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なんでもいいが一番難しい

作者: 蒼井 ハル

青春ですかね


「なぁ花、女子って何貰ったら嬉しいんだ?」


 私たちは家が近所ということもあり、日頃からお互いの家に入り浸っている。


 そんなある日。

 ソファで寝転がり寛いでいる翔が、ふと私にこんな質問を投げかけた。


「心がこもってれば何でもいいと思うよ」


 平然と答えてるつもりだが、私の表情からは終始笑みが溢れていたと思う。


 だってこれは、完全に私が誕生日に欲しい物を遠回しに聞き出そうしているのだから。

 ちなみに私の誕生日は来週である。


「何でもってねぇ……」


 翔はボサボサの頭を、右手で忙しなくかいている。


 確かになんでもなんて言い方は雑すぎたかも知れないが、本当になんでもなのだ。

 翔の心がこもっていれば私は例えセミのぬけがらでさえ嬉しいと感じるだろう。


「何がいいんだろうか……」

「悩み、考えたまえ少年よ。ふふん」


 私は腕を組み高らかに鼻を鳴らす。


 悩み唸っている翔とは対照的に、私は清々しさと嬉しさが混じったなんとも形容し難い気持ちになっていた。


 いつもなら私があー言えばこー言う翔が、私の言葉で悩んでいるのだから。それも私の為に。





 誕生日当日。

 学校を終え帰宅すると、母親に「暇なら買い物頼めるかしら」と半ば強制的に頼まれたので一人ショッピングモールに来ていた。


 まあ、別にする事もなかったからいいんだけど。


「あと何を買えばいいんだっけ??」


 スマホのメモ帳アプリを開き、買い物リストを確認する。確認した後、生活用品コーナーに向かおうと視線を前にやると視野の端っこ方に翔を捕らえた。


「おーい、か……け……え?」


 翔に声をかけようと力強く突き上げられた腕は、揺れることなくゆっくりと落ちていった。


 翔の隣に、じょ、じょ、女子?!

 あの女っ気が全くなかった翔が?!

 えぇ、あれって陽菜だよね……

 

 翔の隣にいる女子は陽菜。私の友達だった。


「ごめん花ちゃん、今日は用事があるから先帰るね」と先ほど言われたばかりだった。


 二人は何かの話で盛り上がっているようで笑顔が絶えない。


 私はバレないようにと一定の距離を保ったり、時に商品棚に身を隠しながら二人の後を着いて行った。


 私はストーカーではない。

 もし陽菜に何かあった時のために、ついて行っている訳でストーカーではない。


 そう自分に言い聞かせて。


 二人の会話が気になったので、目を瞑り耳に全神経を集中させ二人の声を模索した。


「これとかどうかな??」


 お、聞こえる聞こえる。やれば出来るもんだな。


 目をつぶっているので、その会話を元に頭の中で映像を作り出そうと試みる。


「おお、可愛いじゃん。でもちょっと違うんだよなぁ」


 ダメだ上手く想像できんっ!


「そっか、じゃあこれはどう??」

「いいけど、どれも似合うからなぁ……」


 何が、誰が、どんな風に、似合うんだ??

 んん、上手く聴こえん……


 集中力が切れてきたのかもしれないが途中から雑音が入り更に聴き取りずらくなって来た。


「……陽菜が好き……」


 そんな最中、聞こえて来たのは翔のこの言葉だった。


 はい??


 私の頭は真っ白になり、思考が完全に停止した。目を開けるともう二人の姿は見当たらなくなっていた。



 その後、もう一度メモを見て頼まれていたお使いを再開した。


「あぁ、なんかバカ見たいだな私。てっきり私の誕プレだと思って一人で舞い上がって……」


 そう思うと喉の奥から何か熱いものが込み上げてきた。


「まあ、確かに陽菜は可愛いし良い奴だしお似合いだとおも……うっ……うぅ……」


 素直に祝福し認め、堪えようとしたが、かえってそれの勢いを強める一方だった。


「うぅぅ…………」


 私は動けなくなり遂にはうずくまり、その場でそれが治まるのを待った。


 しかし、待てば待つほどそれの勢いは増すばかり。いつしか私の周りには人だかりが出来ていた。


「……な……花??」


 名前を呼ばれ、ふと顔を見上げると翔が立っていた。その後ろには陽菜が心配そうな顔付きで立っている。


「大丈夫か?何があったんだ?」

「な、何もない……」

「何もないわけないだろ、こんな通路の通路の真ん中でうずくまってて」

「だから何もないし、関係ないじゃん!!ほっといてよ!!」


 私は差し出された翔の右手を振り払い、買ったものなど荷物を全て床に置いたままその場から駆け出した。


 走り出して数秒後、直ぐに私は翔に右手に捕らえられた。


「離してっ!」


 その手を振りほどこうと身体を揺さぶるが、しっかりと捕まれ振りほどくことは出来なかった。


「嫌だ離さない!」

「なんでっ!」

「心配なんだよお前が!それと関係はある!!」

「なに、関係って……」

「花、言ったよな。俺のこの左腕が駄目になった時、花が俺の左腕の変わりになるって!だからーー」



 あれは小学校低学年頃だった。

翔は私を庇って事故にあった。

その際、翔は左腕に麻痺を患ってしまった。


 私は当時、罪悪感と責任感にかられていた。

 これは私が償わなければと、私が翔の左腕の変わりになろうと決意した。



 でも今はもう違う。私の変わりは現れたらしい。

 それも、思っていたより随分近くに。


「確かに言ったけど……」

「言ったけどなんだよ??」


 嫌だ、言いたくない、こんな事言いたくない。

 醜い女って思われちゃう……


 その思いとは裏腹に、私の奥底に溜まっていた言葉は溢れ出る。



「だってもう陽菜がいるじゃん!!私の役目は終わったのよ!!だって翔は陽菜が好きなんでしょ!!」

「はぁ?!なにいって……」

「私、聞いてたんだから!!陽菜が好きだって言ってるところ!!」

「はぁ??」


 翔が目をぱちくりさせていると後ろから遅れて陽菜がやってきた。陽菜の両手には私が置いてきた荷物が握られていた。


「そりゃ陽菜こと好きになるのも分かるよ!!とびきり可愛いし、今だって私が置いてきた荷物持ってきてくれるぐらいだし、でも……」

「ええ?花ちゃん、違うよ実はね……」

 

 俺が言うと言わんばかりに翔が陽菜の前に右腕にをだし制止する。


「いいか、花よく聞いてくれーー」


 それから翔は感情が昂った私を宥めるように淡々と話し始めた。


 要約すると、陽菜には私にあげるための誕プレ探しを手伝って貰っただけだったらしい。

それと盛り上がっていたのは私の話で盛り上がったのだと。


 その話を隣で聞いている陽菜も首を縦に降り頷いている。


「ええぇぇ、じゃあ全て私の勘違いってこと??」

「そうなるな」

「でも、陽菜が好きだって」

「あーそれはだな、多分陽菜が好きな物から花が好きな物を特定しようと思って……あっ、元はと言えばなぁ!!」


 誤解が解けた事に安堵したのか、翔は急に嫌味が含んだような強気の口調に変わる。


「花があの時、曖昧な答え方したのが悪いんだからな」

「だ、だって私は心がこもってれば本当になんでも嬉しいって思って……」

「じゃあ心がこもってれば本当にな、なんでもいいんだな!」

「だからそう言ってるじゃん」


 それから翔は大きく深呼吸をした割には小さな声を吐き出した。


「……が好きだ……」

「え??」


「だから、は、花が好きだ俺と付き合ってくれ!!ど、どうだ?俺は全ての心を込めたぞ!」


 予想外の言葉が翔から飛び出し来たので、私は今日二度目の真っ白を味わった。


 白に色が浮かんできた時。

 私から出てきたものは、とても弱々しく余りにも覇気がなかったが、私の気持ちが全て詰まった言葉だった。


「は、はい。喜んで。私も翔が好き……」

 

 私は翔の胸に飛び込み、もう一度泣きじゃくった。


文章書く時の語彙力が欲しいです。

読んでいただき、ありがとうございました。

とても嬉しいです!!

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