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2話 影

 消えたくない。只。それだけだった。自らが何者で有るかも分からず、どういった存在なのか。

どこで生まれたのか。生まれたと言っていいかも分からない。他の存在と比べて自らの姿は異形だと言える。

だから。生まれた。と言うよりは発生した。と言うべきなのかも知れない。


 消滅えかかった、消滅に近づいた体を引きずりながら、明るく照らされた街を這いずり回る。いつからそうなったのか。或いは始めからそうだったのかも知れない。


昔の記憶や思い出なんて言う物は無いが、それでもいつの間にかこの町は煌びやかな光に、包まれて我々の生きる場所が無くなっていく。這いずる体が光に蝕まれて影の身体が散り散りに霧散して大気にその残滓を漂わせながら消えた。


、、、忌まわしい、陽の光。憎ましい。恨めしい。しかし、陽光が在ってこそ存在出来る存在の身。光在ってこその影。それは分かっている。理解できる。そういう存在なのだから。


薄暗闇で息をし、人の暗い性分を餌とし、病みを喰らい闇に戻る。我々が一体何者で、どういったモノかは知らない。ただそう生きていくだけなのに。生きられない。全ては生きる為には避けては通れぬ光の所為で。


見渡す限りに有象無象が行き交う往来はやはり羨ましい。その輪の中で息が出来たらどれ程に良い事か。

だが出来ない。全てはわが身の為に。


 黒い影の前には、陽が差し、多くの感情が行き交いながら消えていく。それを影は日陰の中でただジッと見つめるしかなかった。


 影が生きる場所が減っているのは何も、太陽の、陽の光の所為では無い。ただ、魔法が栄えて光の効率的な使い方を学んだ人類が、未知の。魔法を基にした機械を得た事により徐々に進歩しているのが原因だと言えた。


 光無くして影は生きてはいけない。強い、強烈な光にこそ陰惨な影は映える。しかしその眩い閃光が影を蝕む。蝕まれ、僅かに残ったその影にこそ、陰惨な生き場が、影の生き場が有った。

その苛烈なジレンマが、限界に達し、ついに影は。陽光に身をさらそうと。


消滅を選んだが。


が。


出来なかった。


生だの死だのの概念は無いが。それでも怖かった。消滅えるのが。羨ましかった。何不自由なく生きられる人間が。妬ましい憎たらしい。苦しい。辛い。そのドロドロとした感情が極まる瞬間、影は感じた。


只。感じただけ。深淵しんえんの底の、暗闇の、閃光の、まとわりついて、嗅覚をそっと誘惑し、惑わせ、引きずり込むような。二度と戻れない場所に誘うような、そんな何とも言えない気配が。


ただ、後ろから。そっと。手招きされた気がした。


「コッチニオイデ」そう言われた気がした。


その気配に縋る想いで助けを求めた。消えてしまう。助けて欲しい。消えたくない。そんな願いを込めて気配のする建物の扉を引き開けた。


何が有る訳でもないその建物は、入った瞬間に濃密な魔法とも言えぬ想いの塊のような物が渦巻いており心地良く影を包み込んだ。


 想いの塊。憎しみが煮詰まった様なドロつく呪詛に似た空気。相反して希望を持たせる様な明るい雰囲気がこの場所の特異性を如実に物語っている。真面では無い存在の影にも分かる。


 この場所は真面では無い。消滅の危機と言う恐慌に支配された考えでもそれだけは分かった。消滅したくない。一度消える事を選択しておきながら、消滅を拒み縋り付いた。気配ながら気配ならざる実体を持った誘いに乗り。縋った。ならば此処でダメなら今度は消えよう。潔く、消滅しよう。人ならざる身でありながら最後は人の様に美しく。気高く最期を迎える。陽の元に歩こう。だから。これで最後。


 滑り込んだ室内に今にも消えかけた影揺れる体で、言う。何も無い棚の先に居る目深にローブを被った小さき人間に。助けてくれと。小さき者はただ不敵に。笑った。


「いらっしゃい黄昏の空トワイライトアトモスフィアへようこそ。 今、回復薬ポーションタイプが7本しか置いてないが、安心してくれ。

ご要望には応えよう。それで、お支払いは現金支払いのみだが大丈夫か?」



 現金、とは人間が使っているものなのだろう。そう影は辺りを付けて震えた。そんな物は持って無いからだ。今の今までそんな物を使う生活をしていなかったから無理のないだろう。

 闇に潜み、闇に蠢き、闇を彷徨う。それが今までだった故に。

影はどうするべきで有るかを考えた。






「おい、凪。何なんだコレ。一応客だと思ったからああ言ったけどさ。アレ人間じゃないよな」


 オレは店に入ってきた揺らめく影を笑顔のまま、声を潜めて凪に聞く。何だアレはと。モンスターか何かか。しかし凪は否という。


「多分そう言うのじゃないと思う。もっとあやふやなモノ」


きっとある種の現象や、噂話から派生し発生した怪異ではないかと。凪はそう言う。


怪異。全く訳の分からないものが来たもんだ。オレは溜息を一つ。


この影を定義上怪異として、一体どうすれば良いのか。勿論来店し求めている物が有る以上客なわけだが。

厄介である。非常に厄介。まさか商品が殆ど無い状況下で無いものを頼まれるとは。


しかも人間では無いと来ている。お求めの品は闇。頭が痛くなってきた一座はチラリと盗み見るようにして影を見やると震えたままの影は揺らめき、影を散らしながら少しづつ霧散している。


あれの力が分からない以上下手に刺激して暴れられでもしたら、どうなるか分からない。しかしながら対応しない訳にはいかないがどうすれば良いのかが全く分からない。


「なあ。お茶とか出した方が良いのかな」


下を向いて絶対に影に顏を合わさない様にしている凪は俯いたままだ。コイツ接客しない気だ。何が何でも対応しない気だ。


「おい、凪お茶出して来いよ」


対応する気が無いのならオレが行くしかない。そのため凪に飲み物を持ってくるように言うと。


「アレ、口無いけど。どうやって飲むの」


その一言にオレは頭を殴られた様な衝撃を感じた。確かに口が無い。と言うか体事態があやふやな奴に茶を振る舞うなんて事が出来るのか。と言うか凪に言われて気が付くのもどうかと思うがコイツは口が無い。

それどころか、身体と呼べるものが無い。空中に浮きながら闇にも似た影を揺らめかせ空間にその細い影を這わせている。見ようによっては腕に見えない事も無いがこれを腕と呼んで良いものか。


「ナニモナイ。ドウスレバイイ」


感情を見せない無機質な声色で語りかけられ、身を竦ませてしまうが代金の事を言っているのだと分かり凪を見やるも。全く顔を合わせようとしない。


「金が無いと。じゃあ仕方ないな。身体で支払ってもらおうか」


「!? 一座は守備範囲が広い……!」


「違う!! そうじゃないぞ馬鹿!! オレが言いたいのは労働で支払えって事だ」


オレがそう言うも凪は目を丸くしているだけで全く分かっていない様に思える。

凪は考える素振りを見せると躊躇いながら口を開いた。


「つまり、愛人になれと」


「お前は一体何を聞いてた? 一回お前はスピリタスに頭の中を見てもらえ。絶対に医学的な大発見が有る筈だ。新しい不治の病か何か」


「流石に私も一座の趣味を肯定できない」


 凪と言う女の子は口を開きさえしなければ十分、十二分過ぎる程に容姿が優れていて見眼麗しい貴族の令嬢と並べても遜色無いくらいに可愛い筈だが。どうも頭の中は腐っている様で更には花が咲き乱れているようだ。どうやればこのチャランポランな娘の頓珍漢な考えを矯正するかを考えて。


「いや。もういいや。凪お前はスピリタスを呼んで来い。良いか余計な事は言うな。もう一回言うぞ?

余計な事は言わずにスピリタスに客が来た事を伝えるんだ。いいな」


止めた。多分この女の子は死んでも治らないのだろう。きっと頭の中身は腐った味噌が詰まっている筈だから。


 凪は分かった。と鈴が鳴る様なか細い声でそれでいてハッキリと返事をすると俯いたままスピリタスを呼びに行った。アイツ結局あの影に一回も視線を合わせること無く奥に行ったな。


再びオレは影に視線を合わし、影に問うた。


「で。アンタは一体何者なんだ。それが分からなきゃどうしようも無いぞ」

「ワカラナイ」


「は?」


「ワカラナイ。ワレラハムカシヨリズット∏ スル。ナニモノカモシラズ。ドコニイクニイクノカモシラナイ」


「あ? 聞き取れなかったぞ。なんだって」


 影が喋る内容が一部聞き取れず、聞き直した。なんか途中でキュルキュルとしか聞こえず、片言で有るがゆえに何言ってるか分かり難い。


 影がもう一度説明してくれる内容をかみ砕いて言うと。曰く、何者か分からず、昔から居て、どこに消えていくかも分からない存在だそうだ。しかしながら、生きていくには暗闇が必要で、昨今のご時世では生きて行くにも辛い。だから。


「死のうとしたが死にきれず此処に来たって訳か」


 纏めるとこんな感じで若干頷いた様にも見えたからこの解釈で合っているのだろうが。分かりにくい。

それにめんどくさい。何でもうちょっとまともに喋られないのか。


「その喋り方さ、なんとかなんねぇかな? すげー聞き取り辛いんだけど」


「イマノママデハムリダ。セメテスコシデモチカラガモドレバ」


何だろうな。力が戻ればと言っている筈なのにこの力と書いて能力と読ませる感は。少年漫画のワンシーンを見てる感じだ。


「ま、まあ力さえ戻れば、つまり影なり闇なりを吸収出来れば何とかなるんだな」


応。と首肯(したように見える)して影は揺らめく。伝わって喜んでいる様に言えなくも無いが、オレは頭を抱えたくなった。


 ご都合主義過ぎるだろうと。何だ。闇を取り入れると力が戻るって。魔王か。邪神か。ハッキリ言ってファンタジー小説の主人公が「クッ!! 聖なる力が足りない……!」って言ってる最中に都合よく仲間が助けてくれて、某食品系顔面脱着式ヒーロー的に友情パワーで敵を倒す並みのご都合主義は。


影だから闇を取り入れると戻ります。しかも、もしかしたらパワーアップするかも……☆みたいなフラグまで見え隠れしやがる。もうやる気が一気に下がってきている。早く来ないかなスピリタス。


「デ、ドウナンダヤミハアルノカ」


 痺れを切らした様に苛立つ影は、一座に詰め寄る。闇は有るのか。なんともあやふやな質問に答えあぐねてしまう。あると言えばどこにだってあるし無いと言えばどこにもない。しかし用意できない事は無い。


「勿論用意は出来る。ただアンタの支払い次第。つまりはアンタの労働次第だ。と言うかアンタにゃ悪いが何でこんな魔法屋に入った。闇が欲しいなら外にあるし、今ないなら夜を待てばいい。それなのに」


どうして店に入った。オレの問いに影は身を揺らせ、千切れて消えていく体を引くと。


「トテモナツカシイニオイガシタ」と答えた。


 昨今は光が増えて、純粋な闇と言うモノが無いらしい。それ故に力が衰えてまともに回復する事も出来ないと。消えたくはないが消えて行く定めなのではないか。とそう思ったと。しかし消えたくはない。


 何度も聞いたその台詞は。感情の無い言葉の中で唯一、感情が垣間見えた。

 消滅したくないと思っていると、不意に声が聞こえた気がしたのだと言う。その言葉に思い当たる節がありながらも、情報収集の為に話を聞いていると。


「それが客か、一座。また随分と変わった客だな」


 背後から声がかかった。振り向くとそこにはスピリタスが佇んでいた。その姿は店の内装に良く似合っていて、オレが店主と言われるよりスピリタスの方がと言われても納得してしまいそうだ。


 スピリタスは癖のある髪を掻きまわすとオレに説明を求めてきた。


「一体どう言う状況だ。凪の説明では何一つ分からん」


おかしい。確かに凪には余計な事は言うなと言ったがそこまでだった。それなのに。


「どう言う事だはこっちのセリフだ。凪から何も聞いてないのか」


スピリタスは苦々しげに顔を歪める。


「なんでも。影の怪異をお前が囲って愛人にして毎晩楽しむのだと」

「はぁ!? 凪。お前……」


犬の糞でも踏んだ顔をして俺を見ているスピリタスから顔を背けてスピリタスの後ろでジッとこっちを見ている凪を睨むと。


「何も間違った事は言っていない」


グッと親指を突き立て、解かってるぜアニキと言わんばかりにオレに合図を送っている。その無表情ながらに晴れ晴れとした顔が無性に殴りたくなるのは仕方ない事だと思えてくる。


「違う。何もかも全部違う。全部凪のフィクションだ。オレはただアイツが金を持っていないって言うから代わりに警備でもやらそうと思っただけだ」


ほう。とスピリタス。


「あの手の物はたまに見かけるが案外街に落ちている硬貨を拾える思うが」


どうもスピリタスはあの影の類を知っているらしく、それなら話は早いとオレはスピリタスに相談する。


「どうだ。闇を御所望な訳だが用意できるかね。スピリタス君」


無駄に尊大ぶって言うオレにスピリタスは鼻で嗤う。


「何を言っている。私とお前が居て出来ない事は無い。何せお前は」


世界の一端と同化しているのだから。そう言った。


「ならば、我々に出来ない事など無いであろう」


随分と遅くなってしまいましたが。どうも狐屋です。


続きの話には、まあ色々と書きたい事や書かないといけないなみたいなのは大まかには決まっているのですが、実際あんまり考えすぎると書く時に楽しみが減るので。出来るだけ早くに次話投稿したいと思ってます。


では、楽しみにしちょってよ。とお国言葉で言わせて頂きまして。

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