第三話 レンジャーに任命!?
私は通信機を拾うと、ロングシートに姿勢よく座りなおした。
「宇宙には、たくさんの文明があって、また、それぞれの星に適応した様々な生命体が存在している。となると、その生物や、生態環境を把握したり、外来種を捕まえたりする組織があるわけで、宇宙保護局という管理機構が存在しているんだ」
「……宇宙保護局ですか」
「そして、僕は、その宇宙保護局のレンジャーという、外来種の捕獲を任務としている職業についているんだ。ある日、宇宙保護局は地球、とりわけこの琴吹市で、外来種が衛星写真に写っていたのと、多くの異常現象が起こっているのを観測したらしい。それで、本部からお達しを受けた僕は、琴吹市でおきている異変の調査のため、この地球に来ようとしたのだけど……」
「来られなかったんですか?」
「うん。残念ながら、宇宙船で琴吹市へ向かう途中、琴吹市の上空で、急に嵐が起こってしまってね。僕が乗っていた宇宙船も雷に打たれて、大破してしまった。なくなく脱出用の小型船で保護局に帰ったんだけど、もしかしたら通信機だけでも地球にたどり着いていないかなー、なんて思ってね」
「なるほど」
「もし、通信機が地球に着陸していたら、その通信機を使って、現地の人とコンタクトがとれないかなと考えたんだ。それで、この通信機の位置情報を調べてみたら、電車の中に通信機が放置されていることに気付いた。たぶん、誰かが興味半分で拾って、電車まで持ってきたけど、不気味だからって、放置したんだろうね」
「もう一度、宇宙船で地球に来ることはできないんですか?」
「予算不足なんだ」
「予算不足ですか」
なんとも世知辛い。そんな宇宙の秘密は知りたくなかった。
「っていうのも、あるんだけど、実は宇宙船を派遣できない原因がもう一つある。それは、僕達、レンジャーの宇宙船が琴吹市に近寄ると、決まって嵐が起こってしまうってことだ」
「たしかに最近、琴吹市では急な嵐の日が多かったですね。前日も豪雨でした。おかげで、大学の講義には遅刻しましたけれど」
「実は、僕達の宇宙船が琴吹市に接近した時だけ、天候が嵐になるんだ。この状況、君もおかしいとは思わないかい?」
「……そうですね。まるで、宇宙保護局の人達が地球にくるのを、誰かが邪魔しようとしているように思えます」
「そう。何者かが僕達の着陸を阻止しようとしているみたいなんだ」
「でも、嵐を人工的に発生させることなんてできるんですか?」
「今の地球の文明じゃできないはずなんだけどね。もしかしたら、僕達のほかにも宇宙からの使者がいるのかもしれない。ごく一部の発達した宇宙文明なら、たしかに天候を操作できる装置を持っているからね」
「もしかして、遠くの宇宙人が地球に侵略しに来ているとか?」
「そうかもしれない。ともかく、僕達は地球で起こっているこれらの異変を止めなければならないんだ」
「そうですね。あんな怪獣が琴吹市で暴れ出したら、大変なことになってしまいます」
「なんとしても琴吹市を、いや地球を救わなければ!」
「さすが、宇宙なんとか局!」
「地球を守るぞー!」
「おー!」
「琴吹市を守るぞー!」
「おー!」
「そんなわけで、君にも協力してほしいんだ」
「おー! ……って、え?」
不意打ちで答えてしまったが、何かおかしな質問に答えてしまった気がする。まさかとは思うが、念のため確認をしてみる。
「それって、私にさっきみたいな危険生物を相手どって、身を挺して捕まえろ、ってことですか?」
「平たく言えばそうなるよね」
「いやですよ!」
「僕は、君を助けてあげたじゃん。命の恩人の頼みを聞いてはくれないのかい?」
「そんなのは、恩の押し売りです!」
「まったく、最近の若い子はやらない理由を考えるのが上手いんだから」
「私だって、ぎりぎり未成年なんです。老い先長めの花盛り大学生なんです!」
「いいじゃん。大学生なんて夏休みやることないでしょ? うってつけじゃないかな」
「忙しいですけど! 宿題とか、宿題とか、……宿題とか」
「君を宇宙保護局のレンジャー代理に任命します」
そんなやりとりを契機に、私はこの一連の騒動に巻き込まれることになったのだった。