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平凡な人生

作者: 北本和久

 朝だ。いつもと同じ、平凡で詰まらない僕の一日がまた始まる。憂鬱だ、と愚痴っても仕方がない。朝食を作るのは面倒くさいので、マンションの向かいにあるコンビニで何か買うとしよう。これも毎朝の事だけれど。

 服を着替えて部屋を出る。コンビニはマンションのすぐ前だ。エレベーターで四階から一階まで下りて、玄関の自動ドアを抜けて上を見上げる。信号は青。コンビニの中から人が出てきてドアも丁度開いた。歩調はそのまま、ノンストップで横断歩道を渡ってコンビニに入る。いつもの事だ。サンドイッチに野菜ジュース、定番の組み合わせは飽き飽きだが、栄養バランスを考えるとこうなってしまう。しかし、今日は思い切って照り焼きチキンサンドにした。新作だ。ちょっと誇らしい気分でコンビニを出る。入ってくる客がいて、タイミング良くドアが開いた。こんな些細な事さえも嬉しく思えるほど気分が良い。

 公園のベンチでサンドイッチを食べ、駅に向かって歩き出す。自動改札を通って丁度ホームに入ってきてドアが開いた電車に乗り込む。乗る車両も混み具合も毎日ほぼ同じ。「これで良いのか?」とぼんやり考える事さえ日課になっている。

 駅に着いて、電車をおりて、歩いて十五分ほどの距離にある会社に向かう。時間が勿体無い気がして、いつもスマートフォンを取り出してニュースを検索する。勿論、歩きスマホが危ない事はよく分かっているから、内容にのめり込んで周囲への注意がおろそかにならないように気を付けている。自慢じゃないが今まで人にぶつかったこともないし、横断歩道で車に轢かれそうになった事もない。むしろ、少し立ち止まってゆっくり記事を読みたい時もあるのに、横断歩道も線路の遮断機も信号はいつも青でスタスタ渡れてしまう。

 そろそろ会社に着くなと言うところでスマートフォンをポケットにしまう。上司や同僚にみられるとまずいからだ。代わりに財布から社員証を出す。僕の勤める会社は社員証が社員入り口のキーにもなっていて、入るときは自動ドア横のカードリーダーに社員証を通すとドアが開く。もっとも、毎朝タイミング良く誰かが先に開けた後に付いて一緒に入ってゆくので入社以来一度も使ったことが無い。社員証を取り出すのは一応念の為と言うだけだ。今朝も立ち止まる事はなかった。

 僕の仕事は会社のIT管理。人がいっぱいいる営業部や技術部のオフィスを横目に見ながら、長い廊下の先にある人気のないサーバー室に向かう。扉を開けるには指紋認証が必要だ。パネルに手を伸ばすと、触れる前に扉が開いた。いつものタイミングだ。

「やっ、おはよう!」

唯一の上司である技術主任がちょうど中から出てきたところだった。

「おはようございます」

頭を下げながら、そのまま脇をすり抜けてサーバー室に入った。自分のデスクに座ってPCを立ち上げてディスプレイに向かう。いつもと変わらない一日が始まった。

 午後五時五分前、PCのシャットダウンを始める。画面が真っ暗になったと同時に終業のベルが鳴る。

「さぁ、帰ろう」

呟いて腰を上げた主任と同時に僕も立ち上がり、後に続いてサーバー室を出る。基本的に僕の職場には残業が無いので、毎日こんな感じで仕事が終わる。気楽でストレスや疲れはないが達成感もない。

 二人とも無口な性格だ。お互い会話することもなく、僕は主任の後について会社を出てすぐに別れた。寄り道するような用事もない。いつも僕は家まで最短ルートで帰る。つまり出勤する時と同じ道だ。歩調を変えずに歩き続け、駅の改札を抜けて、丁度ホームに入ってきた電車に乗り込む。降りたら家までスマートフォンを見ながら歩き、信号で立ち止まる事すらなくマンションの向かいのコンビニに入って夕食を買う。この時間はコンビニも客が多い。同じマンションに住んでいる人も次々と帰ってくる。どちらの扉も開きっぱなしでコンビニからエレベーターまでは一直線。止められた事など一度もない。

 部屋に入って、バラエティー番組を見ながらコンビニで買った弁当を食べ、やがて眠たくなってきたらベッドに入る。

 眠りに落ちる前、いつも思う。あぁ、今日もまた一日が終わる。人に自慢できる事も特別な事も何もない。毎日同じ道を往復し、立ち止まる事すらなく歩き続けて一日が通り過ぎてゆく。僕の人生は何と平凡で詰まらないのだろう。誰だって一つは才能や特技を持って生まれてくるはずなのに。神様、もし出来るなら答えてほしい。僕に才能をくれたとしたら、それって一体何なんですか?


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