はじめてのフレンド
キャラクリエイトの真っ白な空間からまたもやホワイトアウトすると、ここは数多の魔族が所狭しと溢れた趣き高い噴水広場だった――。
「吸血鬼かあ。なんか強そうなにおいがプンプンしてるが、前衛向きだといいな」
あくまで俺は前衛で敵をバッタバッタと屠るプレイがしたいわけなのだ。これで魔術師系の後衛だったらどうしようか。
「にしても、色々な種族がいるんだな。鬼に魔族にモフモフにモフモフに竜人にモフモフに……」
なるほど、獣人系が多いような感覚である。たしかにビジュアルで俺も狼獣人を選びたい気もしたが、獣人族はほぼ常にケモミミとモフモフ尻尾がさらされているのである。自分が触りに行くのはいいが、触られるのは嫌だなと思ったので渋々選択肢から外したのだ。
「獣人系の『変化』はワンチャンありだとは思ったんだがな。……あっ」
『変化』で思い出したが、まだアビリティを解放していない。このゲーム、スキルといった類のものは一切なく。全てアビリティという能力に依存して行動をアシストする形式となっている。
また、レベルという概念は存在し、キャラクター自体の基礎レベルとアビリティ個別の熟練度レベルがある。前者はクエストや狩りなどで経験値を得て上げるのに対し後者は使用回数や特定行動、特殊アイテムの使用によって上げることが出来る。
「さて、『ステータス』! ……どれどれ」
語気をある程度強めて『ステータス』と発言することで自身のステータスメニューを中空に呼び出すことが出来るのである。これに関しては、ゲームソフト同梱の1ページしかない説明書に書いてあった唯一の項目である。『ステータス』の他に、フレンド機能やメール機能を使う『コミュニティ』とゲーム内外からアクセス可能な掲示板を使う『掲示板』がある。
名前:レイ (♂) Lv1
種族:吸血鬼
アビリティ:『選択してください』
所持金:1500G
称号:なし
選択可能アビリティ
『覚醒』『気功』『強化』『強靭』『俊敏』『治癒』『武芸』『吸血』『念力』
となっていた。アビリティごとの説明文は出てこないようである。これでいいのだろうか? おそらくクレームものだと思うのだが。間違って不向きなものや育てにくいものを選択してしまったら結構詰むと思うのだが。
「ふむ、ここは無難に身体強化に働きそうな『強靭』や『俊敏』あたりか、なんとなく戦闘力を底上げしてくれそうな『強化』か『武芸』あたりが、スタンダードな始め方なのだろうが。せっかくだし冒険してみるか!」
Sys:アビリティ『吸血』が解放されました。
お、システムメッセージはこんな感じで脳内に届くのか。なんか近未来的でワクワクしてくるな。ん、アビリティを解放すると説明文が読めるっぽいぞ。
『吸血』:同族とアンデット系以外の対象から血を摂取すると一定のHP回復効果と身体能力が向上するバフを得られる。また、対象が人界の人種族で清らかな異性であるほど美味しく感じ、バフ効果も高い。
「へえ、回復効果が望める身体能力を向上させるバフのオマケつきか。結構当たりと思うのは俺だけだろうか。まあ、当たりハズレは飲む血液の味にもよるのかもしれんが」
なかなかにクセがありそうなアビリティであるが、使いこなせばレベル上げが捗るかもしれない。
「説明書はアレだけだったしなあ、なにかチュートリアル的なものを受けたいところだが」
「おっ、兄ちゃん。あんたもチュートリアル受けに行くのか?」
「あ、ああ。でも場所が分からないんだ」
中年っぽいおっちゃんから唐突に声をかけられた。腹はぽっこりと出ているがガタイは良く見た感じ種族は竜人だ。だが少し違和感がある。
「兄ちゃんも見た感じレア種族だし一緒に行かねえか? 俺もレア種族なんだ。腹は太いがおっちゃんは龍人なんだぜ?」
「あっ、そうなのかどうりで他の竜人族と比べて違和感があると思った。竜人は大抵トカゲ頭なのに龍人は顔つきが人間に近いんだな。俺もレア種族で吸血鬼だ。名前はレイ」
「おう。こいつは失礼、おっちゃんの名前はタナカだ。もちろんプレイヤーネームだぜ? 案外誰も使ってなかったみたいでな。まあ、おっちゃんのことはおっちゃんと呼んでくれや」
タナカさんと……おっちゃんと仲良くなり、お互いがレア種族ということもあってかフレンドになった。気さくな人で全力でこのゲームを楽しもうとする姿勢が俺と同じだった。
「兄ちゃん、フレンドありがとな。さっそくチュートリアル受けに役場行こうぜ」
「役場……? ああ、ギルドな。おっちゃん道案内頼むぜ」
「おう。さっき散歩してたときに見かけたんだが、チュートリアル受けられるのを知ったのはついさっきでな。おっちゃんについてきんさい」
そして俺とおっちゃんは噴水広場を出てギルドへと向かう。なるほど、噴水広場から北にあるんだな。
「おっちゃん、チュートリアルが終わったら一緒にひと狩りどうだ?」
「おっ、そいつはおもしろそうだ。いいぜ! おっちゃんのアビリティが火を噴くぜ!」
なんともおもしろいおっちゃんである。