第六話 テレビ局
琴吹市は、山脈と海岸に囲まれた街である。地平線上に山と海が見渡せる光景は、まさに絶景と呼ぶにふさわしい。地形としては鎌倉によく似ているかもしれない。
違いがあるとすれば、あちらは、賑わいのある観光地で、こちらは、よそ者がほとんど来ることのない悲しき地方都市というだけである。
ただ、山岳部を超えなくても生活ができるように、街はそれなりに発展している。
街のほとんどが住宅街ではあるが、中心となる駅の周辺地域には、ビルが高さを争いながら、群雄割拠している。そして、そのビル群の中には、とりわけ高く聳え立っているビルが一つあった。
そのビルというのが、琴吹テレビ局である。
「勢いでテレビ局まで来ちゃいましたけど、これからどうしたものでしょうか?」
私は帽子を深く被って、柱の影からひっそりとテレビ局前の警備員を覗きながら、通信機さんに話しかけた。
なんだか、探偵をやっている気分である。
「とりあえず、作戦会議からだね。闇雲につっこんでも、危ないだけだから、まずはあの生物のことについて知っておく必要がある」
「敵を知り己を知れば百戦危うからず、っていうことですね」
「そういうことだね。じゃぁ、さっそく簡単に説明しよう。あの生物はニドケーという名前の固有種だ」
「なんだかゲームのモンスターにいそうな名前です」
「そしてなんといっても、ニドケーは身体の周りに電気を蓄えたり、放ったりすることができるのが大きな特徴だ。彼らは本来、地球からはるか遠くにある雷の多い惑星に住んでいるから、二日前みたいな嵐の日には、活発に行動して、空から落ちてくる雷を吸収しようとするんだ。その吸収した電気を使って、彼らは外敵から身を守るだけではなく、電気をエネルギー源とした装置なんかを自在に操ることができるよ」
「なるほど。洗濯機とか、電子レンジとか、いわゆる電化製品を動かせるってことですか」
「そう、電化製品だね」
「うちにも一匹ほしいかも。それで、あのニドケーはどうやって捕まえればいいんですか?」
「ふふ、それはね」
「それは……」
「僕にも分からない」
「まったくのノープランじゃないですか!」
「ごめん、ごめん。本当は、どんな宇宙生物にも命令できようになるすごい腕輪が、レンジャー道具としてあったんだけど、この前も言ったとおり、船が壊れた時にレンジャー道具は全部どっかいっちゃって」
「しょうがないですね。それでは、この前みたいにホログラムを使って、ニドケーを密閉空間に誘導するのはどうですか? うまく誘導すれば、部屋に閉じ込めたりできるのではないですか?」
「地球にはケータイがあるよね」
「……いきなりなんですか」
「ケータイで電話をしたら、容量がなくなっていくよね」
「長電話とかすれば、すぐになくなっていきますね」
「SNSで動画を送ろうとしたら、もっと容量がなくなるよね」
「そうですけど」
「それと同じなんだ。この前、君の持っている通信機へホログラムを送信した時に、もう、その通信機、今月分の容量がつきちゃったんだよね」
「まさか、通信制限ですか」
「通信制限だね」
またもや知りたくなかった宇宙の秘密に触れてしまった。どうやら、宇宙にしても、地球にしても、なかなか現実は甘くないようだ。
「僕も仕事柄よく銀河間での連絡をするからさ、さくさく銀河系プランに入っているんだけど、ホログラムはプラン対象外なんだ。それに、ホログラムってたくさん容量使うんだよね」
「打つ手なしじゃないですか! もうおしまいだぁー!」
私は頭を抱えて、その場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫! 他に方法がないわけじゃないから」
「ほ、本当ですか?」
私の心に希望が灯る。一体どんな案なのだろうか。私は固唾を飲んだ。
「それじゃあ、ニドケーを捕獲するための作戦を説明するとしよう」