魔女と絶望の村
ボットン村の光景はあまりにも異様だった。
井戸を汲むためのバケツ、窓枠、木の葉など、村のありとあらゆるものがうんちと化している。
うんち化したものが多すぎて、殆どのうんちはもともと何だったのか見当がつかない。
民家の中を調べてもクソまみれだった。この中には、元々人だったうんちも含まれているのだろうか・・・
「一体ここで何が・・・」
「クソッ、わからねえ・・・。もしかしたら噂の魔女の仕業かもな・・・」
「とにかく、生存者がいないか探してみよう」
「おう、そうだな」
俺とおっさんは二手に別れ、生存者を探すことになった。靴や衣服にうんちが付着し、蔓延するうんちスメルで幾度となく吐き気が押し寄せるが、村人どころか犬猫すら見当たらない。
(もうこの村は駄目か・・・)
そうあきらめかけ、引き返そうとした時、目の前に一人の少女が見えた。金髪青眼で、元の世界では見たことがないくらいの美少女だった。手には金属製の杖を持ち、糞塗りのローブ。頭には幾重にも積み上げられた巻き糞が乗っている。
(やべえ、あれ魔女だろ)
「まだ生き残りがいたとはな」
俺に気づいた魔女は、こちらを見つめながら不敵な笑みを浮かべた。
「ひぃっ!?」
俺は生命の危機を感じ、とっさに近くにあった小さな木造の倉庫に逃げ込んだ。
板と板の隙間から外を覗くと、己の強大な力に酔いしれるかのようにゆっくりとこちらに歩んでくる少女がいる。倉庫内の物は全てうんちになっているため、隠れる場所は一切ない。このままでは確実に魔法でうんちにされてしまうだろう。
(いやだっ!うんちになりたくないっ!うんちはいやだうんちはいやだうんちはいやだうんちはいやだうんちはいやだうんちはいやだうんちはいやだうんちはいやだうんちはいやだうんちはいやだ)
追い詰められ思考が滞る中、俺は昔恩師に習ったある言葉を思い出した。
~木を隠すなら森の中~
(クソッ、こんな時『かりんとう』になれたらっ!!)
気がつくと俺はかりんとうになっていた。
魔女が倉庫に足を踏み入れた時、倉庫内には大量のうんちの中にかりんとう一つ。当然俺を見つけることは出来ない。
「確かにこの倉庫に入ったはずなのだが・・・」
薄暗い倉庫で魔女は目を凝らし、隅から隅までくまなく見渡している。
その時だった。
「村民の仇いいいいいいいいいいいいいいいい!!」ドンッ
「ブヘァアッ」グシャアァ
注視の隙をつき、おっさんが後ろから魔女に殴りかかった。後頭部に強い衝撃を受けた魔女は、勢いよく顔から倒れ込む。
「おい!ブチオ!無事か?・・・・・・そんな・・・嘘だろ・・・」
多分おっさんは倉庫に入っていく俺を見て、助けに来てくれたのだろう。
ごめん・・・俺、かりんとうになっちまった・・・。
「この下等生物がッ!!」
突然、悲しみに暮れる俺とおっさんを切り裂くような怒声が気絶したはずの魔女から放たれる。すると、瞬く間におっさんがうんちになった。
(おっさん!?)
「このクソ女は俺に寄生されているだけで、本体は頭の巻き糞だともわからないとは。馬鹿なやつめ・・・」
そう言うと巻き糞に寄生された少女は立ち上がり、倉庫の出口に向かい歩き始めた。
(クソッ、よくも村民やおっさんをっ!!ゆるさねえええええええええええええええええええええ!!!)
怒りで頭が沸騰する中、かりんとうの変身が解けていた。
俺は後ろから少女に駆け寄り、頭の巻き糞をはたき落とした。
巻き糞は地面にべチャリと打ちつけられたが、まだ原型が残されている。
「このクソ野郎、人間様を舐めやがって!」
「やっ、やめてくれぇ!」
俺は哀れにも崩れかけている巻き糞に連続ストンピングで追い打ちをする。
「これは村民の分ッ!」グチャッ 「ぐはッ」
「これは金髪ロング青眼美少女の分ッ!」グチョ 「うぐッ」
「これはおっさんの分ッ!」グチッ 「やめっ」
「そしてこれはッ!せっかく異世界転生したのにうんこまみれな俺の分だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」バチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!! 「うグァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
完全に崩壊したうんちは淡い光を放ち、消滅した。同時に村は浄化され、村中のうんちが光りはじめた。すると、見る見るうちに元の姿にもどっていき、村の平穏は取り戻されたのであった。