「わかりました」


 けがをしている自分に代わって車の扉を開けてくれる。運転席には東條、助手席には岡村、自分の横には永田が座る。その間の足元に自分の荷物が積まれてあった。


 「しかし、運転なぞ久しぶりですね。いつもは部下にやらせておりますので腕がなります」


 「ははは、東條事故るなよ」


 「わかっております」


 車のエンジンがかかり、東條が運転を始めると不安なことを口走る。そういえば荷物もこの二人が運んでくれたはず。流されるがままに任せてしまったが帝國陸軍の上級将校である二人に雑用まがいなことをさせてかなり失礼なのではないかと今更気付く。少し悪い気がしてきた。


 「すみません、二人は少将で階級も上の方なのに手間を掛けさせてしまって」


 「あら、気にしなくてもいいのに」


 「そうだぞ。貴様は帝國の来賓客のようなものだ。武人と民間人は弁えているから気負う必要は無い」


 「だそうだ。これからはなんでも言いつければいい。それこそ二等兵のようにな」


 「え、永田殿ちょっとそれは・・・」


 「ふふっ、かっこいい男の人の為ならいいですよ~」


 「岡村にとって秋月はどうなんだ? この中では唯一の子持ちだが」


 「ん~~~そうねー・・・秘密です♪」


 右手人差し指を顎に当てて少し考えたあと、含みのある回答をした。


 「それより永田さんと東條ちゃんはどうなの? そういった色のある話は一切聞かないけど」


 「私は永田殿が御産みになるまではしないと決めております」


 「私を待っても仕方ないぞ東條。今は色事にかまけている暇はない。別に先を越されたって怒りはしないし、逆に祝福してやる」


 「はぁ・・・貴方達も頑固よね。早くしないと年齢的にしんどくなるんだから早めにしておいた方が楽よ。子供を育むのだって立派な国に対する貢献なんですから」


 「まあ、気が向いたらな」


 「あの・・・男性の方がいらっしゃるのにこの会話はどうなのかと・・・」


 「おっと、すまない。少し下品な話題になってしまったな。どうも軍人で女しかいない職場に行くと、ここら辺の感覚が麻痺していかん」


 「ごめんなさいね」


 「大丈夫です・・・はい」


 なんだか女子高の闇を見てしまったような気分だ。こちらの世界では男子校のような感覚なのだろう。いや、どちらにせよ変わりないか・・・。


 雑談や、建物の説明をされながら東京の街を進んでいく。1時間ほど走って郊外にたどり着くと静かな場所に料亭はあった。古風ながらも整理されており、現代における古き良き日本のような雰囲気を醸し出している。

 車を降りて荷物を取ろうとすると問答無用で東條に荷物を取られ、目配せで任せろと言わんばかりの表情を見せると店の方に歩いて行った。それに永田と岡村が続く。自分も怪我の脚を庇いながら進んでいった。心配そうに岡村が何度も見てくるが、大丈夫という意思表示で笑顔を作る。彼女は無理しないでねというと付かず離れずの距離を保った。

 文献で見聞きしたよりかなり優しく親切だと思う。彼ら(彼女ら)の記録や性格はあくまで軍人や政界としての物で、本当の性格はこうなのかもしれない。


 「大将さん、永田という名前で予約を取っていたはずなのだが」


 「ああ、永田さんですね。いつも贔屓にしていただいてありがとうございます。準備は出来ておりますのでいつもの部屋にどうぞ」


 料亭の入り口に付くと東條が予約の確認をしていた。この店を仕切っていると思われる男性は料理人の服を着ていてかなりがっちりした体付きをしている。会話の内容から来たのは初めてではなく、何度もここを利用しているようだ。

 靴を脱いで廊下に上がると、奥の部屋に通される。10人ほどがギリギリ入れる広さで、何か秘密の会談をするには絶好の場所だ。そこにはすでに4人分の料理が並べられており、スズキやアユの海鮮系が主なメニューとなっている。今まで病院食の味気ない料理ばかり食べてきた自分にとって、これはかなり目に毒だった。


 「おお、これは結構な食事ですな。ご相伴にあずかります、永田殿」


 「ありがとね~永田さん」


 「まさか私の傲りなのか・・・まあ良い、今日はよろしくやろう」


 「おねがいします」


 部屋に入ると各々の場所に座る。上座には永田、その左右に岡村と東條が座り、正面には秋月が座った。


 「秋月はお酒飲めるのか?」


 「ええ、嗜む程度には」


 「そうか、それなら一杯やろう」


 「永田さんはお酒好きだものねぇ」


 「好きというほど飲んでも無いだろう。根も葉もないことを言うな」


 「でも永田殿、いつぞやの席では・・・」


 「あーまてまて、分かったから何も言うな」


 東條が言いかけた言葉を手で払って止める。何かお酒で失敗したことでもあるのだろうか。そういったエピソードには疎いので知らないのだが・・・。


 「とりあえず一杯は飲みましょう? せっかくの料理なのですし、少しくらい罰は当たらないわよね?」


 「まあ、岡村殿もそういうのであれば私もいただきましょう」


 「今日はお酒を飲むのが主目的じゃない。ほどほどにしておけよ、飲みすぎて話もまともにできないのでは困る」


 「(それよりお酒なんて飲んだら誰が運転して帰るんだ? ・・・あ、そっか。この時代にはまだ酒気帯び運転の罰則が無いから大丈夫なのか。いや、全然大丈夫じゃないけど)」


 大将に頼んで徳利とおちょこが運ばれてきた。東條が全員分のお酒を注いでいく。まもなくして全員の所へ日本酒が入ったおちょこが行き渡った。お酒を飲むのも久しぶりである。


 「では、秋月の完治を祈って」


 「「「「乾杯」」」」


 おちょこを前に突き出し、一気に飲み干した。

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