第七話 完璧な作戦
「それじゃあ、ニドケーを捕獲するための作戦を説明するとしよう」
「ニドケーは、電気を蓄えたり、放ったりすることができるって言ったよね。だけど、ニドケーは電気をむやみには使わない。それは、どうしてだと思う?」
「電気がなくなると、元気もなくなるから、とかですか?」
「そうなんだ。ニドケーは、身体に残った電気が少なくなると、身体が小さくなって無力化してしまうんだ。つまり、無力化しないように、万が一のために節電しているわけだね。そこで思いつくのが、ニドケーの電気をすべて使いきらせてしまおうという作戦だ。名付けて、ニドケー電力消耗作戦」
「なるほど。ニドケーの電気を消耗させて、彼を無力化してしまえば、私にも捕獲できそうです」
「この作戦の要は、二つある。一つ目は、相手に電気を吸収させないこと。ニドケーは、身体の電気が減ってくると、電気量の多い所に寄ってくる習性があるから、今いるテレビ局とか、この前の電車とかには、絶対に近寄らせないようにするのがポイントだよ」
「せっかく追い詰めても、近くの施設から電気を吸収されて、回復されると困りますからね」
「二つ目は、相手に電気を使いきらせること。これには、真白くん、君の協力が必要不可欠なんだ」
「私ですか?」
「懐中電灯とはもってきてくれたよね?」
「はい。持って来いと言われたので、一応、家を出る前にもってきましたけど」
「作戦としてはこうだよ。まず初めに、ニドケーの存在を見つける。二つ目に、真白くんがニドケーに対して、八の字を描くようにライトの光を当てるんだ」
「八の字に描く意味はあるんでしょうか?」
「大ありだよ。尻尾で八の字に描かれた電気の光は、ニドケーにとって縄張り争いの開始合図。雄のニドケーは自分の強さを群れにみせつけるためにも、売られた喧嘩から逃げるわけにはいかないんだ」
「尻尾の代わりに懐中電灯で八の字を描くわけですね」
「そうだね。そして、彼らは、宣戦布告してきた相手に対して、その身の電気が尽きるまで、電撃の浴びせ合いをしようとしてくるんだ」
「……ん? なんだか雲行きが怪しくなってきましたけど」
「だから、宣戦布告をしたあとの真白くんには、ニドケーの電撃を華麗に躱しながら、彼の電気が尽きるまで、ダッシュで街中を逃げてもらう。ほらね、完璧でしょ?」
「どこが完璧ですか! 明らかに一人危険を被っている人がいるでしょーが!」
「レンジャーたる者、時には過酷な試練を乗り越えなければならない。僕の尊敬するレンジャー・トバリの言葉さ」
「そんな格言知らないですよ! バカ!」
「そんなひどいこと言わないで。君にしかできないことなんだ」
「もう、その説得方法は二回目です! 甘い言葉には騙されませんよ」
「チッ。学習してしまったか」
「いま舌打ちしませんでした? とうとう化けの皮剥がれましたね! この宇宙人!」
通信機さんと口喧嘩をしていると、声が大きかったのか、黒色のスーツを来た男性が、こちらを振り返った。
この状況をはたから見れば、大声で一人喋っているおかしな大学生だと思われてもおかしくない。男は訝しげに鋭い目つきで、こちらを睨んできている。
「宇宙人がどうかしたのか?」
黒いスーツの男性が話しかけてきた。
「いえ、何でもありません。急に大きな声を出してしまって、すみませんでした。……ははは」
私は、処世術として、とりあえず謝っておいた。公共空間において、謝罪は最強のツールなのを、私は経験から知っている。
「そうか。実は、私達もこのテレビ局の近辺で、ある変わった生物を探していてな。もしかしたら、君の言う宇宙人が、その生物のことかもしれないと思って話しかけたのだ。こちらこそ、話に割り込んでしまい、すまなかった」
「そうだったんですか。チョットゴゾンジナカッタナー」
すると、彼の仲間と思われる黒スーツの男性がもう一人やってきた。
「おい。ボスが戻ってくる前に東側の方にも探しに行くぞ」
黒スーツの男性は「了解だ」とだけ返事をすると、「黒鉄電力」と書かれた名刺を私に差し出して、「何か見かけたら、私に教えてくれ」とだけ言い残して去っていった。
「あの人達、宇宙生物を探しているみたいでしたけど、いったい彼らは何者なんでしょうか?」
「たしかに気になるところではあるね。でも、もし彼らが悪い奴だったら大変だよ。先にニドケーを見つけないと」
「まったく、分かりましたよ。言っておきますけど、私は囮にはならないですからね!」
私は通信機さんにそう強めに言い聞かせると、テレビ局の自動ドアの前に立った。