オープニング 宇宙の果て
遥かな銀河の果ての果てには、人々のまだ知りえない生命体が存在している。例えばそれは、雷電をその身に纏う雷獣。例えばそれは、他者の記憶を奪う透明な海月。例えばそれは、宝石を食べる不思議な亀。
これらの怪獣とも呼ぶべき宇宙の生命体を、一括して管理する役割を担っているのが、この宇宙保護局総合センター。私達は、幾千もの星々に生息している、幾万の種に対して、存続、生態維持、外来種の駆除を行っている。
しかし、こうして例にとったのは、数ある任務のいくつかである訳で、今の僕は、ただの雑務を行わされているのであった。
「あーあ、僕は本の整理がしたくて捕獲者になった訳じゃないんだけどなー」
「何言っているんですか、先輩。その足りないおつむより先に、手を動かして、ちょっとは人の役に立ってください」
「あいかわらず、君は手厳しいね」
僕は、整理している本棚から、一冊の本を手に取ると、脚立の下にいる後輩にそれを投げた。
「ほら、この『鯨狩りの英雄』って本に出てくるレンジャー・トバリみたいにさ、僕も数多の星々を巡って、壮大でスペクタクルな冒険劇がしたいんだよ」
「そうは言いますが、惑星なら、先輩もこの前行ってきたばかりじゃないですか。なんていう惑星でしたっけ」
「地球だね。あの星にはこの前、巡回船で異変の調査に行ってきたのだけれど、とても綺麗な星だったよ。水資源が豊富な惑星だった」
「異変の調査って何しに行ったんですか?」
「衛星写真に、地球にはいるはずのない生物が映っていたから、外来種が地球に侵入した可能性があるかもしれないって報告を受けて、その真相を探るために、僕が現地調査に派遣されたんだよ」
「それで、外来種は捕獲できたんですか?」
「それがさ、そもそも地球に降りられなかったんだ。宇宙船が嵐に巻きこまれて大破しちゃったから、なくなく小型船でここまで帰ってきたよ」
「それ、やばくないですか?」
「僕もやばいと思って所長に報告したよ。そしたら、ここ数日、地球に着陸しようとした宇宙船は、悉く大破しているんだって。大破した宇宙船の修理に莫大な費用がかかったから、地球への調査は、僕を最後に打ち切られてしまったよ。でも、レンジャーの船が地球に近寄るたびに嵐が来て、大破してしまうなんて、どうにもおかしいと思わないか?」
「おかしいですね。先輩の頭くらいおかしいです」
「君の誹謗中傷はスルーするとして、僕は地球で何か、よからぬ異変が起こっているんじゃないか、とかなり気になっているんだ。できることなら、もう一度、あの星に向かいたいんだけど、当局が許可するとも思えない」
「そういえば、先輩、いつもの宇宙船で行ったんですよね」
「そうだけど」
「通信機も持っていったんでしょう?」
「持っていったよ。宇宙船もろとも地球のどこかに墜落したけどねー」
「だったら、その通信機に電話をかけてみたらよくないですか? もしかしたら、先輩の通信機をどこかの地球人さんが拾っているかもしれませんよ。その発信機を拾ってくれた地球人に通信機を通じて、コンタクトをとることで、その人に、地球でどんな異変が起こっているのか、代わりに調査してもらえばいいじゃないですか」
「君、天才か!? 早速、僕はレストルームに戻って、電話をかけてみるよ!」
「先輩! まだ本棚の整理終わってないんですけど!?」
僕は、口うるさい後輩の声を聞き流して、そさくさと自分のレストルームへ駆けて行った。