CroWn
リライト版ということで再スタートです。
以前読んでいた方も初見の方も、是非楽しんでいってください!
少女は王冠を被り、荒れ果てた大地を見渡す。
かつて多くの高層ビルが連なっていたこの街も、現在ではその影もない。
瓦礫は地面を覆い、柔らかな月光がそれを照らす。人が滅びた終末とはこんな景色なのだろうかと 、空想を抱く。
――もうどれだけ無防備になっても誰も襲ってこない。
敵がいなくなったと断定はできないが、少なくとも今日は、この一瞬だけは平和で空虚な時間であることは、穏やかな静寂が教えてくれた。
道路を走る車の音も、情報を流し続ける電光掲示板の音も、ざわざわと聞こえる多くの人の声も。何も、何も聞こえない。
その日、すべての戦いが終わった。
この世ならざる異能を持って生まれた人間『能力者』たちによる22年に及ぶ、戦争とも呼べるそれを終わらせたのは、たったひとりの少女だった。
そんな事実、一体どれだけの人が信じるだろうか。
いや、信じなくてもいい。覚えていなくてもいい。ただひとつ覚えていてほしいことは、多くの犠牲の上に新たな平和が築かれたということである。
このあとの世界はどう廻っていくのだろう。植えつけられた恐怖を背負いながら生きていくのか。もしくは何もなかったかのように明日を生きていくのか。できれば後者であってほしいと、静かに願う。
ふとその静寂を乱す人の気配を感じ、踵を返してその方向へ視線をやる。
背が高い、線の細い青年。伸びた紫色の髪は額を覆い、無愛想で大人らしい表情を見え隠れさせる。
世を憎むような切れ長の鋭い目は、少女の瞳を覗きこんでいた。
彼から見た少女は、もはや生きているか死んでいるかもわからないほどに疲弊して見えた。それでも、何かを成し遂げたという満足げな笑みを浮かべていた。
そんな少女に、何をして、何を考えていたなどと問うのは愚問であると直感し、別の言葉を探した。
「終わったんだな。本当に」
「はい。現状はこれが最善といえるでしょう。こんなに静かな夜を迎えられたのも、皆さんの努力のおかげです」
「長かったな。この平和と引き換えに、多くの仲間を失っちまった。落ち着いて弔うこともできなかったが、ちゃんと俺たちのこと、見てくれてたかな」
「ええ、きっと。例えそうでないとしても、きっと現在の私たちを見て、喜んでくれることでしょう。そうだとしたら、私は嬉しいです」
少女の頬笑みに青年は困ったように笑って応え、優しく、彼女を抱き寄せた。
小さくて華奢な身体。こんな少女が世界を救った? 冗談にもならない。
現に今、彼が少し力を加えると、彼女は壊れたパズルのようにバラバラと崩れ、形のないものへとなってしまいそうだ。こんな残酷な運命、受け入れられるわけがない。
だが彼は見た。彼女が世界を救う瞬間を。悪の根源を断ち切った瞬間を。彼女が真の英雄になった瞬間を。
「誰が何と言おうと、お前は真の英雄だ。誰かがお前を罪人だと罵っても、石を投げつけてきても、俺が守る。守ってみせる。だから自信を持て。お前は強い、それを忘れるな」
「はい。ありがとうございます」
英雄とは、常人では成し遂げることのできない偉業を成し、多くの人間に称えられ、後世に伝えられて初めて英雄と呼ばれる。
英雄が死してもなお、その名を語り続けられる。語り継ぐ人がいる。
しかし、この伝説は『決して語り継がれることのない物語』である。
22年に及ぶ長い戦い。2つの派閥に分かれた能力者たちの死闘は、ここに終焉した。
これは、とある王たちの物語。災いを及ぼす破壊の王。世界の在り方を考える創造の王。そして未来を見据える先導の王による大戦争。その終焉を語る、物語である――