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第71話 帰郷

 港町アゼットを離れてからの日々は、そう長くは感じなかった。

 いよいよ故郷ファーランド島の姿が視界に入ってきて、島が徐々に大きく映るとともに、胸の高まりもどんどん増していく。

 まぁ……春先で色々と農作業が忙しいだろう。実のところ、そういう事情があっての帰郷でもあるし。

 だから、出迎えに来てるのが暇な友人連中だけだったとしても、特に驚きはない。


――なんて考えていたものの。


 船着き場が見えてくると、予想していた以上の盛況ぶりに、かえって面食らってビックリしてしまった。見送りの時よりも多いんじゃないか?

 驚きを隠せないでいる俺を見て、船員さんたちがニヤニヤと笑みを浮かべてくる。


「おうおう、人気もんじゃねえか」


「女の子も結構いるんだろ? まったく、羨ましいじゃねえか」


「ああ、いや。あっちには俺よりもモテる奴がいるんで。たぶん、そういうのじゃないです」


 その点だけは冷静に指摘を入れると、何やら過去の傷をえぐってしまったみたいだ。船員さんの一人が、なんともしみじみとした顔で俺の肩に手を置いてきた。


「親しいヤツにモテるのがいるとツラいよな、わかるぜ……」


「いや、居ても居なくても変わらんだろ?」


「うっせえな」


 そんな一幕に少し気がほぐれ、俺は再びみんながいる方へと向き直った。


 この集まりの良さに、心当たりはあった。

 山神様討伐の報酬として、故郷に向けた感謝状を、市長様とコードウェル伯爵家の連名で送っていただいている。我ながら、すごいものをおねだりしたもんだけど……

 感謝状を受け取った島長(しまおさ)がみんなに周知して、ああなっているんじゃないか。

 いやまあ、帰った時に自分で言いふらすよりも……と思って、一筆(したた)めていただいたわけだから、望み通りといえばそうなんだけども。


 やがて、船が桟橋近くに停泊し、手際よい船員さんの働きで諸々の作業が進んでいく。みんなとの再会が迫る中、心が浮足立って落ち着かない。

 そういった俺の内心が外にまで表れているらしく、船員さんたちからは微笑ましいものを見るような目を向けられる始末だ。


「なんですか、も~」


「い~や、べっつに~」


 軽いノリで茶化してくる船員さんに苦笑いで答え……

 ついにその時がやってきた。船から降りる準備が整い、まずは船長を始めとする船員さんたちにご挨拶。

 もっとも、船長からは「我々の事はいいから」と苦笑いで先を促されてしまったけど。


 言われるがまま、半ば追い出されるような勢いで船を出て、いざ対面。

 直面すると、その場に集まっている人数がより多くなったように感じられる。かなり照れくさくなりながらもみんなに視線を向けていくと……

 とりあえず、親父と母さんがにこやかにしていて、それが何よりだった。

 両親の他には、まず島長。見える範囲には友人たちも。


 こうして再会を喜ぶ雰囲気の中には、どことなく尊敬の眼差(まなざ)しを向けられているようにも感じられる。それも、ちょっと下の方から。チビっ子たちに話が行っているのかも。

 余計に面映ゆくなる俺を前に、誰も口を開こうとはしない。みんなの前にいる島長も、穏やかに微笑を浮かべて沈黙を保ったままだ。

 なんというか、俺から口を開かなきやいけない状況っぽい。

 うまく言葉が思い浮かばない中、とりあえず思いついたことを口にした。


「も~、みんな大げさだなぁ」


 すると、島長が軽く鼻で笑う。


「こういうのを期待しとったんだろうに。違うか?」


「まーね。ここまでとは思ってなかったけどさ」


 それから、島長はニヤリと笑い、しゃがれた声を少し弾ませた。


「向こうで、よう頑張ったようだの。まったく、鼻が高いわい」


「そうかそうか~……もう少し(あが)めてくれてもいいんじゃぞ?」


 口真似してふんぞり返って見せる俺。姿勢を少し変えるだけで、背負った荷物から賑やかな音が鳴り、ちょっとした笑いを誘う。

「チョーシに乗りおって」と、またも鼻で笑う島長だけど、顔はずいぶんと嬉しそうだった。


 それから、島長に代わって今度は俺の両親が前に。

「おかえり。頑張ったな」と親父。たぶん、俺の活躍が知れて、島のみんなから色々と俺の事を褒められたんだと思う。みんなの前に出てきた親父は、どことなく照れくさい様子だ。

 一方、母さんは普通にニコニコしている。強いていうなら、鼻が高そうってとこか。


「土産話が楽しみだわ~。色々あるんでしょ?」


「そりゃーもう」


 意外にも冒険者稼業とかに興味を持たれているらしい。もちろん、俺としては嬉しくあるんだけど。

 両親の後は友人たち、それから順番関係なしに、ここに集まったみんなが口々に話しかけてくる。

 少し騒がしくなりながらも、ひとしきり再会の喜びを分かち合ったところで、お迎えはお開きとなった。いつまでも桟橋に居座ったんじゃ、船乗りさんたちの荷下ろしの邪魔になるし……

 とはいえ、そういうことで苦情を言われそうな雰囲気はまったくなかったけども。

 チビっこたちからは土産話をせがまれたけど、それはまた今度ということで。みんなバラバラと動いていって、俺たち家族3人が最後に残った。


「じゃ、帰るか」


「ん」


「今日のところは、家でゆっくりしなさいな」


 と、母さんがにこやかに言った。

 もちろんそのつもりではあったけど、実は他に行きたいところがないわけでもない。


 3人で家へ帰り、荷物を置いた俺は二人に切り出した。


「ちょっと、教会にご挨拶が……」


 いちいち許可を求めることでもないんだろうけど、念のために尋ねてみる。

 実際、これぐらいでとやかく言われることはなかった。ああいう場での話だけで済ませるのではなく、改まってご挨拶に伺う意味もある。

「あまり遅くならない内に帰るよ」と言うと、母さんが嬉しそうに微笑んだ。

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