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第17話 いつものやつ

 ある程度は読めていた、ハーシェルさんからの申し出。これに対して、俺がどうこう反応するより早く、先輩二人から抗議の声が。


「ハーシェルさん!」


「ちょっと……! そういうつもりの同行じゃなかったでしょ!?」


 しかし、非難の声を向けられても、ハーシェルさんは何枚も上手(うわて)のようだ。なんとも落ち着き払った態度で、「まぁまぁ」となんでもないように二人をなだめる。


「この仕事は、ハル君への教育も兼ねてるけど……もともと、僕は君らの指導係でもあるだろ? この状況は、君らにとっても得るものがあるんじゃないかと思うんだけど」


「うっ、それは……そうかもだけど」


 少なくとも、自分たちでは攻めきれずに指導員を煩わせたという負い目があるみたいで、エルザは声のトーンを落としてアレンに視線を送った。

 仲間から視線で意見を求められ、彼が少ししてから口を開く。


「ハルベールに、何かできるというなら……今度は、俺たちが見学してもいいです。ただ……」


「何か?」


「そいつに危険が及ぶようなら、俺たちだって、黙って見てるわけには」


 指導員の判断には従いつつも、この集まりのリーダー、そして冒険者の先輩としての責任感を見せてくる。

 彼の真っ直ぐな視線を受け止め、ハーシェルさんが俺に尋ねてきた。


「というわけで、どうかな? 安全確実に、アレらを仕留める手立てがあれば、僕らに披露してもらえれば」


 実のところ、そういう手口はある。幾度となく《騎猪(キノシシ)》を一方的にぶっ殺してきた戦法が。しかし――


「たぶん、あまり参考にならないんじゃないかと……故郷では、その……」


「何かな?」


「『行儀悪い』って、大人たちに笑われましたし。それでも良ければ」


 とはいえ、これが逆に興味を引いてしまったらしい。「それはお目にかけたいね」と、ハーシェルさんがにこやかに笑った。

 まぁ……頼まれごとなら、別にいいかな。島じゃ、いくら《騎猪》を倒してもタダだったし、そう思えば今回は手当が出る分だけ恵まれてる。


 結局、俺はハーシェルさんの申し出を請け負うことにした。後輩がしゃしゃり出るようで、少し――なんだかなぁ~って感じの、モヤモヤはあるけども。

 気が引ける思いを胸に、先輩二人へチラリと視線を向けると、二人は複雑そうな表情でいる。

 先にアレンが、「ハルベール」と声をかけてきた。


「きっと、戦い方はわかっているんだろうが……無理するなよ」


「なんだったら、後で四人で戦ってもいいからね!」


 ああ、心配してもらえているんだ。

 おかげでむしろ、ヤル気が湧いてきた。戦意新たに、俺は下の獲物へ目を向け……ハーシェルさんに顔を向けた。


「ところで、どうやって降りれば?」


「ああ、そうだよね。合図をくれれば泡を割るよ。希望があれば、泡のまま移動することもできるけど」


 泡のまま送ってもらうのも、興味はあるけど……

 自分の足で十分かな。


「ここで降ろしてください」


「ん……僕から言い出したことだけど、大丈夫かな? 使徒としての力を見込んでの提案だったけど」


「ダイジョーブです」


 気負いなく返答する俺に、真面目な顔のハーシェルさんが「割るよ」と声をかけてきた。

 すばやく下を再確認し、うなずくや否や、泡が割れた。それまであった地面がいきなり消えるかのような、慣れない感覚に襲われる。

 そんな新感覚に、若干の興奮を覚えたのも束の間、すぐに地面に着地。魔獣二体と同じ地平に立った俺は、目をつけていた木へと走り出した。

 泡で浮く三人から視線が通る中で、比較的太めで頑丈そうな木だ。


 突進がお得意の《騎猪》だけど、勢いまかせにへし折れる木は、そう多くはない。太い木は避ける傾向にある。

 まかり間違って、この太さの木に突っ込もうものなら、身動き取れなくなったところを攻めればいい。

 実際には二体とも、木を避けつつも俺をかすめるようなコースを選択した。


 でも、俺の走り出しの方が早い。結局、連中の突進は準備段階で終わった。

 目的の木に俺が飛びつき登り始めると、連中は木に突っ込みはしない。少し勢いよく駆けてくる程度だ。

 こうして俺は木に登り、根元付近では《騎猪》二体が、ブヒブヒと不満タラタラに鳴いている。登ることのできない木に、せめてもの姿勢か、上半身を持たせかけている。


「そこから……どうするんだ?」


 心配と、どことなく期待や興奮を(にじ)ませながら問いかけてくるアラン。


「登ろうとするところを、下に斬りつけるとか?」


「いや、顔狙いとしても浅くなるだろうし……第一、安定しなくてそれも危険だろ」


 言葉を交わし合う二人に、俺は「まぁ見てて」と応じた。

 前足で懸命に木の幹をひっかく二体を尻目に、まずは木を上に登っていく。

 程よいところで木登りをやめ、俺は両脚に力を込めて木にしがみついた。空いた手で腰から矢筒を外し、矢筒の紐を枝にかける。この程度の荷重では何ともならない、十分な強度のある枝だ。

 枝に矢筒を預けたところで、俺は木をもう少し登っていった。矢筒をかけたのとはまた別の、十分な太さがある枝に手をかけ……その枝を中心に、細心の注意を払い、手足を動かしていく。


「う、ウソでしょ?」


――ちょうど、逆立ちで木登りする格好になった。


 今では、自然と顔を向けた先に、二体の魔獣と地面が見える。

 無理のない(・・・・・)視界を確保したところで、俺は下半身に力を込めた。両脚を幹に巻き付かせ、上半身を起こす。

 姿勢としては、丸太に(また)がってるのと同じだ。

 ただ、今はこの姿勢を、立っている木の上で、それも下向きにやっているというわけで。


 両脚だけで木にしがみついているおかげで、今や上半身がフリーだ。背負った弓を手に取り、枝にかけておいた矢筒から一本抜き取る。

 弓に矢を(つが)え、狙いは眼前の魔獣へ。

 胴体が剛毛に覆われた《騎猪》も、弱点はある。背よりも腹の方が、若干毛が弱くてまだマシ。顔の方は、胴体よりもさらにマシ。

 でも一番弱いのは――鼻や口だ。


 鳴き声を上げる《騎猪》目掛け、俺は引き絞った矢を放った。弾道を考慮する必要もない。一直線に飛ぶ矢が、魔獣の口から奥へと突き刺さる。

 この一糸での絶命を確認する前に、俺は二射目へと動いていた。矢筒からもう一本抜き取り、再び構えて一発。

 急所狙いの一撃に、二体目もなすすべはなかった。口から侵入した矢に、柔らかな内部構造を撃ち抜かれ――

 二体は、やや不揃いな断末魔を上げた後、その場にゴロンと転がった。


 ややあって、連中の体中に透明な虫食いが生じ、体が徐々に消えていく。

 それと同時に、俺の方へと透明な力の風が流れ込んでくる。使徒としての力の源、源素(プリマス)だ。

 そういえば、もっと《源素》を蓄え、正式な勇者になるのも目的のひとつだったよなぁ。

 とりあえず、島でやってたやり方が、こちらでも通用するようで一安心だ。


 やってる自分自身、かなり横着というか無理のゴリ押しだと思うけど。


 一仕事終えた俺は、背筋に全力を注いだ。一瞬で海老反りになり、同時に両足を木への巻き付きから、一気に引き抜く。木への支えを失いつつも姿勢を整え……

 さっきまで魔獣がいた枯れ葉の絨毯(じゅうたん)に、何事もなく着地。その場でジャンプして、枝に引っ掛けた矢筒を引っこ抜いて回収した。


 それで――見上げてみると、観戦していた三人とも、唖然とした顔でいらっしゃる。

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