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ブリュン

 役所の前のベンチに座ってボーッと道行く人々を眺める。


 手を繋いで歩く親子。

 買い物籠を下げた女性。

 楽しそうに談笑している若者達。


(リアル過ぎて、ここがゲームだってことを忘れそうになるなー。風が気持ちいいぜー)


 そんな風に逃避しているのには訳がある。


 先ほどの美人眼鏡さんの説明、実は続きがあった。


(確か、私の職業適正が下忍になってしまったから、石工としては大成しない。そしてそんな私を受け入れてくれる石工の師も居ないだろうって言ってたな。)


 私はベンチの足元に落ちていたお石様を拾って、手の中で弄びながら考える。


(石工のスキルの中には腕力に補正のかかるものもあるって言ってた。出来たら石工のスキルは、ほしい。でも結局、下忍も石工も自力でなんとかしないといけない。どっちも誰も教えてくれない訳だし。)


 お石様をインベントリに仕舞いながらベンチから立ち上がる。


(だったら、悩むのは止めよう。そもそも、私は戦闘と冒険がしたいんだ!下忍のままでいいさ!)


「よしっ、スライムに突撃だ!」


 私は両手を上につきだして、叫ぶ。自らの迷いを振り払うため。


 ふと横を見ると、最近よく見るいつもの女性アバターさんがいた。そして、またまたクスクス笑わっていた。


(また、笑われてしまった……。しかし、今の私は一味違うんだ。決意も固く、スライム特攻の鬼となるんだ!)


 と思って、今なら恥ずかしくないんだぞと息巻く。

 しかし、結局行動自体は、いつものように逃げるように門に向かって走り出した。


 門につく。


「カムカムか。職にはつけたか?」


「あっ、ブリュンさん!」


 私は門番をしているブリュンの方へと歩み寄る。


「さっきはアドバイスとかありがとうございました。無事に職にはつけました。」


「職には、か。やっぱり珍しい職になったか?」


「っ!そうなんです。下忍になりました。」


「聞いたことのない職だ。」


 ブリュンは腕を組みながら答える。


「ええっと。忍者の見習いで、短剣で攻撃して、速さが少し速くなる、感じです。多分。」


 私はリアルの忍者のことも思い浮かべながら、推測混じりの答えを返す。


「ふむ。速さが速くなるのは、悪くないな。」


「そうですよね!私もそう思いました!スライムに攻撃当てやすくなるかなって。」


「それもだが、速さの速くなる職は珍しいぞ。」


「えっ、どうしてです?」


「さて、それはわからんが、一つ言えることはある。」


「はい。」


 私はブリュンの話しぶりの雰囲気が変わったことに少し身構える。


「これは何人か弟子を取った経験から言うんだがな、弟子には、その職の特性について理解させる、これが全てなんだ。同じ職でも獲得するスキルによって千差万別に変わる。しかし、根幹となるものが結局は全てに通じるんだ」


「えっと、雰囲気は伝わってくるんですが、つまりは?」


「カムカムの職の場合は、『速さ』について、ひたすら考えてみろってことさ。『速さ』とは何かを極めてみろよ。だいたい、カムカムは、またすぐ外に出て死に戻り覚悟の戦闘をするつもりだったんだろ。」


 私は自分の行動を見透かされたのが、恥ずかしくなりながら答える。


「見てたらわかりました?」


「当然。あれだけ短時間で何度も門から外に出るだけを繰り返してるんだ。楽しそうだったし、来訪者だから止めなかったがな。確かに戦闘で学ぶことも多い。だがな、せっかく職を得たんだ。少し向き合ってみろよ。」


 私はすぐには返事が出来なかった。しばし黙考し、ブリュンに向き直る。


「確かに、ブリュンさんの言う通りかもしれません。一つ、教えて貰えますか?町の中で激しく動ける所ってありますか?」


「ああ、場所だけなら兵士の訓練所が来訪者には無料で使える。道具やなんやらは有料だがな。」


「ひとまず動ければ大丈夫です!さっそく行ってみますね。」


 私はブリュンに場所を聞くと、急く気を抑え、しかし早足で訓練所とやらに向かった。


 (速さとは何か、か。)

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