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勇者誕生編

魔族領・中心部 

 そこは赤く染まった空、魔素を振りまく森、毒に侵された沼、周りを囲う山々には黒雲が立ち込め雷鳴が鳴り響く。

 その中に聳え立つ巨大な建造物――魔王城。


魔王城・玉座

 魔王城の最奥に構えられた広大な部屋――不思議な事に柱はない――の奥、大きく重い両開きの木製扉から通路を示すように等間隔に並ぶ燭台の列の先。

 周りより高く作られた、5段ほどの階段が設けられた壇上に鎮座する、王と呼ばれる者が座るのに相応しい豪奢な作りの玉座。


 燭台と玉座以外に何もない部屋の、その玉座に小さな影がぽつんと一つ。

 玉座の大きさに見合わない小さな少女。その額には、燃えるような赤い髪を突き割るかのように体の大きさに不釣り合いな大きな角が一対。

 少女は目を閉じ、頬杖をついて何かを探っているかのように神経を張り巡らせている。


 先ほどまで眠っているかのように見えた小さな少女が、何かを感じ取りカッと目を見開いて立ち上がった。


「アリアドネ、アリアドネはいるか!」

 少女がコツコツと石造りの床を歩く音と、高く力強い声が部屋に響く。

「はい、魔王イヴリスさま。ここに。」

 音もなく、魔王イヴリスと呼ばれた少女の影から出現した女性が膝をつき頭を垂れる。


「アリアドネよ、気安く魔王の背後を取るなといつも言っているだろう」

 はぁ、と小さなため息を一つ吐く。

「申し訳ございません。魔王さま」

 眉一つ表情を変えずにアリアドネと呼ばれた女性型の魔族が答える。


「アリアドネよ、人族の勇者の状況はどうなっている?」

 くるりと身を翻しアリアドネを正面に捉える。


「数日前に人族の国、その辺境の地にある小さな農村で勇者が産まれたとの報告が偵察部隊より上がってきております」

 立ち上がり、資料の内容をかいつまんで報告する。

「ついにこの時がやってきたか。……それで、男の子か?女の子か?」

 魔王は鼻息を荒げ目を赤く輝かせながら問う。


「それはもう愛らしい男の子と聞いております。偵察隊の者は人間の性別を見分けるのに不馴れでありますので、引き続き監視を続けさせております」

 報告を聞きながら魔王がぱちりと指を弾くと、膨大な魔力がうねり、捻れ、圧縮されていく。召喚や転移ではなく魔力によって練り上げられたテーブルとイス――デザインのセンスはお世辞にも良くはない―ーが出現し、魔王はどかとイスに腰かける。


「うむ、頼むぞ。してアリアドネよ。」

「なんでございましょう、魔王さま」

 相づちを打ちながらアリアドネが何もない空間に裂け目を作り、そこからティーカップやポットを取り出す。

「勇者の村近くから力のある魔物を引き上げさせ、残った力なき者達には村の畑や森を荒らさぬよう厳命せよ!」

「はっ!畏まりま……魔王さま?」

 言葉の真意をくみ取れず、お茶を入れる手が止まり首を傾げる。


「強き魔物より放たれる瘴気は幼子には毒であろう。健やかに育って欲しいからの。それに、食糧が不足するなどもってのほかだ」

 微かに目を見開き、その言葉の衝撃によって持っていた茶器を床に落とす。

「魔王イヴリスさま。わたくし、魔王さまの優しきお言葉に心が震えております」

 自らの胸に当てた手を、きゅっと握りしめた。表情は変相変わらずの無表情だが、心なし頬が紅潮しているように見える。


 落とした茶器を空間の切れ目に飲み込ませ、新たな茶器を取り出しながら問う。

「ですが魔王さま、引き上げさせた者達から不満が上がる事が予想されます。如何致しましょう」

 お茶を注いだカップを魔王の前に置くと、アリアドネは失礼致しますと小さく呟き、魔王の対面にあるイスに腰掛ける。


「南方に未開の土地があったはずだ。そこに移住してもらう。必要な物資や支援は全て用意すると伝えよ」

 カップを手に取り琥珀色の液体から立ち上る芳醇な香りを堪能し、茶を一口すする。

「アフターケアも万全でございますね」


「ところで魔王さま」

 おかわりを所望する魔王の対応をしながらアリアドネが口を開く。

 申してみよ、とカップを受け取りながら魔王が促す。

「人族には子が誕生した時に報奨を授ける風習があると、歴代の魔王様が収集した書物に記載がございます」


「なんと、良い風習であるな。我が国でも取り入れることとしよう」

 種族が違えば文化が違う。人族の文化は異質で受け入れ難い事も多い。

「して、魔王さま。誕生の贈り物は如何致しましょうか」

 魔王はこめかみに指を当て、うーむ。と悩む。








「世界の半分はどうであろうか」

「お気持ちはわかりますが、少々お早いかと」




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山奥の小さな農村にて。


窓から吹き込む穏やかな風を受けながらすやすやと眠る赤子。


その傍らに、拳ほどの大きさの真紅の宝石が置かれていた。


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連続短編。朝の連ドラをイメージして書いています。

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