社会の授業で寝るのは仕方ない 古事記にもそう書いてある
散々な目にあったぜ。まさか授業時間いっぱい先生に追いかけられながら延々トラックを全力疾走させられるとは思わんかった。
いや、死ななかったしこの程度で済んだことを喜ぶべきかもな。
にしても眠い。昼寝の途中だったし、今は古来より眠くなる授業ランキングトップ3に入り続けている社会の授業だ。今日は初回の授業で大した事もやってないし眠くなるのは仕方がない。そう俺は悪くない。……zzz。
「さて、私の自己紹介と今後の授業予定の説明は終わったが……まだ時間が余っているな。軽く中学までの復習といこうか。現代の我々の暮らしはある出来事をきっかけとしてそれ以前とは全く違うものになったわけだが、竜上!何か分かるか?」
んぁ?あー……全然話聞いてなかった。しゃあねえ。こういう時は正直に言っておくのが吉っと。
「分かりません」
「だろうな。初回の授業から寝るとは勇気ある行動だな。今後は寝るなよ。では鈴木、分かるか?」
「はい、先生がおっしゃっているのは西暦2000年に起こった【魔素】の噴出とそれに伴う異能者の出現の事かと思います」
「その通りだ。西暦2000年に突如として地球の奥から湧き出た魔素は実際にはすぐにその存在が認知されたわけではない。これも何故か分かるか? 鈴木?」
「はい。魔素は普通の人間には知覚できないからです。この性質から、魔素を知覚できる、体内に魔素を生成する【炉心】を持ち、本やマンガやゲームやアニメに登場するような【固有能力】と炉心から産み出された魔素を用いて様々な現象を起こす【魔術】を使うことができる常人とは異なる能力を持つ者すなわち異能者の出現によって初めて魔素はその存在を認知されました」
「素晴らしい。よく勉強しているな。これからも精進するように」
「ありがとうございます」
確かに凄い。ここは全国でもトップクラスのレベルの高さを誇る学園だが、この学園にも質問されてすぐにこれ程要点を押さえて簡潔な返答ができる人間はそんなに多くない……と思う。実際のところは知らん。
「今鈴木が言ったように魔素は異能者が現れるまでその存在を確認することができなかったので魔素の噴出も西暦2000年とアバウトな時期しか分かってないわけだ」
逆にそこまで絞れたのでも十分凄いと思うけどね。
「そして魔素と異能者の出現後、魔素を用いて稼働する魔動機械の発明による様々な分野でのブレイクスルー、初めて異能者が動員された戦争、いくつかの大規模なテロ、異能者による犯罪の横行した暗黒期間といった事を経て今日の我々の暮らしがあるわけだ」
――キーンコーンカーンコーン
「詳しい内容は先程説明したとおり今後の授業でやっていく。では時間がきたので今日の授業は終わりだ。挨拶」
「起立、礼、ありがとうございました」
「「「「「「ありがとうございました」」」」」」
これで六時間目が終わりっと。あと一時間で今日の授業は全部終わりか。次は……HRか。たしか寮の説明とかだったかな。しっかり聞いた方が良いな。
にしても凄いねぇ。もう誰かと仲良さそうに話してる人がいるなんてな。俺にはとても出来ないね。
ま、良いさ。友達なんかできるときには自然にできる。放課は十分しかないけど寝とこ。…zzz。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽
――キーンコーンカーンコーン
ん?あー放課終わりか。おっとHRは担任の紫雷先生の担当だ。シャッキリしとかないとまた酷い目にあうだろうから気を付けよう。
「起立、礼、お願いします」
「「「「「「お願いします」」」」」」
「さて、この時間はお前達がこれから三年間暮らす寮についての説明を行う。まずは資料を配布する。受け取った者からページの抜けや白紙のページ等印刷に不備がないか確認しろ」
はいはいどうもね。はい、どうぞー。ふむ、なかなかの厚みと重さ。ふむふむ、特に印刷の不備も無さそうだね。
「確認を終えたら資料は閉じておけ、まだ使わん。……全員確認を終えたな?」
はいはい終わりましたよーっと。資料を机の上に置いて先生の方を見てバッチリアピール。
「お前達も当然知っているとおりこの学園は全寮制だ」
寮生活を通して生徒のうんたらを育ててどうのこうのって理由だったかね。異能者の教育機関ではよくあることらしいね。
「学年毎に棟は分かれているが、それでも一学年240人が一つ屋根の下で暮らすわけだ。一人一人が快適に過ごす為には当然規則が必要になる。他者に迷惑をかけない為だけでなく、他者に迷惑をかけられない為にもこれから話す事を心して聞き、資料は三年間状態よく保存しておくように」
他人の為だけでなく自分の為にもね。先生良いこと言うね。
……ん?240人が一つ屋根の下?男女で寮が分かれてるわけじゃないの?……あっ、階で分かれてるタイプか。
いやいやいやいやいやいや、あっ階で分かれてるのかー良かったー、とはならないけどね。すっごい嫌な予感するし。
「では資料の三・四ページを開け。そこに部屋の間取りと寮の全体図が載っている」
おー!部屋かなり広いね。それにユニットバスじゃなくて風呂とトイレ別々だ!キッチンも有る!豪華~。
「部屋の間取りについては特に説明することはない。後で自分の目で確認しろ」
確かに聞きたい事も無いな。さて全体図の方は~。上の方の階は部屋しかないね。下の方は…おー!食堂!広い!
「食堂は食券式で朝食と夕食に利用できる。しかし当然ながら240人が一度に食事をとれる程のキャパはない。せいぜいその半分が限界だろう。気をつけることだ」
確かに240人はきついだろうな。でも食堂じゃないと食事が出来ない訳でも無し。部屋にキッチンも付いてるんだから自炊しても良いしどっかで食べて来るなり買って来るなりしても良い。
「次に大浴場だがこれはちょっとした銭湯のようなものだ。利用出来る時間が決まっているので資料で確認しておけ。覗きなんぞしようと思うなよ。対策がされてある上に発覚したら厳罰だ。ついでに私からの“指導”もしてやろう」
……ここまで言われて覗こうって思う勇者は居ないと思うけどネ!。
にしても部屋に風呂もあるのに大浴場まであんのかよ。あと男湯と女湯が有るんでやっぱり男女で寮分かれてないのは確定か。嫌な予感が増していくね。
「談話室、コンピュータ室、ミーティング室についても利用上の注意が資料に記載されている。確認しておけ。私から言う事は特に無い」
うんうん、確かにそこは良いんだけど問題は次に説明されるだろうコレだよな。普通の学校じゃ絶対無いもん。
「あと私から説明する事といえば、お前達も気になっている地下の設備についてだな。利用方法なんかは資料に書いてあるが何故こんな物があるのか聞きたいだろう?」
地下一階は分かるけど地下二階がね。意味不明ですわ。
「地下一階の鍛練場はお前達の休日や放課後の自主訓練に利用して貰う為だ。グラウンドや体育館も利用可能だが学園の在籍者数や雨の日にはグラウンドが利用出来ない事を考慮して造られた」
まあ、順当な理由ですわな。理解できる。
「寮内は原則固有能力と魔術の使用は禁止だが鍛練場の中では使用可能だ。魔術で補強してあるからな。あと空間も拡張してあるから結構広いぞ」
凄い金かけてるな。補強はともかく魔術で空間拡張した建物なんてめったにお目にかかれるもんじゃないのに。
「地下二階の決闘場は名の通り生徒同士の決闘に使用する為だ。寮則や校則があっても問題が起きるときは起きる。そして学園は生徒同士の問題に関して基本は積極的に解決の為に動く事は無い。可能な限り生徒同士で解決する事となっている。その手段の一つとして学園は決闘を推奨している」
はい!頭おかしい!何だよ問題起こったら殴り合いで解決しろって!アニマルかよ!
「詳しい説明は資料に載っているので省くが、決闘する両者の合意の下で学園に申請を出せば、教員立ち会いの下そこで決闘が行われる。観客席もあるから観戦も出来るぞ」
ああ、証人というか目撃者というかいた方が良いもんね…ソウダネ……ハハッ。
「毎年よく利用されているから何も無い時に一度は足を運んでどんな場所か確認しておけ」
良く利用されてるんだ……。なんて学園だよ。
「私からの説明は以上だ。ほぼ全ての事は資料に載っている。分からない事が有れば資料を確認しろ。残りの時間で必要な配布物を配布する。まずはお前達が家から宅配便で送った私物の受け取り票だ。名簿番号順に前に取りに来い」
何でも無い事のように終わらされてしまった。他の皆もほとんどの人がポカーンとしてるのに。
しかし学園に入学してしまったのだからもうしょうがないよな。切り替え、切り替え。自分が決闘に巻き込まれないように気をつけるしかないな。おっと俺の番だ。はいはーい。
「次に部屋の鍵と一緒に部屋番号と同室相手について書いた紙を配る。これも名簿番号順に前に取りに来い」
同室相手?二人部屋なのか。あー、そういえば学園のHPの寮の紹介のとこにそれは書いてあったな。他は『快適な暮らしができます』とかそういうのばっかりでろくな情報無かったけど。同室相手か、不安でもあるけど楽しみでもあるね。確か三年間一緒だったはずだから仲良くなれると良いな。
「えっ!? マジか?」
えっ!?何でそんな声でるの?そんな要素あったの?もしかして同室相手が女子だったとか?そんなわけないだろうけどね。このご時世にそんな事やろうもんなら多方面から色々と苦情やら何やらが大量に来てエライ事になるぞ。
「竜上! 速く受け取りに来い」
しまった!考え事に夢中になってた。怒られる!
「はいっ! すいません!」
ふぅ、セーフ。怒られなかった。で、俺の同室相手は~っと。
「ゑ?」
んー?おっかしいな目がイカれたのかなー?
《逆井明希 女》
って書いてあるんだけど。うーん目をこすってみても変わんないし、頬をつねれば痛いぞー。やっぱり目がイカれちゃったかなー?
「先生! アタシの同室相手男なんだけど! どういう事!」
「あっあの、わっ私も」
……残念ながら俺の目がイカれてる訳じゃないみたいだね
「ん? ああ、そういう事もあるな。入学試験の成績を基にして部屋割りをしたからな」
「おかしいでしょ! 何で男女分けてないのよ!」
そうだ!いいぞ!もっと言ってやれ!俺は勇気無いから何も言わないけど。
「そうです! おかしいですよ!」
「そうよ! そうよ!」
良いね女子達!その調子だ!オラ!そこで困った顔しつつちょっと嬉しそうにしてる男どもも続けよ!
「男女同室というのはさすがに……」
「俺達もう高校生なんですよ?」
そうだ!こういうのはな、フィクションでやるから良いんだよ。現実でやったらな、面倒な事ばっかりで絶対辛い事になるぞ!同室が可愛い子とは限らないしな!
おっ、アホな男どもも気付いたか!だんだん声が大きくなっていってる。他の教室も似たような状況みたいだな。隣からも凄い声が聞こえてくる。
いいぞ!もっとだ!もっと言え!
「黙れ」
ヒェ……!怖!なんて冷たくて重い声なんだ。皆黙っちゃった。
「お前達がこの学園を卒業後に入る世界の事を考えれば男女同室などではいちいち騒いでいられんぞ。いつでも男女で部屋を分ける余裕があるとは限らんしな。今のうちから慣れておけ。それに加えてこの部屋割りは成果もあがっているからな」
――キーンコーンカーンコーン
授業終わりのチャイムがこんなにも無慈悲に聞こえるのは初めてだぜ。
「以上でHRを終わる。今日は帰りのSHRは無しで掃除が終わり次第解散しろ」
「……起立、礼、ありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」