運命
今日も、さっさと畑仕事を終えると、昨日シェリーに言われた切り株広場に急ぐ。切り株広場は、森と村の境目にある少し開けた草原だ。
息を切らせながら、たどり着くとラグナが、先に来ていた。
まだ、シェリーとロンは、来ていないみたいだ。
「はぁはぁ、ラグナ早いね!」
「まぁな、何か大人達が忙がしいみたいで、今日の授業は、早めに終わったんだ。」
ラグナは、時期村長なので、週に2日だけ村の学校で授業を受ける僕らとは違い、個別に教師を招いて、村の運営に必要な事を勉強しているらしい。
「そうなんだー、なんだろうね?」
「よく分からないけど、森の中には絶対入るなってさ」
「ふーん。シェリーにも、言っといた方が良さそうだね!」
「お〜い。ラグナ、カエデ〜」
ロンが、やって来たようだ。
「遅れちゃってごめん。あと、シェリルちゃん、急におじいさんと一緒に、隣町に行くことになっとんだって!なんか、知り合いが具合悪いらしくて、暫く帰って来ないってさ!」
「まったく、言い出しっぺが、来ないなんて。でも、しょうがないね!」
「んー、じゃあ、今日はどうする」
「来たばっかりだけど、今日は、もう帰ろうか。なんか、皆慌ただしいみたいだし。」
「そうだなー、俺もそれがいいと思う。」
「僕も、もう少し家の手伝いあるから。」
なんとなく、何時もと違った村の雰囲気に、早めに家に戻ることにした。
途中で、リリアの好きなお花でも摘んで帰ろうかな。
二人と別れ、川沿いの道を歩いていると、目の前を何かが横切った気がした。
虫かな?虫の多い田舎村だが、前世も今も虫嫌いの僕としては、テンションが下がる。
まぁ、仕方ないかと思い、花を探していると、今度は右の頬に、何かがぶつかった。
「あたっ!」
「いった〜、この人間!こんなところで、ぼ〜っとして、邪魔で仕方ないわ!」
んっ、何か聞こえたような・・・
思わず、声の方を見ると、小さい羽の生えた女の子が、此方を睨んでいる。
「えっ、な、なにこれ?」
「えっ、あなた、私の事見えるの?!」
前世から、物語を妄想するのが好きではあったが、まさか、ついに幻まで見てしまうとは・・・
僕は、目の前の不思議生物をムギュッと掴んでみた。
・・・あれ、掴める。
「なにすんのよ!私は、高貴な水の精霊よ!そんな事したら、精霊王様に言い付けるわよ!」
「・・・・、精霊?」
「そうよ、精霊よ!」
「僕、目と耳がおかしくなったのかな・・・」
「何言ってるのよ!貴方に、精霊士の素質があるだけでしょ!都会じゃ、精霊士の学校もあるぐらいなんだから、そこまで珍しくないわよ。」
・・・まさか、精霊なんて存在がいるなんて、思いもしなかった。
僕の手の中で、小さな精霊様は、あい変わらずキーキーまくし立てている。
「いつまで、掴んでるのよ!そろそろ放しなさいよ!急いでるんだから!」
「あっ、ご、ごめん・・・」
ついつい、物珍しさに、固まってしまっていたようだ。
冷静に考えると、女の子を急に鷲掴みするなんて、かなり失礼な行動だった。
「急に、ごめんね、僕精霊て、初めて見たんだ。君は、とっても可愛いね。」
「な、何よ!おだてたって駄目なんだからね!」
「おだててないよ、本当にそう思ったんだ。ところで、何をそんなに慌てていたの?」
「!そうだ、あなたに構ってる場合じゃないわ!意外といい子そうだし、なんだか懐かしい感じがするから、教えてあげるけど、今すぐこの村を離れた方がいいわよ。」
そう言うや否や、精霊はすぐに飛び去ってしまった。
バビューンと音がしそうな速さだった。
「なんなんだ・・・大人達が、慌ただしいのと関係あるのかな?・・・とにかく、早く帰ろう」
不吉な予感がして、怖くなってきた。足早にどころか、全力疾走で、家までの道を走った。
せっかく、精霊が見える事実が発覚したのに、なんだかそれどころじゃない。
息を切らせながら、家にたどり着き、扉をあける。
心臓がドキドキする。
「はぁ、はぁ、ただいま。母さん、リリいる?」
「あっ、お兄ちゃんだ!お母さん!お兄ちゃん帰って来たよ!」
「カナデ‼よかった!今、探しに行こうと思ってたのよ。」
二人の姿を見て、少し安心すると、変な動悸も収まってきた。
「一体、何があったの?村の様子が変で、遊ばないで帰って来ちゃったよ」
「実はね、ちょっと前に、町のギルドから、連絡があって、大型の魔物が、この村を通る可能性があるそうなの。それで、避難指示が出るまで、自宅に戻って準備しておくようにて、村長さんから通達が来たの」
「大型の魔物?父さんは、どこに行ったの?」
「父さんは、昔ギルドに居たことがあったでしょ?だから、手伝いに行くって。」
僕の父のグレンは、母と結婚する前は、冒険者として、そこそこ活躍していたので、戦力として、手伝いに行ったんだろう。
「町から、騎士団が来てくれるそうだから、そこまで酷い事には、ならないと思うけど・・・二人とも、とりあえず逃げる準備をして。」
「・・・わかった。リリ、行くぞ、一緒に準備しよう。」
「はいなの。」
何事も、ないと良いんだけど…小型の魔物にしか、会ったことがないから、大型の魔物が、どれほど大きいのか、想像ができない。どんな、魔物なんだろう・・・
リリと二人、古るいリュックに、着替えや、薄い寝具などを詰め込みながら、考える。
一通り準備が終わった頃、村長から避難の通達が来た。
一度村の広場に集まってから、逃げるそうだ。
いよいよ、出発しようとした、その時、大地を揺るがすような、獣のの鳴き声が、聞こえてきた。