受付嬢登場!
職業選択の終わった私は祭壇の部屋を出る。
受付に報告に行くように言われていたことを思いだし、先程のおじさんのところに向かう。
また、番号札を取って待つように手で示され、しぶしぶ番号札を取って待つ。
(お役所仕事かっ。あ、役所か)
何でゲームの中までお役所仕事なのかと運営を呪いつつ、ジリジリしながら待っていると、ようやく番号を呼ばれる。
先程までのおじさんと違い、背の高い綺麗系のお姉さんが受付で対応してくれるみたいだ。
眼鏡の奥の、切れ長の目が美しく、目力がすごい強い。どちらかと言えば、強すぎるぐらい。
NPCとわかってても、その目力に気押されながら、おずおずと話しかける。
「あのー。職業の選択が終わったので報告に……」
「来訪者のカムカム様ですね。初めての職業選択、おめでとうございます。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
「職業を得たあとに再度転職は試されましたでしょうか。」
「えっ、いえ、してません」
「そうですか。では、そこから説明いたします。」
眼鏡美人さんはそこで一度、眼鏡のブリッジ部分を、左手の中指で持ち上げ位置を直す。
その仕草で沸き起こる、無駄なお手間を掛けさせてしまうという、謎の罪悪感。
その罪悪感を抱えつつ、私は聞く姿勢を取る。
「まず、例外を除き、初めての職業を選択すると、その前後で選択できる職業に変化があります。」
「それはどういう……?」
「見ていただいた方が早いでしょう。」
眼鏡美人はそういうと、さっと机の下から台座の着いたオーブを取り出す。
「こちらは簡易版の転職のオーブです。実際の転職は出来ませんが、何に転職出来るか見ることが出来ます。触ってみて下さい。」
私はおずおずとそのつるりとした表面に触れる。
冷たくなめらかな手触り。
システムウィンドウが表示される。
〈現在の職業〉
・下忍
〈転職可能職業〉
・石工
「あっ、職が減ってる。」
「多くの方が、初めての職選択でそうなります。ほとんどの方は一度全く選択肢が無くなるのですが、カムカム様はよほど石工に適正があるのでしょう。」
眼鏡美人がシステムウィンドウを覗き込みながら説明してくれる。
私は意味もなくドキドキしながら、それを聞く。
(石工って、もしかしてお石様達を使ってスライム倒したからかな。そうだとしたら複雑だ。)
私がこっそりそんなことを考えている間にも説明が続く。
「そして、カムカム様の職業適正は、初めて選択をされた下忍が最適化されています。これは変わることはありません。石工にいつでも転職出来ますが、習熟の速度、完成度は下忍に比べて下がります。」
(うん?なんか今大事なこと言ってた?)
考え事していて少しばかり聞き逃してしまう。
これじゃあいけないと、説明に集中する。
「さらになのですが、通常の来訪者の方はまず、町で師となる方を見つけ、その方の指導のもと、初めてのスキルを獲得します。そして職業に着いた後も、その師の元で研鑽を積んでいきます。」
「私、師なんて居ないんですが?!」
驚いて思わず説明を遮って叫んでしまう。
「カムカム様は大変珍しい事例と言えますね。カムカム様の最初のスキルも職業も、少なくともこの町で獲得された方はいません。」
私は嫌な予感がしてくる。
「それって、つまりはどういうことですか?」
「カムカム様の下忍の職業の師を出来るかたが、少なくともこの町にはいません。」
眼鏡美人が眼鏡を左手で直しつつ、厳かに宣言したのは、更なる苦難の始まりであった。