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とかいで

「……死んでる時のほうが心地いい、みたいな事は言いたくないんじゃよ……」



 何かの焦げたにおいをまず感じる。

 目の前には、壁紙やコンクリではない、木と煉瓦の建物。


 日本の日常とは、おおよそ思えない。


「トキトちゃん!!!!」


 だが、嫌になる、というほど沈みはしない。

 痛みもなければ、寒くもない。


「また喋るようになったんだね!よかった!」


「あー、魔力が完全に出尽くしちゃうと、記憶の取り出しや意識まで吹っ飛んじゃうのか…」


「色々、忘れちゃった?」


「無事、脱出はできた?」


 聞きたいことだけをぶつけあう二人。


「みんな、今頃はお父さんお母さんと楽しく暮らしてると思うよ、トキトちゃんに感謝もしてると思う」


「子供のころから重罪背負わなくて済んだのは良かったよ…」


 安心はした。

 気だるい。

 まだ魔力は、全然回復はしていないようだ。


「あと、服、あるかなあ」


「子供用いっぱい買っちゃった!」


「大人用でお願いします……」


「……あるけど……子供服いっぱいあるなあ~…」


 着せたいのか。

 むしろ着せたいのか。


「却下で」


 寝ているベッドから起き上がり、トキトは肉体をまた変化せる。


「ヒメの替えでいいから、なんかおくれ」


「私のお揃いでいいとおもうから、あげる」


 しっかりしている。

 欲望に忠実な方向に。


 ちょっとチクチクするが、たぶんこの世界でも目立たないだろうと思えるワンピース。

 袖を通して、一息。

 やっと真人間になった気がする。


「さて、それじゃ私が意識ない間の話、聞こうか?」


「いっぱいあるよお!トキトちゃんと話すこと!」


「じゃあまず、ヒメのお父さんのとこからで……」


「私との結婚のお許しが欲しいと!?」


「違う」


 冗談なのかなんなのか。

 そんなわけで、聞きたいことは山ほどあった。





 まず、動く置物こと魔法生物ども。


 馬よりよほど(いたんだね馬)早く言うこともよく聞くスグレモノだったらしい。

 なので、一気にいくつもの村を飛ばして流通の中心地の王都まで一晩でやってくれました。


 そこで一時的な宿を確保しつつ、みんなに渡す路銀を確保しながら行き先確認をする予定だったのだが。


 攫われた女性の中に、貴族の子がいたようで……。

 いきなり王都にある別邸を提供。

 救出の報酬として、さらに多量の金品を受け取ったらしい。



 しかもそれだけではなく。


 あの組織、そういった「いい教育をされた位の高い女性を売りさばく」大人気の高級な奴隷の仲介業だったようで。

 あわよくば身代金を取りながら攫った人間は高値で外国に売る業務形態であったのだとか。

 抵抗力や反抗意志が弱く、よく働くし頭がいいと、商品として引く手あまたなのは、貴族の間でもにわかには広まっていたらしい。


 だが実際にここに居た半数は貧しい出の女性たち。

 過酷な生活にさらった女性を適応させるのと、お互い順応するなら、おとなしいそれらも貴族と偽って売るのに都合がいい、と、しみったれた手も使っていたようだ。

 ドレスがあったのも、売る前にそう言った貴族だと偽る手を教えるためを兼ねてというのなら納得はいく。



 というわけで。


 つまり半数は、4女7女といった、諸事情で自分の領地にすらいなかったりする「守りの甘い」貴族の子女。

 どこもそこも、話を聞いて即座に押し掛け、それぞれの理由を明かしたり隠したり、多額の報酬を置いて連れ帰られた。


 そのお金があれば、残りの人らの帰りの旅費などはたやすく捻出できる。



 ヒメとナインは、提供された邸宅を早めに出てから安めの家を借り、それらの手続きを円滑に行い、こなした。


 らしい。


 軽く一年は普通に暮らす分にはそのまま暮らせるお金が残り。

 なぜか街にいると決めたヴェルグルと…。

 帰るあてのない数人。

 行くあてが決まるまでは共同で住むといった姿に落ち着く。

 トキトもそこに自動で加わって、今に至る、と。


 なるほど。

 話が長い。


「だいたいはわかったよ」


「すごいでしょ、私の働き!」


「まぁ確かに…でも、じゃあナインとヒメは帰らないわけ?」


「ナインはそもそも親いないし、わたしは…家わからないし……」


 目が明らかに泳いでいる。


「怪しい物言いをわざわざ…」


「だってさ、楽しいなんたら学園生活させてくれるって、私、トキトちゃんと約束したじゃない」


 はっとなるトキト。

 何より、約束を優先したって言いきったのか。ヒメは。


「…言われてみればしたね…もうめっちゃ勢いでだけど」


「叶えてくれるんでしょ?」


 言われると弱い。



 別の考えが。

 少しだけ後ろめたい、とある気持ちがあるからだ。


「ともあれ、家があるんならお風呂に入りたいな」


「……ごまかした」


「まぁまぁ、覚えてるし、ヒメの信じてる気持ちは知ってるから」


「じゃあ……お風呂は…ねぇ…お風呂は……一緒に入る…?」


「本当に、全振りでその方向でいいの?ヒメ……」


 息を荒くするな。

 目を輝かせるな。


 でも。

 一緒に入りました。


「着替え、置いておきますヒメさま」


「ありがとうねカナー」


「誰か、雇ったの?」


「ひど!?」


 遠くから、控えめに用事をこなしに来た誰かに、トキトのちょっとした疑問。


「一緒につかまってたカナちゃんよ?少し控えめな子だけど…」


 何人か残ったとは、言っていたな確かに。


「カナちゃん、ウブちゃんと妹ちゃんは?」


「買い物です、夕食のスープの材料を隣村まで買いに行きたいと言っていたので」


 風呂上がりの着替えをしながら、落ち着いた会話になごむ皆さん。


「トキトちゃんで、いいんですよね?」


「うん」


「お食事はテーブルに用意してありますから、落ち着いたら、おふたりでどうぞ」


 完全に行動が対等じゃない。

 どうして、ここまでこの人は召使いとして順応しているのか。


「あなたは一緒にたべないの?」


「私はお片付けの後でいただきますので」


 かたくなに、位置が下だな。

 トキトが呆れたような、気に入らないような、そんな雰囲気を感じる。


「そういえば、あなたは帰らないんだね」


 疑問でもあったし、世間話から攻めてみるか。

 そう、トキトが切り込むと。


「わたし、親が酒浸りで売り飛ばされたんです…最初は親が子供を育てられる環境じゃないと叔母が一時引き取ったのですが、父が死んだと知るとその叔母も面倒は見れないと、そのまま、あそこに売りに……」



「安易な鬱展開!!」


 バシイ!


「私、殴られた!?」


「ごめん反射で……ま、仲良くしよう、前向いて」


 できる切り込み方じゃない、最悪の手を打ちましたが。


「言っておくけど、嫌ってないからね?不幸話でダウナーな空気って、連鎖するの私耐えられないから全力で切る努力しちゃうってだけでさ」


「ごめんなさい…そういう話しかなくて…」


「あー…」


 完全に相いれない感じになった気しかしない。

 失敗だ。


「ま、食べ物食べれば和むから、いいんじゃない?」


 空気読めない子、最高!

 ヒメのすごい適当な温和さに、場が救われた気がした。


「たしかに、お腹減ってると何もかもうまくいかないよね!」


「あっその…なんでもないです」



 だよな!


 経験談でネガなことを今言うのは、今では、ないよな。

 ここで死にかけた話みたいのをもし聞いたら、きっとまた発作が起きていた。


 トキトはこの場の全員をとりあえず褒めるに至った。

 そう、お腹が膨れればみんな幸せな気分になるわけよ。

 そう言えば記憶の中でスープくらいは飲んだ気がするだけで食べ物食べるのは初めてかもしれない。


 トキトが少し、異世界に対して期待感を持った瞬間。



 が。


「……わぁ、この世界すっごいサバイバリティ♪」


 嬉しそうな声。

 目は死んでる。


「いーっぱい食べていいよ!わたしの自信作!」


「そっか、ヒメ作ったんだ」


 一緒に食べない理由はそっちかあ。

 ナインが話でしか出ないのも、それかな?


 カナ、本当にすまねえ。

 君とは仲良くなれるかもしれない。

 でもその前に私は死ぬかもしれない。



 でも、ネガな空気は大嫌い。


 そう、嫌い。


 なので。


 腸と心臓だけ寄せ集めてそのまま切らずに煮たような見た目アウトなそれに手を付ける。


 味はいいのかな?

 匂いがきつくてわかんないや。

 食感のぐにゃっとしたのも、直接的に言えるなら、無理だ。


 要するに、ダメだ。


「いただきまあす♪」


 心の中でトキトが叫ぶ。

 覚悟!近藤!負けるな!





 それから数十分。


「…う゛え゛え゛え゛え゛え゛……」


 トキトは街を見てきたいと少ない言葉で伝え、お小遣いを少し持って外出した。

 そして真顔で公園らしいのを探して、やった。


「あれがこの世界の平均だったら、いづれ死ぬな私」


 何がどう、ヒメの腕がどうなどは、言わない。

 聞こえていなくても、トキトは言わない。

 外で、せめて食えるものを探したい。


 屋台か何かを探す気でいた。

 街並みという文明度も大切。

 そして何より、もう一つ。

 それを絶対見つける気でいたが。


「賑やかさがここまで無いのしか目がいかねえ」


 原因はわかるが、聞くところ王都。

 首都じゃないの。

 通勤ラッシュくらい見せてみろとは言わないが、ここまで閑散とするものか。

 必要な場所を聞くのも一苦労。

 食べ物屋はろくに探せない有様であった。


「ちと様子見から入るつもりが、いきなり来たか」


 本屋など、ちょっとしたものを一度見てから、魔力を感知できるところを探そうかと思っていたのだが。


 ド本命、本丸である。


 国営大図書館。


 魔力に関しても、多少反応がある。



 グランドマスタを見ているからには、この世界にも魔法がある。

 そういった技術がある。

 そして自分がいる。


 異世界から来た人間がいたのが過去にどの程度あるのか。

 そう言った技術はこの世界で確立されているのか。


 具体的には、今のトキトがそのまま日本に帰れるのか。

 ヒメには悪いが、調べないわけにはいかなかった。


 約束はしたが、行き来できるなら、ヒメと行く手段があれば、それが一番いい。

 それを、やった人間がいるかどうかを知るだけでもいい。

 調べなければいけない。


「閉館してるみたいだけど、むしろちょうどいいな」


 ぱちん。


 転移空間を出し、びょいと飛び込み、侵入。

 貴重なものと思われるものでも、いくつか頂くつもりだった。


「こういうのは、世界が違っても変わらないって安心するな…」


 山ほどの本。

 階段がないと見られない恐ろしい量と高さの本棚。

 この国の知識が、嫌というほど詰まっているのが、すぐわかる。


「なるべく昔のものがあるコーナーがいいな」


 ゆっくりと歩きだすトキト。

 雰囲気を少し楽しんでいたトキト。

 そこに、水を差すものが一つ。


「とんでもない侵入者がいたものですね」


「早速見つかったか……ちょっと黙っててもらえると嬉し…」


「国の要所です、魔力を堂々晒して悪さをして、見つからないと思っていたんですか」


 怒りをにじませた声。



 それが聞こえたのとほぼ同時。


「…!…この世界、やるなぁ…準備ちゃんとしてあるんだ…」


「犯罪者さん、すべてに従うまで、ここから通しません」


 トキトが使ったような空間を使う魔術。

 それと数段規模が違う、見た目すべてが変化する瞬間を、トキトは見た。



「そして、ようこそ犯罪者さん、私の暗く閉じた世界へ」

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