リベンジ、スライム
一晩ぐっすり寝て、配給のペレット食を満腹まで食べた私は、意気揚々とログインした。
「ゆっくり寝て、食事できる時間があるってサイコー!」
(あ、またログインそうそう、叫んでしまった。)
そーっと回りを見回す。今日も人影は少ない。
(あっ、昨日と同じ人がまた、こっちを見てる!)
どうやら同じ人に二度目も目撃されてしまったようだ。
その方はやっぱりクスクス笑ってこっちを見ている。
昨日以上に恥ずかしくなって私は駆け出す。
向かうのは当然、昨日の門の方へ。
しばらく走る。
途中、拳位の大きさの石が落ちてたので、拾ってみる。
「あっ、拾えた」
思わず小さく呟く。
「アイテム名はどれどれ。」
アイテム名を見てみると『ただの石』と出た。
「そのまんまだけど、アイテムに設定されてるんだ。無一文だし、持ってこ。」
所持金がスタート時ゼロで、武器もロストした私の、新しい相棒が決まった。
そんなことをしていると、門につく。
昨日と同じ女兵士がたっている。
「おはよう、カムカム。早いな。」
「おはようございます!ブリュンさん!」
私は軽く会釈する。
「今日も外へ行くのか?」
私の会釈に軽く頷き返してくれるブリュン。
「はい、リベンジです!」
「そうか。気を付けてな。」
そんな他愛もない会話を交わし、私は一つ息を吐ききると、気合いを入れて門の中央のオーブに触れる。
「行ってきます!」
外に転送される。
一気に押し寄せる緊張。
素早く視線を左右に走らせる。
石を握った右手に力が入る。
(今度は油断しないぞ。)
左右の藪に注意してゆっくり進む。
左の藪が僅かに揺れる。
咄嗟に一歩下がると、ちょうど頭のあった位置をスライムが通りすぎる。
(あ、あぶねー)
スライムは、再び飛びかかってくる!
私は十分引き付け、振りかぶった右手の石で殴り付ける。
「はっ!」
ぽよんとした感触。
システムウィンドウに、「スライムに1ダメージ」と表示が出る。
(よし、初ダメージ!)
その瞬間の油断をついて、スライムが飛びかかってくる。
そして、顔面に貼り付かれてしまう。
咄嗟に右手の石で殴り付ける。
スライムがするりと避け、思いっきり自分の頭を石で殴ってしまう。
システムウィンドウに、「カムカムに5のダメージ。スタン状態」
私の動きが止まった所で、改めてスライムが顔に張り付く。
再び口の中へ侵入するスライム。
気がつくと、暗転。
私は、最初の広場に立っていた。
ガックリ膝をつく私。
(ま、またやられた。)
うなだれる私。
(しかし、今回はダメージを与えた!次こそは!)
私は拳を握りしめ、デスペナルティが消えたら再挑戦することを自分自信に誓った。
ステータス画面を確認する。
ただの石もロストしていた。
(サヨナラ、相棒。しかし、服以外アイテム全ロストとか鬼畜だろ)
(ひとまず、デスペナルティが消えるまでに少しでも何かしとこう。)
きょろきょろ回りを見渡す。
「こういうのは冒険者ギルドに行くのが定番だよなー」
そう呟きながら広場の周辺を回って探す。
「おっ、ここか」
看板に冒険者ギルドと書かれた建物を見つける。
早速入ろうとする。
入り口に立っているムキムキマッチョのスキンヘッドに止められる。
「おい、待ちな。」
「……なんですか?」
「ここは冒険者ギルドだ。」
こちらを睨み付けてくるマッチョ。
「ええ。入りたいんですが。」
「冒険者証、出しな。」
「……ないですが」
「じゃあ、とっとと帰んな。」
「冒険者になりたいんですが。」
「はぁー。これだから素人は。ここは、冒険者が利用する建物なんだよ。冒険者に成りたいなら、資格を満たして役所で冒険者証を発行してもらうんだな。」
マッチョはしっしっと手を振っている。
「役所ってどこですか?」
マッチョは無言で広場の反対側の建物を指差す。
私は軽く会釈して、役所に向かう。
役所に入ると、カウンターが並んでいる。
どうやら番号札をとって待つようだ。
しばらく待っていると、カウンターに呼ばれる。
おじさんがカウンターに座っている。
冒険者になりたいことを伝える。
「えー。ではスキルを拝見しますね。はい、まだスキルが一つもありませんね。これはどの職業にも着けません。また、スキルを手に入れてから出直して下さい。次のかたー。」
そう言って、追い出されてしまう。
広場に出てきて、ベンチに座る。
(な、なんなんだ、このゲーム。理不尽過ぎる!)
そのまま思わずベンチでしばらく項垂れてしまう。
(くそっ、こうなったらスライムに突撃してやるっ)
私は改めて石を拾うと、門に向かう。
ブリュンさんに軽く会釈して、門のオーブに触れる。
外に転送される。
警戒していると、案の定、すぐにスライムが飛びかかってくる。避けながら狙い済まして振りかぶった石で殴り付ける。
腕の振りの速度が遅いっ。ステータス半減が予想以上にきつい。
そのまま空振りし、体勢を建て直す間もなくスライムに貼り付かれて死亡する。
暗転。
最初の広場に立っている。
(うーん。振りかぶっていたら間に合わない、か)
私は考えながら新しい相棒となる石を拾う。
そのまま先ほどの戦いを考察しつつ門に向かう。
(こう、突き出す感じにしてみるか。)
歩きながら、エアで飛びかかってくるスライムを想定して、石を持った手を突き出す。
道行く人から生暖かい視線を送られる。
エアスライムに夢中で気づかずに、門までつくと、すぐにオーブに触れる。
転送される。
石を体に引き付けて構える。
(きたっ)
茂みから飛びかかってきたスライムに向けて、さっき練習したように石を突き出す。
「よし、当たった!」
システムウィンドウに「スライムに1ダメージ」
「ちゃんとダメージも通った!」
はね飛ばされたスライムが再び飛びかかってくる。
「あ、あれ?」
先ほどよりゆっくりとした速度で飛びかかってきたスライムに、タイミングが合わず、伸ばしきった腕にスライムが着地する。
そのまま、するすると腕づたいに顔まで移動するスライム。
顔面に覆い被さってくる。
「あっ、あばば、ぶくぶくぅ」
私はそのまま窒息して、最初の広場に死に戻った。