てはぢめ
私、近藤まる。
高校一年生です。
近場で制服も気に入った第一志望の女子高に入学。
父と母も親馬鹿で、いまになっても頑張ったねと褒めちぎりなことを言ってくるので困るくらい仲良し。
学校での生活も順風満帆。
いい友達、楽しい部活、愉快な先輩にも恵まれました。
おみくじも大吉で、乗りに乗っています。
今年の目標は、スキルアップですかね?
資格試験にも興味出てきました。
そろそろ将来も視野に入れて、向いてること探しも必要と担任も言ってましたし。
そんな理想に胸膨らませるある日。
私は。
三歳児になってお腹を空かせていました。
あれ?
物心ついて、だいたいの意識がはっきりしてきただけで、正しい年齢かはちょっと不安だけど。
どういうことだ?
むしろ何度目だ?これ。
いや二度目だな……きっと確か。
一度目は、魔王として散々に散々な暴虐の人生をして。
何かに殺された後に、日本ですごい幸せな暮らしを味わって……。
そして今。
すごく寂れた、荒野のほうがまだマシと言えるほど、汚れまみれの建物。
ちょっとづつ思い出そう。
意識もろくにないころ聞いていたはずの、自分の周囲の言葉たちを。
……たしか……。
誰かが、私を気にかけて、そして、お世話していた気がする。
迷子にならないよう。
いなくなってしまわないよう。
「お母さんの分まで、私が見守ってあげないとね」
そう、そうだ。
私は、今の私の親の顔を知らない。
捨て子か何か。
そして、その誰かは、同じ境遇で、私を妹のように愛情だけで理由もなく大事にしてくれていた。
ずいぶん大切に守っていてくれた。
境遇はともかく、今回も私は、運は良かったのかもしれない。
友人になれる人物がいるというのは、とても大切だと前に学んでいる。
前世というか、転生する前で、というか。
なんだろね。
やっぱり私、死んだんだろうな。
思い出そうとすれば、きっと……思い出せるけど、思い出せば血みどろのやばいやつ。
なので忘れたままにしとこう。
そして、今いる子供を集める何らかの施設。
思い出すと、あんまりいいモノ食べてた気がしない。
よほどの理由が聞けない限り、ここからは出よう。
いいことないよ、きっと。
考えは早くもまとまった。
「トキトちゃーん!どこぉ?トキトちゃーん!」
少しだけ遠くから声がする。
優しい声だ。
今の私が一番安心するだろう声。
「……トキト……ちゃん……?」
声が少し震えていた。
「ヒメ…」
自分の声に、限りなく違和感がある。
日本にいた、あの頃の自分以外のものに、そのすべてに言えることだが。
「ヒメ、私、すぐにここを出て、高校生をやり直す」
「え??トキトちゃん……だよね?じゃない……?」
「今が一番幸せじゃないなら、ついてきていいわヒメ……贅沢で幸福な中流家庭の学生生活を過ごさせてあげる」
言いながら、笑っていた。
混乱するほうが普通に違いない。
急に言い出すことが言い出すことだし、姿も信じられるはずがない。
あの世界では使うことがなかった、全開の魔法。
それを存分に使い、不自由がある子供の身体から、私は自分を一気に成長させていたからだ。
望むところまで。
ちょうど15か16歳くらいに。
何も知らずに見たものが居たとしたら、悪魔でもとりついて、なにやら、邪悪な取引でも、しようとしているように見えるだろうか。
善意には取れないだろう。
すくなくとも。
自分としては、そりゃ、恩があるから言っているんだが。
そのギャップが少し自分で勝手にツボに入って……。
私は笑っていた。