ゆめおち?
ストーリーとは全く関わりもしないパートです
読み飛ばし推奨かもしれません
「まるがいる」
声に驚いた。
「らんがいる」
顔を上げて、私は言い返す。
学校の机で突っ伏して寝ていたらしい。
窓際の席なので、外の風が感じられて心地いい。
窓の外には根気を入れて整備された中庭。
園芸部と用務員のおじさん、そして教頭先生が植える花で毎年揉めるんだっけ。
入学して最初に会う先輩が、クラスに乱入してきた園芸部の部長さんでさ。
植えてほしいの投票と、教頭にうんと言わせるための署名集めだったんだよね。
柔らかい雰囲気の学校を選んだつもりが、入学式の前から教員相手のバトルかよ!って……。
会ったばかりのクラスメイトと、一緒になって笑ったんだ。
その時、隣にいて。
そのまま一緒に帰って。
毎日のように話していたクラスメイト。
蘭
毎日話して、ずっと話して、のんびり大人になるまで友達でいられると思っていたクラスメイト。
「魚の腐ったみたいな寝ぼけた眼でじっと見ちゃって…」
「魚になりたいって言ってたのは、ランだけだけどぉ」
「そうだよ?魚大好き!」
片手でとる、無駄なガッツポーズが本気度の表れなのか。
「寿司が、でしょ」
「わかってるじゃん」
ランが口を全開にして笑う。
私の日常の象徴みたいな顔だ。
「ヒラメがいちばんすきだなあ、そのあとシメサバとイクラ」
「プリンを最後に食べようと早めに取っといて、それに私が見てない間に醤油入れる」
「そうそう、何度もやられた!」
そして何度も、お前も食ってみろと、口に突っ込まれたりもした。
「そのあとはバス停近くのアイス屋に寄ってぇ…」
「…クッキーアンドチョコチップバニラとプレミアワインレーズンとハーブ抹茶のトリプルと…」
「「キャラメルソ~~ス」」
お互いがモノマネ調にアクセントをつけて、さらに?もるものだから、一緒に笑う。
馬鹿みたいに大声で。
「…………やっぱ、夢だね」
「そりゃそうだよね」
笑い声をやめると、ほかに音はしない。
誰も教室には来ない。
願わくば、夢の中くらい夢と明言しないでほしかったが。
「死んだまるちゃんが、全く変わらないでこうしてお話しできるのは嬉しいけど」
「私としては、どっちが夢だか、いまいち難しく思っちゃうところなんだけど」
たった数時間。
あの異世界が夢でと言われたなら、そっちを絶対信じている。
「それでも、それほど恨みがどうみたいのは、こうして話してるからには、ないんでしょう?」
「まね。どう?そっちは相変わらず暇?」
「何も変わんないね、全体朝礼も特になかったし、みんな日常そのもの……どうよそっちは」
「まぁまぁ…かなぁ?馴れ馴れしいお姉さんと、一緒に映画で見た小人みたいのに囲まれてるよ」
「へぇ…死んだあとも楽しくやれるのを聞けるのは、まあお得ですな」
夢は夢。
でも、本当に思い出す。
少し前の、木漏れ日のような日常を。
暴力的な奪い合いなんて一生見ることなさそうな暮らしを。
すっかりこれらに心を漂白されたのか、望郷の思いはいまだ色褪せず。
「やっぱり戻りたいのはあるよなぁ」
「何かに取り憑いたりして?」
定番のお化けポーズのラン。
「やだやだ、このままで戻るんだよ!」
ちょっと前までの世界の、真っ平らな胸はこりごりだ。
「そしてまた、ランの家でネットとスマホグッズの興味あまりない話聞きながら、買った音楽雑誌見て、ミラの低燃費な買い物の話聞いて、帰りにランの部屋にホラー漫画置いて帰るんだ!」
「おまえだったのかよ!」
「他にいないだろ!」
「迷惑なことを堂々とほんっとにもう…」
「ふはははは」
楽しくて、他愛ない会話だ。
「次、もし会えたらさ」
こう言うのは、私として不本意だ。
さみしい。
別れるのは決まってる、それを自分で決めたみたいに感じる。
「うん?」
「友達、連れて行ってもいいかな?」
「そんな程度のことで、ずいぶん改まるね、まるっぽくない」
「そうかな」
自分でも間違いなく、自分の言うセリフではないと思っている。
「それがさ、私のこと、優しいとかわいいしか言わないで、隙あらば抱き着いてこようとしてさぁ」
「まる向きな人もいたもんだね、押し切るタイプ好きだって言ってたじゃない」
「それ同性だとどうかな……同じ事言えると思うか?」
「でも、すごい大事な友達なんでしょ?口ぶりからすると」
筒抜けだ。
大事だよ。
守れるなら優先して守ると言えるくらいは好きだ。
「……うん…だから、会わせたいんだ……そしていつものお店に一緒に行きたくて……」
「じゃ、楽しみにしてるよ、まる」
「ありがと、ラン」
「また、だよな?まる」
「そうだったね……」
言葉が詰まってる。
泣いてはないと思う。
二度と会えないかも、そんな感傷に浸るタチじゃない自分に。
そんな自分に、「また」と言ってくれるのが。
何度も会っていいと思ってくれる人がいるのが、こんなにもうれしいなんて。
じぶんらしくない。
でも。
ありがとう。
そう言えたか、言えなかったか。
意識が、その顔を見たままだんだんと無くなっていくのを、私は満足してまた眠りについた。
「トキトちゃん、まだ、寝てる?」
聞こえた声に、少しだけ生返事をしながら。
内容がないので、この日は二本投稿の予定をしていました。
当日お読みいただいたありがたい方々、もしおられましたらストーリー進捗まで数分お待ちください。
関係ない話ですがこの蘭は、有留都 蘭という自分の別の小説に出していた出張キャラであります。