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真っ白い夏  作者: 冬野柊
1/8

#0 プロローグ

 

 茹だるような暑さ。東京の夏。

 麻生耕助(あそうこうすけ)は、これで10年目の東京の夏を迎える。

 そうは言っても彼の故郷は関東なのでもはや何も変わらない。変わっていくのはその年齢だけだ。

 今日は土曜日。仕事を休み麻生はとある場所へと赴くことにした。まずは待ち合わせをしてる渋谷まで向かう。

 彼が住む代官山からは一駅。普段なら歩くところだが、この暑さが彼に電車を選択させた。

 TOKYO2020に合わせて、渋谷はより近未来都市のような変貌を遂げた。既存のヒカリエや109、そしてスクランブルスクエア、渋谷ストリーム。駅の中は地下7階相当まで電車が通っている。新宿、東京、池袋とともに都内でも屈指の巨大ターミナルである。

 それでも昔から集合場所は変わらない。

 毅然と佇むハチ公の前で麻生耕助は約束の人を待つ。


 しばらくして、こちらを向きながら右手を挙げ、おう!と威勢よく挨拶してくる男性が目に入った。

 そう、彼こそが麻生が待ち合わせていた人物。

 間宮隆である。彼らは大学時代からの友人でともに大西学院大学(たいせいがくいんだいがく)の卒業生である。


「コウちゃん!久しぶりだね。元気そうで何よりだよ。いつぶりだろう?」

 間宮隆(まみやたかし)はキラリと光る白い歯を見せながら旧友との再会を喜んでいる。

「隆!久しぶり。そっちも変わってなさそうだな。3年ぶりくらい?池袋で飲み会して以来…か?」

 不確かな記憶を辿りながら麻生耕助も会話を楽しむ。

 彼らの過ごした日々を掻い摘むようにして昔話に花を咲かせる。もう戻らない時を思うことは見方によっては滑稽(こっけい)なことである。しかしながらこうして、それを共有してきた者同士にだけ伝わるシンパシーみたいなものがあることもまた、確かなのだ。それがどれだけ時が流れても思い出が色褪せない理由なのかもしれない…その時の2人がそれを感じていたかはわからないけれど。


 彼らはここから、埼京線に乗り込み、埼玉は川越まで向かおうとしている。

 大学時代、通学のルートだった駅だ。埼玉県の中でも比較的治安も良く、小江戸川越とも呼ばれる観光地でもある。

 もちろんそもそも埼玉に住んでいた彼らにとって、そこは観光の場所でもなんでもなく、ただ通学時に使う駅である。


「川越か。4年くらい前?あ、ほら、真柴っていたじゃん。後輩の真柴淳太(ましばじゅんた)。彼の結婚式の時川越からバス乗ったんだけど、それ以来かな。」

 思い出したように麻生は話し始めた。その結婚式からもそんな経つのか、と物思いに(ふけ)っていた。


「あぁ、真柴君。いや全然会ってないな。今日来たりするのかな?」

 その結婚式に間宮隆は招待されていなかった。後輩ということもあり、麻生達の学年からは数人しか呼ばれてない。麻生はその1人だった。


「いや、多分俺達の学年しかいかないと思うよ。」

 明後日の方を向いて少し悲しげな顔をした麻生。

 旧友が2人で向かうところと言えば飲み屋やカラオケであってくれたら嬉しいものだが、今回はそう言うわけではない。


 彼らはこれから同級生の葬式へと向かう。

 同じ大西学院大学外国語学部日本語学科の同級生のだ。

 2人の同級生が亡くなるのは2人と初のことだ。

 どう言う気持ちでいればいいのかわからないのは当然だ。昔話で気を紛らわせたくなるのも無理はない。


 1人の同級生の死があの頃の記憶を断片的に蘇らせ

 今覚えているその光り輝く記憶を覆すかもしれない。

 曖昧に彩られた記憶が鮮明にピースが埋まっていくその先は光であるとは限らない。

 無理矢理に穿(ほじく)り返さなくても思い出を綺麗なままにしておくことも悪くはないかもしれない。

 だが今の彼等にそのようなことまで考える余裕などあるはずもない。

 もちろんこれからどんなことが起きようとしているかなんて、想像もしていないことだろう。

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