一章 転生
腹部に走った衝撃で、目が覚めた。
「にぃに、朝ごはんなの〜」
妹が、僕のお腹の上で跳び跳ねる。
「いてて!リリ分かったから!ぴょんぴょんしないで!」
「おね坊さんは、めっなの!」
「起きる起きるから〜」
ようやく、暖かくなってきた季節。
朝日が眩しい、何処からともなく、トマトを煮込んだ、
美味しそうな香りがする。
・・・あの時、僕が死んでしまってから、10年経った。
僕は以前とは違う両親の元に、再び生まれた。
仏教で言う、輪廻転生をしたみたいだ。
唯一、僕が人と違ったのは、前世の記憶を忘れずに、生まれて来てしまったことだ。
おかげで、小さい頃は、前世で死んだ事が受け入れられず、両親に大分迷惑を掛けてしまった。
ここ数年で、ようやく全てを受け入れる事が出来た。
今生の両親には、親孝行したいと思ってる。前世では、急に死んじゃって、両親や妹に、何もできなかったからね・・・
「おはよ〜、母さん朝ごはんなに〜?」
「おはよう、カナデ。今日は、トマトスープとパンにチーズ。」
僕の新しいお母さんは、セリナという名前で、ぽっちゃりした可愛らしい女性だ。金髪に緑の美しい瞳を持っている。
優しくて、暖かい自慢の母親だ。
ちなみに、妹のリリアは、そんな母さんの金髪と瞳を受け継ぎ、3歳ながら、将来が楽しみな美少女なんだ。
「なんか、豪華だね!どうしたの?」
「はは、今日からイモの収穫だから、精をつけて頑張れという事らしいぞ。」
父さんは、グレンといって、昔は冒険者をやっていたらしい。
逞しい筋肉は、僕の憧れだ。いつか僕も、あんな風にムキムキになりたい!
茶色の髪と瞳は、僕と同じ色合いで、優しそうな目をしている。
母さんいわく、クマみたいで、可愛いらしい・・・
「にぃ、早くご飯しよ!」
どうやら、妹が待ちきれなくなったみたいだ。
慌てて席に付くと、母さんが、魔法で水を注いでくれる。
驚いた事に、この世界には魔法があり、庶民でも生活魔法くらいなら、普通に使える。
王国民全員が、3歳で魔力検査を受け、才能のある子は、早くから国の管理の元で、教育されるらしい。
僕は、まさかの魔力0だった。魔法があると知って、わくわくしてたのに・・・
魔力の無いことを知っても、愛情を注いでくれる両親には、本当に感謝している。
「「「「精霊様、大地の恵みをありがとうございます。」」」」
食前の祈りを捧げ、早速食べ始める。
うん、やっぱり、母さんのご飯は美味しい!
あっという間に食べ終わると、父さんと一緒に畑に出る。
だいたい昼過ぎまで畑の手伝いをして、そのあと友達と遊びに行くのが、僕の一日の流れだ。
さっさと、農作業を終わらせて、友達の元に急ぐ。今日は、村の周辺を流れる小川で魚釣りをする予定だ。
小川に到着すると、妹のリリアと、友達のラグナ、ロン、シェリーが先に釣りを始めていた。
ラグナは、村長の息子で11歳。こんな辺境の村には珍しいイケメン。
ロンは、ぽちっちゃりした肉屋の息子で、9歳。おっとりとした性格で、よくラグナに、急かされている。
シェリルは、僕と同じ10歳の女の子。赤毛で勝ち気。前世で言うツンデレだ。この5人の自称リーダー。僕たち男組は、シェリルの命令で、よく無茶をさせられる。
「カナデ、遅いじゃない。早く、用意しなさいよ。誰が一番大物を取れるか、勝負してるんだから!」
「カナデお疲れ〜、今日は、俺が勝つよ。勝った奴には、賞品があるからな!」
・・・賞品?なんだろう?
ぼくは、そそくさと準備を始めた。勝負なら、負けたくない!
「にぃ、一緒にやるの」
小さいからという理由で、花を摘んで遊んでいたリリアが、僕の側によってきた。
「いいよ。でも危ないから、気を付けるんだよ。」
「わかったの!」
「あっ、カナデくん。餌捕まえてないでしょ?僕の分けてあげるよ。」
「ロン、ありがと!」
心優しいロンに、餌をもらうと川に糸を投げ入れる。
リリアは、僕の足の間に座り、瞳を輝かせている。
「!!釣れた!」
どうやら、ラグナが最初に釣り上げたみたいだ。
しかも、そこそこに大きな魚が糸にくっついている。
「くっ!ラグナなんかに負けるもんですか!絶対に勝ってやる!」
「いや、シェリー勝つのは僕だよ!」
「カナデは、以外と熱くなるタイプなのよね・・・あなたにだって、負けないんだから!」
「ちょっと、皆〜。大きな声出すと、魚がにげちゃうよ〜」
僕たちは、日暮れまで勝負を続けた。
結果、僕は4匹、ラグナ1匹、シェリル3匹、ロン2匹だった。
やった!優勝した!
「カナデ、凄いじゃん!」
「今回は、悔しいけど負けね。あ〜楽しかった!」
「カナデくん。おめでとう!」
「ふふふ、ありがとう!」
嬉しすぎて、思わずドヤ顔になってしまう・・・
「じゃあ、カナデ。賞品を渡すわ。目を瞑って、右手を出して。」
なんだろ、楽しみだな!
僕は、そっと腕を出す。
「いいわ。目を開けて。」
そっと、目を開けると、綺麗な赤色の石で出来たブレスレットが、腕にはまっていた。男でも付けられる、素敵なデザインだ。
「私が、拾った石で作ったの。おじいちゃんが、アクセサリー細工得意だから、手伝ってもらって。」
「とっても、気に入った!大切にするよ!」
「よかった。未来のカリスマアクセサリー職人の最初の一作なんだから、きっと将来、とんでもない値打ちになるはずよ!だからといて、売ったりしたら、呪うからね!」
シェリーは、祖父の後を継いでアクセサリー職人になりたいらしい。
この村周辺は、鉱物が豊富なので、割りと目指す人は多い。
まあ、普通の女の子は、職人なんて目指さないけどね。
・・・あれ、でも賞品がシェリーの手作りアクセサリーなら、シェリーが勝った場合は、どうしたんだろ?
「ちょっと、シェリル!こっちこい!」
「ラグナ、な、なによ!」
「(お前、賞品勝手に変えるなよ。俺らに、なんでも命令出来る券3枚セットだったはずだろ?)」
「(うっさいわね!カナデ喜んでるし、それくらい良いじゃない!)」
「(まったく、あげたかったんだろ、素直じゃないな〜・・・)」
なにやら、ラグナとシェリーが、隅の方でこそこそ話している。
まぁ、プレゼントなんだし、なんでもいいか。
「じゃあ、リリアも寝ちゃったし、僕たちは帰るよ。またな」
「おう、じゃあな」
「明日は、切り株広場に、集合よ!今度は、遅れちゃダメよ!」
「カエデくん、リリアちゃん、気を付けて帰ってね!また明日〜」
寝ているリリアを背負い、僕は歩き始めた。
「むにゃむにゃ、にぃに、大好き」
可愛い寝言だな、リリアは、お兄ちゃんが絶対守る!
決意を新たにしながら、川沿いの道を歩く。
前世とは違い、舗装もされてない剥き出しの土の道だ。
夕焼けを眺めながら、前世の友人達を思い出す。
突然の別れになってしまったけれど、僕はこの村で、もう一度大切なものをたくさん見つけた。だから、どうか彼らも、僕の死を悲しまないで、幸せな人生を送ってほしい。
カナデが、取り戻した平和な日常。
再び、穏やかな毎日を送っていたカナデくんでしたが・・・
次話では、再び悲劇が、彼に襲いかかる。