第八話 プロデューサー&ディレクター
さて、そうは言ったものの、どうやってテレビ局の中に入ったものか。
しばらく考えてから、とりあえず着ていたパーカーを脱ぐと、プロデューサー巻きにして、首元に身に着け、堂々と警備員の前を歩いていった。
「おっ、おつかれちゃん」
「ちょっと、ちょっと、ちょっと」
案の定、警備員に止められてしまった。
「見逃してくれよ〜。ザギンでシースご馳走するからさ」
私は目を泳がしつつ、ビビりながら、精一杯の番組プロデューサーの物真似をした。
「君、よくそのクオリティで挑んできたね。君の勇気には感心するよ」
「えへへ、ありがとうございます」
「褒めているけど、褒めてないよ」
「ところで、その制服とても素敵ですね」
「おだてたって無理だと思うけどな」
「いい気になって、入局を許可してあげようとかならないんですか!」
「ならないからね」
「ケチ!」
「ケチじゃないから」
「そんな……」
私のモノマネが下手で、なおかつ、この作戦も失敗するということはうすうす分かっていたので、逆切れして乗り切ろうと思ったが、普通に失敗した。
すると、がっくりと膝に手をついてうなだれている私のもとにポニーテールの女性が話しかけてきた。
「あっ! 君は、あの時の男の子だよね!」
話しかけてきたのは、昨日、電車であの生物に襲われかけていた女性であった。
彼女は即座に私の状況を察してくれたのか、「この子、テレビ局に入れてあげられないかしら?」と入構証を見せながら、警備員に頼んでくれた。
「お願い!」
彼女が両手を合わせて、軽くウィンクをすると、「……まぁ、園尾さんがいうなら」と彼女と私の懸命さを認めてくれたのか、警備員も渋々了承してくれたのだった。
「君はブラック飲める? 甘い方が好きかしら?」
「すみません。私、あまりコーヒー飲めなくて」
彼女は自販機から、紅茶とアイスコーヒーを買うと、私の方に紅茶を差し出してくれた。
「ありがとうございます」
「お礼をいうのは、こっちの方だよ。あの時、怖くて足が動かなくなっちゃって、君が来てくれて、本当に助かった。まさに九死に一生を得たってかんじ。ありがとうね」
「とんでもないです」
「ほんとは、あの後すぐにでもお礼に行きたかったのだけれど、走って逃げるときに、足をくじいちゃったの。それで、『お怪我はありませんかー! あるじゃないですかー!』って、元気な駅員さんに連れていかれちゃったのよ。ところで僕くん、名前はなんて言うの?」
「双葉 真白です。大学二年生です。お姉さんは?」
「私は、園尾 瑠璃。コトブキテレビ局の番組ディレクターよ」
自己紹介を終えたところで、園尾さんはアイスコーヒーの缶を開けた。
「それで、真白くんはどうしてテレビ局の中に入りたかったの? もしかして社会科見学?」
私は、園尾さんにこれまでの経緯を説明した。
「なるほどね。うちのテレビ局に昨日の怪獣が来ていたなんて。私も協力するから、君がよかったら、一緒にこのテレビ局を回りましょう」
「ほんとうですか? 助かります」
私は、ニドケーが出没したというニュース番組のスタジオに連れて行ってもらった。
スタジオは今もまだ復旧作業中のようで、セットのほとんどがぐしゃぐしゃになっており、小道具やセットの破片も散らばっている。
また、やはり電化製品は、故障が多いようで、動かなくなった照明や、放送カメラのいくつかがスタッフによって、メンテナンスされていた。
その中の一人が、スタジオに入ってきた私と園尾さんに気づいたようで、こちらへと駆け寄ってきた。
「お久しぶりです、園尾さん。園尾さんがこのスタジオに来るなんて珍しいっすね。どうかしたんですか?」
「ええ、あなたにもすこし話を聞きたいのだけど。ちょっといいかしら?」
「勿論です。もしかして、今朝の『ググっとモーニング』で起こったトラブルについてですか?」
「そうなの。あの時に何があったか聞かせてくれるかしら?」
聞き込みが始まった。