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第46話 食料調達

 さて、雪のシェルターで急場は(しの)げた感はあるものの、まだまだ油断はできない。お姉さんによれば、しばらくすると巡回の部隊が来るだろうという話だけど……

 この場を離れるとなると、結局は雪の中を進んでいかなければならない。救助の手を借りながらとはいっても、救助される側の体力がないことには――ってわけだ。

 一応、暖を取るための《テンパレーゼ》もあるけど、こいつもある程度は体力が必要だ。もう少し、何か食べてもらった方がいいんじゃないか。


 とりあえず、果物類は水分補給も兼ね、鍋で温めた上でご夫妻に食べていただくことに。白湯(さゆ)ばっかりよりは、こっちの方がいいだろう。

 ただ、いずれ来るであろう巡回の手を待つとしても、現状の食料では心もとないというか……

 もう少し正確に言うと、「食料が有限だと思うと、たぶんストレスになる」って気がする。

 助けを待つ身としては、もう少し追加で、何らかの安心要素が必要だろう。


 そこで俺は、お姉さんが温めていた小鍋の事を思い出した。雪を沸かしてお湯にしていたんじゃないかとも思うけど……飲める水がそばにあるなら、そっちを使うだろう。

 で、この辺りが避難所扱いなら、ちゃんとした水源もあるんじゃなかろうか。

 その点について尋ねてみると、ドンピシャだった。


「林の方へ少し歩くと渓流があって、山の方へと遡上していくけば、ちょっとした湖もあるわ」


「魚とかいますか?」


「見たことはあるけど……」


「じゃあ、釣れるかどうか、ちょっとやってきます」


 とはいえ、釣り具はどこにもないんだけど……ああ、いや。使える道具がないわけじゃないな。まだまだ元気が有り余ってくるくらいだし、やってみる価値はある。

 しかし、雪の中へ釣りに行くという俺に、ご夫妻はかなり心配そうな顔に。お姉さんは目を白黒させている。


「えっ? 釣り具は?」


「ありませんけど……まぁ、できんこともないかなって。言っておきますけど、素手を水に突っ込んだりとか、そういうのはしませんからね」


 心配されていそうなことを先回りで否定しておくけど、さすがにそこまでしないだろうと思われていたらしい。お姉さんには苦笑いを返された。


「あまり無理は……と言いたいところだけど、追加の食料があれば心強いわ。でも、あまり無理はしないで。無理そうだと思ったら、四人で温まりましょう」


 クールな印象のお姉さんだけど、言葉の端々からは心温まる優しさを感じられる。

 まぁ、言い出しておいてすごすご引き返すのもアレだし、頑張ろう。

 これでも、「天の助け」なんだし。

 期待よりも不安と申し訳なさの色合いが濃い視線を前に、俺はあくまで軽く「ちょっくら行ってきます」と、雪の中へと出ていった。


 シェルターの中から出ると、銀世界はまるで別モノだった。いつの間にか気温がさらに落ち込んだのか、容赦のない寒さが攻め立ててくる。

 もっとも、俺の作品がしっかりしているからこそ、相対的に外がクソ寒く感じられるだけかもしれない。

 というか、そういうことにしよう。俺の功績が確かだと思えば、悦って少しは気持ちも温まる。


 お姉さんに聞いた通りの道へ、雪を踏みしめながらずんずん進んでいく。

 実際の渓流は、思っていたよりもずっと近くにあった。こんな状況だけど、水の流れはしっかりとあって、凍り付く様子はない。

 しかし……よくよく思い返せば、あのお三方に合流する前、俺はもう少し高所にいたわけだ。合流を急ぎつつも周囲の地形を把握しておく程度のことは、できていたかもしれない。

 まあ、その辺は今後の教訓としておこう。


 雪に覆われて不確かな足元に精神を集中させ、渓流を遡上するように進んでいく。

 やがて、周囲の山々から水が注がれていると思われる、ちょっとした大きさの湖にたどり着いた。雪で真っ白になった木々に囲まれる中、空を映し出すやや鈍い色の湖面が、なんとも幻想的だ。

 で……湖畔を巡って目を凝らすと、いくらか魚影があるのを発見できた。たぶん、食える山魚だか川魚だろう。念のため、臓物を抜いてから焼けばいいか。

 というのも、結局は捕まえてからの話だけど。


 一応、エサの候補はいくつかある。虫、コケ――

 そしてパンくず。

 まぁ、パンに食いついてくれれば話は早い。故郷でも魚釣りではよく使ったエサだし、きっといけるだろう。

 この状況ではなおさらに、普段よりもったいなく感じつつも、冷え切ったパンを細切れに千切って水面へ投げ入れる。まずは様子見で、少量を。

 祈るような心地で魚影の動きに視線を泳がせると……祈りが通じたのか、魚がこちらへやってきた。

 よし、パンは食う魚らしい。


 気を良くした俺は、カバンから捕獲用の道具を取り出した。

 別に、魚を捕まえる専用の道具があるわけじゃないけど……こういうのは考え方だ。

 取り出したのは組み立て式の三脚。フライパン等を乗せるための台座に、今日は脚を一本だけつける。脚っていうか取っ手だけど。

 ネジ入れた一脚を手に取り、本来とは逆方向に持ってみる。台座は少し幅のあるリング状の基部に、リングの穴を埋める形で金網が合わさっている。そこから、少し角度をつけた形で脚が一本伸びている格好だ。


 今日はコレを、タモだと言い張ることにする。


 脚を取っ手にした上で、網付きの台座の部分で魚を掬い取るわけだ。

 それにしても、キャンプ用の三脚ということで、卓上の錬金術で用いる三脚よりもずっと大きい品だけど、こんなところでこの大きさが役に立つとは。


 得物を手に、再びパンくずを投げ入れ、魚が食いつくのをじっと待つ――

 思わず狩りの心地で息を潜めると、水面の奥から魚影が近づいてきた。無防備にもエサにありつくその瞬間を狙い、俺は即席のタモを水面へ滑らせていく。

 台座が水面に突っ込み、わずかな抵抗感の後、本命の重量感が取手から伝わってくる。

 本来の用途とはまるで違う用法だけど、どうにか使えている。魚が逃げ出す隙を与えないよう、掬った勢いそのままに、魚を宙に放り投げるよう手首にスナップを利かせ――

 一連の流れでポ~ンと湖面から飛び出させた魚を、俺はスッと立ち上がり、もう一方の手でキャッチした。やや大柄な川魚ってぐらいの、結構食いでがありそうな獲物だ。

 手の中で魚がビチビチと暴れ回り、身を切るような冷水を撒き散らしてくる。でも、冷たさは不思議と気にならない。達成感とはちょっと違う、「してやったり」的な満足が沸き起こる。


 案外イケるもんだ。

 取った魚は、ひとまず雪原に寝かせておく。念のため、用法外の使い方をした三脚――じゃなくって、一脚の脚が緩んでないかを確認。

 キャンプ用だからか、作りはガッチリしていて、川魚ぐらいの重量物ではへこたれない様子だ。心強い。

 この調子で何匹か確保していこう。

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